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一緒に出かけるチャンスを逃さず。

クレッシェンテの宗教

「ルーン」という宗教で、キリスト教と仏教と神道と神話や妖怪話をごっちゃに混ぜたような宗教。祀っているのは月の女神。


「どこか出かけるのですか?」

 後ろから突然掛かってきた声に、朔夜はびくりとする。

「え、ええ…大聖堂まで」

「よく毎日飽きませんね。そんなに面白いところなのですか? 僕も同行させてください」

 声の主、セシリオ・アゲロは少しばかり意地の悪い笑みを浮かべて言う。

「ええ、でも、セシリオには退屈かもしれません」

「いいえ、僕は僕の可愛い朔夜と一緒なら退屈しませんよ」

 そう、彼は笑う。

「そう。では行きましょうか」

 朔夜はセシリオにはバレないよう、小さくため息をついた。


(なんでこうなったのかしら?)


 正直朔夜はセシリオと外を出歩くことはあまり好きではなかった。

 自分はまだそれほど顔は知れ渡っていないが、セシリオ・アゲロという男はあまりにも有名すぎる。

 町を歩けば好奇の目に晒されることも目に見える。

 一緒に店に入りでもしたら店員はびくつき、まともに会話すら出来ないことも多々あるのだ。

「セシリオ、悪いけど顔を隠して頂戴」

「なぜです?」

「落ち着かないのよ。あなた、顔が知れ渡りすぎているわ」

 朔夜は軽くため息を吐く。

「仕方ありませんね。帽子はあまり好まないのですが」

 そういいつつ、彼は帽子を被る。

「これなら少し顔が隠れるでしょう?」

「…そうね」

 そういう問題ではないのだが、とは思ったものの、朔夜は何も言えなかった。




「ここで待っていて頂戴」

「なぜです?」

 大聖堂の前の広場で待っていてほしいと言うと、セシリオは途端に不機嫌そうな表情をした。

「だって中じゃ退屈でしょう?」

 本心は、懺悔の姿を見られたくないと言うこともあるのだが、それは口には出せない。

「いえ、僕も行かせて頂きます。実は、まだ中を見たことが無いんです」

 そう、楽しそうに笑う彼に、朔夜は微かに殺意を持った。

「朔夜、殺気を出さないでください」

「ごめんなさい。少し苛立っているみたいなの」

 この程度の殺気を朔夜は『苛立っている』で済ませるが、普通の人間なら『苛立っている』という次元ではない。彼は納得いかない様子だ。

「僕に殺気を向けるのは利口ではありませんよ」

「ええ、ごめんなさいね」

 殺意が芽生えてしまったのだから仕方ないと思いつつも朔夜は一応謝罪の言葉を述べる。

「では、私は懺悔室に居るので少し待っていてください」

「懺悔室?」

「己の罪を悔い改める場所です」

 朔夜がそう告げると、セシリオは理解できないと言う表情をした。










 回廊の絵を眺めながら、最近朔夜は変だとセシリオは思った。

 どうも冷たい。

 いや、それはもともとだったかもしれない。

 だけども妙に避けられるのだ。

「おや、この絵は…」

 いつだったか玻璃が描いた絵と同じだ。

「地獄絵、気に入ったのかしら?」

「いえ、前に玻璃が描いた絵と見事に重なる気がしまして」

「ええ、それは玻璃ちゃんが前に模写したのを見たのでしょう? アルジズがすりかえられてもわからないほどの出来だと驚いていらっしゃいましたから」

 そういえば玻璃はこれが好きだと言っていた気がした。

「嫌いじゃないですけどね。こういうのも」

「自分の行く先を見ているよう、ですわ」

 ああ、そうかとセシリオは思う。

 彼女はどんなに悔いようとも楽園へはいけないことを知っている。

 それでもせめて地の底へと落ちるまでの心の支えを欲しているのだと。

「朔夜」

「はい?」

「僕もここが気に入りました。また同行させてください」

「え?」

「この絵を見に来たいのですよ」

 貴女と一緒に。

 その言葉を飲み込んで、朔夜を見る。

「ええ、そうですね」


 貴女と居られる時間を増やせば、貴女の心の支えになれるのでしょうか?

 セシリオは朔夜に気付かれないようにそっと祈る。


 神というものの存在は信じませんが、朔夜の心の支えになるのでしたら、我々の命が終わるときまで存在していてください。







 帰り道、再び町の中を通る。 

 薄暗くなってきたこともあり、セシリオを好奇の目で見るものは居なくなった。

「セシリオ、ちょっとこの店に寄ってもいいかしら?」

「ええ、構いませんよ」

 朔夜の言葉にセシリオは目を細める。

 そういえば二人で出かけるのは久しぶりだったと思う。

「たまにはこんなのも悪くないわね」

「ええ」

 また、一緒に出かけるのも悪くない。

 朔夜は微かに笑った。



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