独りで生きる意味。
独り残されたことに何か意味があるのだろうか。
仕事を終え、部屋で独りきりになると、蘭はよく考えた。
かつては夫も子供も居たが、今はただ独り。
愛した彼女も現れては消え、再び巡り逢う。
そうしてまた、独りになり彼女に出逢う。
一体何故?
「全ては必然。だけども理由が解らないわ」
人々は自分を『全能の時の魔女』と呼ぶ。
だけどもそんなことは無いと蘭は思う。
自分はただ、人より長く生き過ぎた分、人より知識があるだけだ。
長生きと言うのは人が思っているほど楽しいことばかりではない。
生きた分だけ出会いがあって、別れがある。
「神に見捨てられた身としてはこれは罰として受け入れるべきなのかしら?」
かつて天上で過ごした日々の記憶は既に薄れ始めている。
だけども、『忘却』というものは自分の中に無いのかもしれない。
身体が忘れていても、脳内には映像のように確かにその場にあったものを全て記憶している。
「ああ、彼女に会いたいわ」
もうひとり、神に見捨てられた憐れな少女。
今は、『玻璃』だったかしら。
何度廻った彼女に出逢ったかはもう、数えるのも飽きてしまった。
だけども、彼女の死は『安息』にはならないのだ。
また、すぐに廻る。
だけどいつも黒い髪と赤い瞳。
「すぐに見つけ出す。これもまた運命…」
蘭は砂時計を抱く。
「…退屈ね。三時間戻してみようかしら?」
それで何か解決するわけでもない。
ただ、考える時間が三時間増えるだけ。
今日の依頼人。あまり好きにはなれなかった。
「時の魔女にとって百年なんて一瞬でしょ、か……確かに、そうかもしれないわ…」
でも、その一瞬に普通の人間の何十倍もの苦痛が詰まっているなんて誰も思いつきはしないでしょうね。
蘭はただ、さらさらと流れる砂を見つめる。
「もう、戻すのも無駄ね」
今戻したらきっとまたあの依頼人に会ってしまう。
そうしたら自分は自分で居られるだろうか。
「時は…流れに任せるもの。だけども」
ほんの一瞬、未来を垣間見ることは許されるはずだ。
そう、神に告げたのは何千年前だろうか。
そうしてやがて追放されたのだった。
「過ぎた好奇心は罪になる。だけども彼女はわきまえているわ」
私と違って。と蘭は自嘲気味に呟く。
「私の可愛いクロツグミ。何度廻っても探してあげるから…」
私が貴女を探すのも必然。と彼女は呟く。
ああそうだ。
今、私が独りなのは彼女を探すためなのかもしれない。
「明日はセシリオのところにお茶でもしに行こうかしら?」
きっとものすごく嫌そうな表情をする。
そう考え、蘭は静かに笑った。