昔=二人。今=一人。
夏の晴れ間の雨。
天気雨だろうか。
遠い異国では天気雨の日は狐がお嫁に行くらしい。
その様子を想像すると酷くファンタジックな気がするのは私だけではないはずだ。
雨の合間に晴れると、どうもあの日を思い出す。
天気雨。
僕から私へ変わった日。
十三年前、まだ、私の相棒は玻璃だった。
双子で仲良く殺し屋をしていたのだ。
だけども、十三年前の天気雨の日、玻璃はあいつと組んだ。
『アルジェンテ』
銀の髪の剣士だった。
アルジェンテというのはコードネーム。玻璃は一度もその名では呼ばなかったし、彼も玻璃を『ドーリー』とは呼ばなかった。
「お前がちゃんと生きてれば…玻璃は独りにならずに済んだんだ」
ムゲットの外れの墓地で、届くはずも無い冥界の住人に言う。
手向ける花は白い曼珠沙華。
かつて玻璃が、そしてあいつが好きだった花。
「白い曼珠沙華は赤く染まる術を知らない…か」
赤く染まる必要なんて無い。
だけども、あいつらは赤く染まりたかったのだろうか。
「シルバ、お前は見事その銀髪を赤く染めたじゃないか」
だけどもあいつは漆黒。
赤くなんて染まりやしないさ。
「私の方があの子に近かった。なのに何故!」
何故、玻璃はお前を頼ったんだ!
行き場の無い怒りがこみ上げる。
この感情は嫉妬だ。
なんとも醜い。
知っている。
だけども、止められるはずもなかった。
「僕も一人になってしまったじゃないか…」
お前のせいだ。
お前が居なくなってから、玻璃は誰とも組まなかった。
『もう、相棒を失いたくないの』
そう、玻璃の口から聞いたのは九年前だった。
「ヴェントは風には成りきれない」
だから私は……。
独りを好むふりをした。
お前が辛いなら私も辛くなろうとした。
だけど、それは何の意味も無かった。
「玻璃、昔は一つだったのにな…」
昔は二人で一つだった。
だけど、いつの間にか……。
『自我』が芽生えてしまったのだ。
「ただ人形になれればどんなに良かったか…」
全てが嘘なら、
夢なら、
本当に良かったのに……。
そう考え、頬に涙が伝った。