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あの時の選択。

独りになってしまった人に10のお題


● あの時の選択。

● 独りで生きる意味。

● 昔=二人。今=一人。

● 思い出の場所を歩く。

● 記憶の中での貴方の顔。

● あまりにも寂しすぎるから。

● 問いかけた声に返事はない。

● まだ、この癖が抜けない。

● 「孤独」の意味を辞書で引く。

● 其処に行っても良いですか?


配布元:「Abandon」

URL:http://haruka.saiin.net/~title/0/

 あの時、あの小さな手を掴んでいたら人生はだいぶ変わっていたかもしれない。





 クレッシェンテという国は昔から娯楽が少ない。

 娯楽といえば大人たちが酒場に集まって賭け事をしたり、町のど真ん中で武道大会が開かれたりする程度で、子供が喜ぶようなものなど殆ど無かった。


 そんなクレッシェンテに、年に一度だけ子供も喜ぶような大きなイベントがある。

 巡回サーカスだ。

 遠い異国の珍しい動物やら異形の人間やらを見せたりとても人間業とは思えない技を見せるものも居る。


 そんなサーカスは大聖堂前の広場で開かれる。

 年に一度、その場所にクレッシェンテ中の人間が集まるといっても過言ではなかった。


「お兄ちゃん早く早く!」

 アラストル・マングスタもその一人。

 妹リリアンに引っ張られ、ほぼ無理矢理その広場に連れて来られた。

 正直なところ、彼はあまり人混みが得意ではなかったが、可愛い妹のため、断ることはしなかった。

「おい、もっとゆっくり歩け」

「だってレオーネが来るんだよ」

「レオーネ?」

「猛獣使い。おっきな猫がたくさん侍ってるんだって」

「ほぅ…って、お前なぁ。そりゃ猫じゃなくてライオンじぇねぇのかぁ?」

 アラストルは呆れたような表情でリリアンを見る。

「お前、帰ったらちゃんと勉強しろよ?」

「はぁい。でも、お兄ちゃんにだけは言われたくなーい」

「うるせぇ」

 アラストルはリリアンの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「お兄ちゃんやめてよ、髪の毛ぐしゃぐしゃ」

「お前は少し落ち着きがねぇ」

「だって、サーカスが楽しみだもん」

 十三歳とはいえまだ子供か、とアラストルは笑う。

 いつまで『お兄ちゃん』と呼んでついて歩いてくれるか。

 世間では兄は疎まれるというが、今のところリリアンにそんな様子は無いとアラストルは思う。

そんな時だった。


「おい、リリアン?」

 妹の姿が見えない。

 おそらくはこの人の波に呑まれ迷子になったのだろう。

 そう思い慌てて探す。

「リリアン!」

 叫んでも人混みの雑音に飲み込まれ声は届かない。

 人の波を掻き分け、必死になって妹の姿を探す。


「リリアン!」

「玻璃!」


 同じタイミングで叫ぶ男が居た。

 自分と同じく銀髪の男。

 背格好も髪型もほぼ同じその男にアラストルは僅かながらも驚く。

 大方迷子になった子供でも探しているのだろうと思った。

 これで妹ならば凄い偶然だと。

 そして、彼の視線の先に少女の姿が見える。

リリアンだ。

そう思って声を掛けた。


「おい、勝手に先に行くな! 探したんだぞ」


 すると彼女は顔を見上げ、不思議そうな表情でアラストルを見る。

「……シルバじゃない………だれ?」

 驚いたように目を見開く少女を見るとリリアンに瓜二つではあるものの、微妙に衣服が違う。

「わ、悪い。妹を探していて…人違いだった」

「そう…ねぇ、シルバ見なかった?」

「シルバ?」

「あなたと同じ銀髪の剣士。はぐれちゃった」

 今にも泣き出しそうな表情で言う少女にアラストルは困惑する。

「さっき向こうですれ違った。噴水の傍で動かずに待ってろ。そうしたら見つけてもらえる」

「う、うん」

 背格好も表情までもリリアンと重なる少女。

 彼女が探しているのは自分とよく似た男。


 凄い偶然だとアラストルは思った。



 突然、二発の銃声が響く。


「なんだ?」

 慌てて銃声の方へ駆ける。

 先ほどの少女も同じように駆けるが彼女の方が少しばかり速かった。

「シルバ!」

 彼女が駆け寄ったのは先ほどすれ違った男。

 先ほどと違うのは彼が赤く染まっていることだった。


「リリアン……」

 男に庇われるようにして、男の下で倒れている少女。

 それは紛れも無く、アラストルが探していたリリアンだった。










 翌日の新聞の一面に、その事件が載った。

『銀の剣士と黒の少女』殺された二名。

 それに良く似た銀の剣士と黒の少女が居たとは、その場に居た誰も考えなかっただろう。



 あの時、リリアンに似たあの少女の手を掴んでいれば、リリアンは死なずに済んだかもしれない。

 あの時、あの少女が俺を自分の連れだと思い込んでいればあの男も死なずに済んだかもしれない。




「なぁ、玻璃」

「なぁに?」

「お前、前にも俺に会ったことがある気がするって言ってなかったか?」

 遊びに来ていた玻璃に訊ねる。

「うん」

「思い出した。十年前、一度お前に会ってる」

 そう、アラストルが言うと玻璃は何も言わずに頷く。

「あの時お前の手を掴んでいたら未来が変わっていたかもしれないって思った」

「そう。でも、もう過去は書き換えられないわ」

 玻璃の言葉に頷く。


「私はリリアンが羨ましい」

「何でだ?」

「だって、シルバと一緒に居られて、アラストルに今も想われてる」

 玻璃の言葉に少し驚く。

「私を想ってくれる人はもう誰も居ない」

「何言ってる。俺が居る。確かにリリアンは大事だが、お前も大事だ」

 彼が言うと、玻璃は微かに笑う。


「その選択は後悔しない?」

「ああ」

 彼の答えに納得したように玻璃は笑う。


「だったら、もう後悔しない未来を作らなきゃ」

 それはきっと決意だった。

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