六話
長くなったので分割投稿
ピピピピピピピピピ…
体を起こし、目覚ましのアラームを止める。時刻は六時半を示していた。
微妙な時間だ。頭の中で、弁当を作るか、何か買うか考え始めた。
夜鷹自身も何をやっているかはよく知らないが、両親共に研究者で仕事が忙しいらしい。その為、二人共自宅を離れ別の場所で暮らしている。いわゆる単身赴任ではなく、単身居残り、というやつだ。その為、掃除洗濯料理などの家事は全て自分で行っている。
ご飯は朝食の分も含めて昨晩のうちに炊いてある。昨日の豚汁が残っているので朝食はそれで済ませればいいだろう。問題はおかずだ。冷凍でもいいけれど、それは個人的にあまり好まない。6時だったらささっと3,4品作ったんだが。ただ、やっぱり自分で作ったほうがコスト的にいいわけで・・・。
一般的な主婦が悩みそうなことを悩んだ末、朝食がご飯と豚汁だけじゃなんか寂しい、と思い今日は弁当を作ることにした。時間はあまりないので1,2品作ってあとは冷凍食品だが。
そう決めるとベッドから降り台所へと向かう。冷蔵庫の中身を確認し、キャベツやニンジンなどの野菜が余っているのを見て野菜炒めを作ることにした。
後は・・・、卵がたしか残ってるから、早めに使い切るために卵焼きでも作るか。
今日の献立を決め冷蔵庫から必要な分だけ食材を取り出す。さっと野菜をいため、野菜炒めを完成させる。次に、野菜炒めで使ったフライパンに卵を敷く。油は野菜炒めのときに使ったのが残ってるので新たに足すことはしない。ちなみに夜鷹は、卵焼きには砂糖をつかう派である。
完成した2品を弁当の分だけ取り分けて、残りはお皿へと盛り付ける。冷蔵庫からいくつかの冷凍食品を取り出し、作った2品も含めて弁当箱に詰め込んでいく。
弁当を詰め終え、テーブルに着く。ご飯に豚汁、野菜炒めに卵焼き。一般的な日本の朝食である。
「いただきます。」
手を合わせ、食べ始める。自画自賛するわけではないが、まあまあの出来である。
「ごちそうさまでした。」
食べ終わった食器は洗って干しておく。こういう食器類は溜めておくと、後々面倒なのだ。
夜鷹は別に家事を行うのが好き、と言うわけではないがないが、嫌いなわけではない。どちらかと言えば汚いのが嫌いなのである。
自分の部屋に戻り制服に着替える。脱いだパジャマは洗濯機へ。さすがに時間がないので、洗濯機を回したりはしないが。
鞄と弁当を持って玄関で靴を履く。時刻は7時半を少し過ぎたくらいだった。
「行ってきます。」
玄関にカギをして、誰もいなくなった家に挨拶をし、学校へと向かった。
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国立東京情報大学付属、電脳情報高校。
2020年創立のこの高校は、東京23区から離れた日ノ出町付近を開発して作られている。
中高一貫校で、最新の設備、教育システムがそろっており、総生徒数は現在3千人を超えるマンモス校だ。その分偏差値も高く、入るのには倍率5倍の試験を潜らなければならない。
ただ一つ、この高校が普通の高校と違う点が存在する。
それは、この高校が、大規模VRMMORPG「The Garden of Eden」、通称、「エデン」を攻略するために作られているいうことだ。
学科は、情報技術科、情報薬学科、情報工学科、情報経済科、そして攻略科である。
情報技術科はプログラミングや、新たな解析装置や記録媒体の開発などを主に行う。
薬学科は、エデン内に生えている植物を用いて新たなポーションや現実世界で使うことのできる新薬の研究などを行っている。
工学科は、プレイヤーの武器防具はもちろん、現実世界ではコストがかかりすぎたり、材料が貴重で作るのが大変なものをエデン内で作成、現実世界での製品化を目標としている。
経済科はプレイヤーたちによって集められた「情報」を世界に正しく流通、管理をさせるための学科だ。
そして、攻略科は文字通り、いまだ10分の1も未探索であるエデンを探索、新たな「情報」を発見するための人材を育成する場所だ。
すでにこの高校では実績を上げている生徒が多くおり、企業からの引く手もあまたである。
その中で夜鷹は攻略科へと通っている。
