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この鼓動は治まることを知らない。

 心臓の音。

 雨の音。


 今日の標的は、かなり怯えているようだ。

 雨の音に混ざって聞こえる標的の心臓の音はダンスを踊れそうなテンポだ。


「その命…頂戴」

 喉にナイフを滑らせれば一瞬で男は息絶える。


「任務完了」


 人間ってあっけない。

 心臓の音は止まった。

 人から物へ変わった。

 



 胸にそっと手を当てると、トクン、トクンと鼓動が鳴る。

 これが唯一知っている生きている証。

 でも、きっといつかは私も、今まで殺してきた人間たちみたいに、この鼓動が止まって……。

 きっと『玻璃』からただの物体に変わるんだ。

 怖い。

 『玻璃』が『玻璃』じゃなくなったらどうしたら良いんだろう……。

 どうなるんだろう……。


 この世に生まれ出でて、『玻璃』と呼ばれた。

 だから私は『玻璃』だと思っていた。

 だけどもしそうじゃなかったら?

 もし、私が『玻璃』じゃなかったら?

 一体私ってなんなんだろう?


 さっきの標的に負けないくらい私の鼓動も速くなる。

 でも、あの標的と違うのは私の鼓動はまだ止まらないということ。


「生きてる…」


 まだ、ちゃんと生きている。

 その事実に少しだけ安心してまた不安に襲われる。


 私は…。


 私とは一体何なんだろう…。


「生きてる…」


 今、生きて、呼吸している。

 だけども、なぜかそのことにゾッとする。


 この鼓動は止まることは無いのだろうか?

 いっそ誰かこの鼓動を止めてくれないか……。

 怖くて怖くて堪らない……。



「誰か…助けて……」


 だけど、誰もこの恐怖からは救ってくれない。

 だって……。

 今、この鼓動を止めてしまったら……。


 ただの『玻璃』がただの『モノ』に変わってしまうから……。


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