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Letter of moon  作者: はるあみ
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告白

Letter of moon


【告白】


 クリスマスイブに僕は告白を計していた。相手は、決まっていない。

 でも、クリスマスイブの日に誰かに愛を告白するのが中学生のころからの夢だった。高校の時も、大学の四年間も、その計画は実行されることなく十年以上が過ぎた。

 ここで、勘違いしないでしい。その間、僕に恋人がまったくいなかった訳ではない。恋人らしき人も含めれば数人は数えることが出来る。

 ただ、クリスマスイブに告白するタイングがなかっだけだ。だって、すでにつきあってる恋人に「好きだ」と言ってもそれは告白にはならない。告白というのは、意外性がないといけないと僕は思っている。

 幸いなことに今は恋人がいない。本当にラッキーだ。

 二日前、僕は恋人と喧嘩をした。理由はクリスマスの過ごし方について意見の相違からだった。

 漫画が豊富な喫茶店の椅子に座り、彼女は目をり上げていた。

「どうして、なんの計画もないの、あとひと月もないのに」

 いつもは温厚な彼女。だけど、その日は違った。どこにスイッチを隠していたのかと思うくらい彼女の爆発は凄かった。

 彼女とは職場で出会った。携帯電話を販売をする会社は都内に何店舗も展開している。

 彼女とは浅草の店で知り合った。今はおいに違う店舗に異動になり、前のように毎日会える訳ではない。

「だって、まだ、先のことだろう」

 僕は爆風に飛ばされないように身を固くして、喫茶店の古い椅子にしがつきながら、必死に抵抗を試た。

「じゃあ、何か考えてるってことよね」

「もちろん」

 もちろん、一ヶ月近く先のことなど考える訳がない。僕の毎日は明日のことで精いっぱいなのだ。品薄の新機種、繋がらない回線、電池の持ちが悪いスマホ、僕は明日の言い訳を考えるのに精いっぱいでいる。

「もういい、いつもそう」

 彼女は爆発は収まり、そのまま跡形もなくその場所から消えた。

 そんな訳で、僕はクリスマスイブに告白するという長年の夢を実現するチャンスを得ることになった。

 なにごとも後ろ向きにとらえてはいけない。災い転じて福となすの例えのとおりだ。

 喫茶店でワンピースの五巻を読終えた僕は、両親と妹が一緒に暮らす郊外の一軒家に帰って考えた。誰を好きになるべきか。出来れば断られない相手を選びたい。

「あんた夕食食べるの」母は僕の分の夕食を準備していなかった。

「食べるよ」彼女の部屋で彼女の手料理を食べられなくなったのだから当然だ。

 妹と父の分を少し減らした僕の夕食。それを食べ終わると、僕は二階にある部屋に戻ってベッドに寝転んだ。

 カーテンを閉めてない窓からは月の光が差し込む。その光は次第に強くなり部屋中を黄色に照らし始めた。

「こんばんは」手のひらほどの女の子が、光の中に浮かんでいる。驚いて立ち上がろうとするが、僕の身体は光に押しつぶされて動けない。

「誰?」かろうじて口は動く。

「月の女の子、ミア」

「それってかぐや姫?」

「そんなに古くないでしょう」

 確かに着ているものは、現代的なスカートだ。

「僕になんの御用でしょうか? もしかしたら、願いを叶えてくれるとか」

 僕の勝手な願望をアは鼻で笑い「何よ、願いって」と呆れた。

 急にそんな状況になることを予想していなかった僕は、焦って「クリスマスイブに告白したい」と口走ってしまった。

「はい、分かりました」

 ミアはまたもや呆れた。ずいぶん年下であろう女の子に馬鹿にされると、本当に悲しくなる。

「いや、ちょっと待って」僕はもっと他にすごく良い願いがあるのではないか、例えば「車がしい」「金持ちになりたい」「もっとモテたい」悲しいことだが、僕はく深いくせに無計画で日頃から夢などないことに気がついた。

「だめ、最初の一つだけ」月から来たアは人差し指を左右に振って僕の最初の願いだけを叶えてくれることになった。

「ねえ、リンゴ食べる」

 階段の下で母が叫ぶと、黄色い光も月の女の子もいなくなった。

「リンゴ食べるよ」リンゴどころではないが、とりあえずリンゴは好きだ。とくにアップルパイは大好きだ。

 

 その日から僕の生活に何も変化はない。新しい店の女の子を見回しても、僕に気がある女性は見当たらない。

 満員電車の中も、ランチに行くファレスでも僕が告白する相手は見つからない。

 月はあの日から雲に隠れてしまったのか、部屋の窓から見えず、アも姿を現さない。あれは、夢だったのだろうか。

 そうしているうちに、クリスマスイブの日が来てしまった。

 ブランドものの紙袋を持った男女が行きかう銀座の街を、僕は会社の紙袋を持って歩く。蠅咾笋な街は、この時を逃せないとばかりに華やぎを増しているような気がする。

 お洒落をして歩く人波を避けて裏通りに入ると、ラーメン屋は空いている。

(クリスマスにラーメンなんか食べないんだな)