本来夜鷹は情報技術科、または情報薬学科へと行きたかったのだが、まあ入学までに様々なことがあり今に至る。
「情報の公開をしろー!」
「学校関係者のみの特権をなくせー!」
「このチートどもー!」
いつも通り学校の外壁でデモを行っている奴らを横目に、生徒証を正門についている読み取り機にかざす。
「生徒NO.005710、影峰夜鷹、認証しました。」
無機質な機械の声がし、カシュ―、と音を立てて正門が開く。
敷地内に入ると三棟の校舎が見える。その中の第二棟、四階2-Aが自分の教室だ。だるいくらいの長い階段を登り、廊下を歩いて向かう。
「今日はどこ探索する?」
「あー、今日は部活の面子と行くからパス。」
「昨日さー、突然ワイバーンが沸いてさー。」
普通の学校じゃあり得ないような会話が教室から聞こえてくる。まぁ、ここではこれが普通なのだが。
ドアをあけ中に入ると同時に周りからの視線が集まる。その視線はどこか不自然、いや一部のものは明らかに嫌悪の目を向けていた。
これも俺にとってはいつも通りのこと。それらを無視し自分の席へと向かう。窓際の五列目そこが俺の席だ。
自分の席に着くと、俺に視線を向けていた奴らも元の通り再び話を始める。
「おっす夜鷹。」
授業の準備をしていたら同じクラスで、学校での数少ない友人、佐藤海斗が話しかけてきた。
「ああ、海斗か。おっす。」
「なあ夜鷹、今日の放課後暇か?」
「断る。」
「って、おぉぉいっ!まだ何も言ってねえだろうが!」
だいたいこいつの頼みは厄介なものが多い、それに今日は論文を書かないといけないのだ。厄介ごとはさっさと断るに限る。
「今日は絶対に無理。あのダメ教師が伝え忘れてた罰課題の論文の提出期限が明日なんだよ。」
「あ~・・・そりゃドンマイだな。二ノ宮先生は外見だけはいいんだけどなぁ~。」
「あれのどこがいいんだよ・・・・。」
友人の的外れな言葉にげんなりする。
「で、話は戻すけど、また今度でいいからちょっと頼みたいことがあんだよ。」
「何だ、急ぎじゃないのか。」
「まあ、何だ、話すとちょっと長くなんだけどよ、」
海斗の話をまとめるとこうだ。
電脳東京からちょっと離れたところにあるテンシェン霊峰へと普段とは違う道で向かっていたところ、途中にある川にほんの僅かであるが霊水が混じっているのに海斗が気付いた。霊水は山頂に存在することが多いが、その川は明らかに山の間の谷を流れていて、霊水など本来混じらないのを疑問に思って、その川を霊水が混じっている方向へと遡っていったところ、いかにも何かありそうな洞窟を見つけたそうだ。テンシェン霊峰のMOBのレベルは高いため、海斗は所属するギルドのメンバーと相談し、いくつかのギルドと合同攻略することにしたらしい。そこで攻略を始めたらしいのだが、入り口にてワーム系のMOBが突然沸き、それに驚いた後輩の一人がバカなことに洞窟の中だというのに極大魔法をぶっ放したらしいのだ。
当然洞窟は崩落。攻略もパーとなったということだ。
「で、洞窟は崩れちまったんだけどよ、どーも何かありそうなんだよ。」
こいつがそういうということは何かあるのだろう。海斗は、戦闘センスなどは普通なものの、こういったダンジョンや洞窟を探す第六感だけは異様に強いのだ。
「手伝ってやりたかったけど、崩れたんなら無理だろ。どうしろと。」
「いや、あの後個人的に調べたらどうやら崩落したのは入り口だけっぽいんだ。だから俺が岩をどかすから、その間ワームから守ってほしいんだよ。」
「それはほかのギル面とか、一緒に行った奴らには言ったのか?」
「言ってみたんだけどさ、全員「時間の無駄だ」、つって手伝ってくれなかったんだよ。それにさ、攻略メンバーの一つにさ、槍杉先輩のメンバーがいてさ、どーも俺あの人たち好かねーんだよなぁ・・・。なんていうか自分勝手っていうか・・・。」
「あぁ・・確かにな。」
槍杉先輩は攻略科の三年で、結構荒っぽいことで知られている。確かにそれでは手伝ってもらうのもためらうだろう。
「だから頼むよ、おまえにも悪くない話だと思うぜ。」
「ん?どういうことだ?」
「そこに沸くワームを見りゃわかるって。まあ最悪そこに何もなくてもお前は得すっから。高レベルなのにソロでやってんのもうお前ぐらいしかいねーんだよ。マジで頼むよ。」
「うちのクラスにもう一人いるじゃねーか。そいつに頼めよ。」
