其処に行っても良いですか?
もう、苦しいのです。
どうか罪深き私をお救いください。
何度そう願ったか既に解りません。
ただ、解っていることは、あの人がいないという事だけ。
ヴァレフォール。
貴方はどうしていつも私を置いていくの?
いつだってなんでも一人で決めてしまって、そして決まってこう言うの。
「朔夜、ごめん」
いつも笑って許していたけれど、今回ばかりは、このことばかりはとても笑って許せそうに無いわ。
ただ、毎日、毎日神に祈りを捧げ、あの日の罪を悔い、贖罪の歌を歌うだけ……。
もう既に、幸福など許されぬこの身。
ただ、幾度も、幾度も貴方の残像を追い、ただただ、一人静寂の中、自分を抱きしめ震えている。
そんな日々を過ごすことしかできぬ。
朔日の月は私の心みたいで、もう決して満ちることが無いと言っているようで……
静寂の中、私はただ怯えている。
「ヴァレフォール、今から、貴方の場所に行ってもいいかしら?」
神の御前でそう問いかけても答えなんて返ってこない。
きっと神も知らぬ彼の返答。
だけども、何故だろうか。
脳内に記憶のなかの彼が。
そうして言うの。
「馬鹿なことを考えるな」
いつもの優しい笑みではなく、厳しい表情の、それでも、敵と対峙する時とはまた違う、どこか優しさを含んだ厳しい表情のヴァレフォール。
「朔夜、生きてよ」
あの雨の日と同じ、悲痛な表情で彼が言う。
これは……。
夢?
ただ、目の前に泣き出しそうな彼が居ることだけは確かで。
もう、幻でもいい。
貴方に逢えた……。
「ヴァレフォール、貴方とならば神の国へ行けなくたっていい。たとえ地の底へ行こうとも貴方が一緒ならそれでいいの……だから……私を傍に置いてください」
貴方の居ない私の胸には静寂しか無かった。
どんなに心を凍らせようとも貴方の残像が私の脳内を駆け巡って……。
ただ、寂しさだけがあったの……。
「朔夜、君にはまだ未来があるよ」
「貴方がいない未来なんて、哀しみしかないわ」
だから、早く貴方と同じ世界に行きたいの。
「君は、妹達を守る使命がある」
「……そう……でも、あの子たちにはマスターが居るわ」
「彼女達には君が必要だ。それに、彼もまた、君の力になってくれる」
マスターが?
「ヴァレフォール、貴方じゃなきゃだめなの……」
貴方が居ないと苦しいの。
だけども、ヴァレフォールは何も言わずに首を横に振る。
「朔夜、僕は……君とは居られない。だから……来世に賭けよう。次こそ、次の世界で君と再び逢うことを」
今度こそ、二人で、対立の無い世界で。
彼は言う。
だけどそんなものは信じられない。
「また、同じ運命を繰り返すの……また、来世でも私は置いていかれるの?」
「そんなことはしない。朔夜、きっと君を見つけて見せるよ」
これが夢だとしたら、なんて優しい夢だろうか。
「ヴァレフォール、きっと来世で、来世で逢いましょう」
「うん。じゃあ、おやすみ、朔夜。ゆっくり休むんだ。君には休息が必要だ」
そう言って彼は私の髪を撫でる。
「おやすみなさい、ヴァレフォール」
なんだか不思議な感じ。
ヴァレフォールが私におやすみだなんて。
優しい手……。
ヴァレフォール……。
貴方のところに行くのは、もう少し後にするわ。
生きてみせる。
ギリギリまで。
そうして、来世に希望をつなげて見せるわ。きっとね。