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銀の剣士のそう優雅ではない休日


 爽やかな朝の目覚め……。

 のはずだった。



 部屋の中にやかましい電話のベルが鳴り響く。

「朝っぱらから誰だぁ?」

 アラストルが不機嫌そうに受話器を取る。

「おいおい、こちら……えっと。えっとね」

「玻璃、ふざけてる場合か? ってか名前くらい考えとけよ」

「……」

 無言で切られる。

「何がしたかったんだ?」

 とりあえず、せっかくの休日は玻璃によって壊された。


 仕方ないので朝食の支度をしようとすると、食料庫は見事に空だった。

「……今日は運気ががた落ちだな…」

 特に占いなんかは気にしない彼であったが、朝から随分とついていないと思った。




 仕方なく、アラストルは喫茶店で朝食を食べてから出かけることにした。


「全く…せっかくあの馬鹿共から解放されたと思った瞬間にこれか? ってかあの馬鹿、電話の使い方覚えた瞬間イタ電掛けてくるし…」

 アラストルは疲れたと言わんばかりにため息をついた。

「ん? てめぇ…」

 会いたくない奴に会ってしまった。

「き、貴様!」

 瑠璃だった。

「なんでてめぇがここに居るんだよ?」

「それはこっちの台詞だ! 玻璃はどこだ?」

「知るか! 俺は久しぶりの休暇なんだよ」

「そんなことしったこっちゃねぇよ!」

 彼が彼女と出会うと必ず睨み合いに発展する。

 アラストルはため息を吐いた。

「ったく……休暇くらいゆっくりさせてくれ…」

 この一時間ほどで少し体重が落ちたのではないかとアラストルは思った。




 食事を終え、彼はとにかく静かな場所を探した。

「…この国で一番静かな場所といえば…やっぱここかぁ?」

 彼がたどり着いたのは大聖堂だった。

 この国に神を信じて祈りを捧げる人間はほんの一握りしか居ない。

 そう思ったとき、その一握りにあの女が居ることを思い出し、ここに来たことを後悔した。

が、もう既に遅かった。

「あら? アラストル。貴方もお祈りに来たの?」

「げ…朔夜……」

 ということはすぐ傍にあの男が居る可能性が高い。

「いや、俺は……折角だ。献金くらいはしてくか…」

 アラストルはポケットの中をひっくり返し、ありったけの銅貨と銀貨を献金箱に突っ込んだ。

「…随分豪快ね」

「ん? こういうモンじゃねぇのかぁ?」

「…いえ、そんなにたくさん入れる人は滅多に居ないから…」

 そう言われ、アラストルは銅貨だけにしとけば良かったかも知れないと思った。

「なぁ、ここらで一番静かな場所ってどこだぁ?」

 今日はもう、誰にも会いたくねぇと彼は言う。

「あらあら、だったら図書館や美術館に行ったら? きっと静かだと思うわ」

「いや、リリムやステラに会いそうだ…ここならぜってぇ静かだと思ったんだが…家に帰りゃあまた玻璃からいたずら電話が着そうだしな…」

「大変ね」

 朔夜は苦笑する。

「今日は大人しく家で休んでたら?」

「…そうするか……」

 そうだ。電話は線を抜けば良い。

 そう思い、アラストルは家へ向かった。




 帰宅すると、いきなり「お帰り」という声がした。

 幻聴だと思いたかった。

 が、当たり前のように長椅子に寝そべって『詐欺入門』とか妖しげな本を広げている玻璃を見てしまった。

「…なんでお前がここに居るんだ?」

「アジトの居心地が悪くて」

「はぁ?」

「マスターが殺気を撒き散らしてるのを朔夜が宥めてる」

「おいおい…そんな理由で俺のところに来るな。姉のところに行け、姉の」

「……だって瑠璃は…なんか最近いい人出来たみたいで外泊多いし…」

 だからと言って俺の家に当たり前のように居座るなと言いたかったが、相手が相手なので怒鳴れない。

「…仕方ねぇな……飯は作らねぇぞ?」

「さっきピザ注文した。一緒に食べよ?」

 玻璃の言葉に驚いた。

「で? 何枚注文した?」

「…15枚」

「…お前は何枚食うんだ?」

「14枚」

 こいつ化け物だろうといいたくなるのを必死で抑える。

「相変わらず食欲だけはあるな」

「食欲と睡眠欲は生物の基本だってマスターが言ってた」

 じゃあお前は欲望の塊だろ。

 心の中で言うとばれたのか睨まれる。

「ったく……お前の家じゃねぇんだぞ?」

「…ごめんなさい。でも、居心地良いから……」

 そう言われてつい、嬉しくなる自分に少しばかり呆れながらも悪い気はしない。

「そ、そうか…まぁ、なんだ。寂しくなったらいつでも来い」


 なんか邪魔もいっぱい入ったが……。

 こんな休日も悪くねぇかもしれねぇ。


 アラストルはそんなことを考える自分に苦笑した。

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