いくら友人の頼みとは言え、人前で個人特性を使わない、いや、使えない俺は出来ることならパーティは組みたくないのだ。それに俺たちのレベルはテンシェン山脈の適正レベルをかなり超えているとはいえ、二人で行くのはさすがに危険すぎる。
「あの人が俺なんかと組むと思うか?俺のランクは57なんだぜ?」
「まぁ、確かにな…。」
「だろ?それによ、お前でもないのにあの人と二人で狩りに行ったなんてクラスの奴等にバレたら…、ほら噂をすればなんとやら、だぜ。」
ガラッ、とドアが開けられ、全員の視線が集まる。それは俺の時のようなものではなく、尊敬や憧れのような眼差しがほとんどだった。
白川氷咲皆の視線を一身に集めるその少女は、ロシア人のクォーターで、白銀の長髪に、透き通るような蒼い眼、そして整った顔立ちに一級芸術品のようなスタイルをしており、まさしく絶世の美少女と言っても過言ではなかった。
そして何より、彼女はこの学園において最も光栄と言われている、学年ランカー、一位の称号を持っているのだ。
そんな彼女は周りの視線を全く気にしない様子で自分の席に着いた。
………俺の隣の席に。
ちなみにだが、俺がこのクラスで嫌悪の目を向けられる理由の1つにこれがあったりする。
「おはよう。」
そんなことを考えていると白川が挨拶してきた。
「あ、ああ、おはよう。」
そう言うと白川は自分の用意をし、ちょっとして教室から出ていった。
「…ほら、見たろ?」
「…何がさ。」
「何がさ、って明らかに俺が横にいるの分かってるのに挨拶したのお前だけじゃん!!」
「被害妄想だろ。そんな訳ないって。」
「いーや、絶対にそうだ。白川は強い奴にしか興味ないんだよ、普段からそういってんじゃん。そんなことはお前が一番知ってるだろ?なぁ学年ランク2位の影峰夜鷹?」
「それを言うな。あれはたまたま運が良かっただけだ。」
この学園では学期の初めにそれぞれの学年の生徒全員でランキング戦を行う。ランキング上位者には学校生活において様々な特典が付くため、この学園一番のイベントと言える。
そのランキング戦で俺は運よく勝ち上がり、決勝にて白川に負け、学年ランカー2位となった。まあ、俺は個体特性は使っていなかったが。
「でもよ、個体特性無し(ノースキラー)でランク上位者なんてお前くらいのもんだぜ?それにランク戦は運だけで勝ち上がれる物じゃねーよ。」
「あーはいはい、分かった分かった。」
これ以上この話を続けると面倒くさいことになりかねないので、話を切ろうとする。
「いーよなーお前は。なんたって、白川と狩りに行けるだけじゃなくて部活まで一緒なんだもんなー。羨ましいぜ、あんなクールで完璧な美少女と二人っきりで同じ部活なんてな。部活の変更がOKだったらそっちにいきたかったぜ。」
「・・・・・・・・・・・・・。」
俺と白川は一年の時から同じ部活に所属している。その部活はかつては部員が居たようだが、俺が入学したときにはすでに部員が0人であり、あまり知られていなかったため入部したのが俺と白川だけだったのだ。2年に上がっても白川が新入部員の入部を拒否したため(まあ、入ろうとしたのなんてほんの一人二人だったが)今現在でも部員がたったの二人なのである。
その為、俺は皆が知らない白川のあるとんでもない残念な秘密?を知っている。あいつは隠しているわけではないようだが。
それを知った時、この世に完璧な美少女なんて存在しない、と軽く絶望したのだった。
「・・・どうした?」
俺が急に黙ったのを不思議に思ったのか、海斗が話しかけてくる。
「あ、ああ。何でもない。とにかく話を戻すが、その洞窟とやらでお前の護衛をすればいいんだな?。」
「ん?ああ、そうそう。」
「取りあえず今日は無理だからまた今度時間が出来たらでいいか?その様子だと誰もそこに行こうとするやつなんていないみたいだし。」
「まあ、今のところはな。んじゃ、また今度頼むわ。なるべく早めにな。」
「ああ、分かった。そろそろ席に着けよ、授業の予鈴がなるぜ。」
時刻はすでに8時33分だった。
「おーい、席に着けよ~。」
相変わらず現実世界でもボサボサの頭をした星鎖さんが入ってくる。白川も戻ってきて席に着いていた。海斗は自分の席に戻り、俺も再び授業の準備を始めた。