 僕は去年のことを思い出した。

「ごめんな」去年のクリスマスはラーメンを食べた。

「美味しいよ。ここの味噌らーめん、いつも並んでて食べられなかったんだよね」

 彼女は鼻をすすりながら味噌らーめんを美味しそうに食べてくれたのは、よっぱらいのオヤジが屯する神田でのことだった。

「これなんだけど」僕はらーめん屋のカウンターでコンビニで売っていた手袋を出した。

「あっ、スマホでも使えるやつだね」彼女は袋から出すと、すぐに手袋をしてスマホで僕にメールを送ろうとしてくれたけど、クリスマスイブの夜は利用者が多くて繋がりにくい。

「駄目だね、『現大変繋がりにくくなってます』だって」

 僕はそのことに触れず、「味噌らーめんのびるよ」と言ったと思う。

 彼女は「そうだね」と言ってらーめんを頑張って食べると、鞄の中からリボンに包まれた箱を出した。

「高かったろう」

 それは僕がしかったソーラー電波腕時計。その時の僕は腕時計をしていなかった。電池がなくなりまってから、交換が面倒でそのままにしていたのだ。

「そうでもないよ、アウトレットだもん」彼女はちゃんとアウトレットまで行ってプレゼントを買っていてくれた。

「本当は一緒に選べば良かったんだけど、気に入ってくれた?」

 彼女にアウトレットに誘われたとき「別に買うものないよ」と僕は言ってしまったらしい。らしいと言うのは、それさえ良く覚えていないということだ。

銀座四丁目から東銀座の駅に向かう途中で、僕の肩に月の女の子、ミアがり立った。

「思い出した?去年のこと」

 「ええ、今日は月がないよ」

 アと夜空を交に見て僕は驚いた。

「新月も知らないの? 本当に何も知らないのね」

 彼女はよく月のことを知っていた気がする。

 寝ぼける僕に、彼女は部屋の窓から首を出し、有明の月が見えるよと教えてくれた。

「思い出したの、去年、君がラーメン屋で言ったこと」

 アは僕の肩の上で苛々と貧乏ゆすりをして、僕が去年のことを思い出すのを待っている。

「『塩らーめんも美味しいよ』だっけ」

 思い出せないで適当なことを言うと、アは僕の耳を蹴り上げて「良く聞きな」と去年、僕が言ったことを再生するように聞かせてくれた。

 そうだった、来年は椅子を買うと約束したんだ。そして、恵比須に行ってバカラのシャンデリアを見るって約束したんだ。

 再生された僕の声は自信たっぷりで、彼女は「無理しなくていいよ」っていいながらすごく嬉しそうな声をしている。

「椅子を買わなきゃ」僕は月の女の子を肩に乗せたまま、デパートに走った。

「十二回払いで」

 僕は飾ってあった肌触りのよい布張りの椅子を買い「無料で送ります」という店員に無理を言って背中にくくりつけて貰った。

「電車には乗れないよ」地下鉄の入口に行こうとする僕をミアが止めた。

「じゃあ、歩く」

 僕は椅子を背負って銀座から恵比須までの道を歩いた。ピカピカに輝く街を恋人たちの間をぬって歩いた。そこに彼女がいるのかは分からない。でも、僕は恵比須に行かなきゃならないんだ。

 足が痛くなり、それでも僕は椅子には座らずに歩いた。

 恵比寿の坂が僕の前に立ちはだかる。負けない。

 僕がついた時にはもう、バカラのイルネーションは消えていた。そして、彼女もいない。

「遅かったたいね」ミアは呆れたように僕の肩の上で笑う。まったく小憎らしい女の子だ。

「手紙を書くよ」僕は彼女にあげる椅子に座りバカラの前で手紙を書いた。

「メールじゃなくて手紙?」月の女の子は不思議そうに僕の手紙を覗きこむ。

「クリスマスは電波が繋がりにくいからね。さあ、これが僕のお願いだ、彼女に届けてしい」

 僕の手紙を受け取ったミアは、嬉しそうに最敬礼し、「了解しました」と言って金色の

光となり空に舞い上がって消えた。

『いつまでも、ずっと君の傍にいたい』それが僕の手紙。

 すると僕のスマホにメールが届いた。

差出人は、

~Letter of moon~

それは去年のクリススイブのメール。彼女が僕が買った安物手袋をしてラーメン屋で打ったメール。

『ずっと、傍にいてね』

届かなかったメールは月で預かっていたらしい。


 僕は夜明けまでここで彼女を待とうと思った。新月には有明の月はえないだろうけど。



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