そのさん!
「毎日忍び込むのは無理があると思うんでふ!」
今日も小雪先輩のドアアタックを受けてひりひりした鼻を押さえながら俺がそう叫ぶ。
先輩達はキョトンとしていた。
「ふとしくん新しい口癖?可愛いよー」
「違います!誰かさんがものすごい勢いで開けたドアのせいです!」
「てへっ」
小雪先輩に悪気はないらしいがもう少し反省すべきだと思う。
「それで、なんで無理があんのさ?」
さっちん先輩がイスの上にあぐらをかきながら訊いてくる。
「先輩は分からないでしょうが俺は毎日忍び込んでこの部屋に来るまでが誰かに見つからないか怖くてしょうがないんですよ!」
誰かが見てないかビクビクしながら裏門から進入し、廊下に生徒がいたら通り過ぎるまで待ち続ける。
ホント怖いもんだよ。想像以上に神経をすり減らす作業だと痛感した。
「見つからなきゃいい話じゃんか」
さっちん先輩が面倒くさそうに言う。
「言うだけなら簡単ですけど毎日来るとなればいつか絶対見つかります、裏門すごく音うるさいし」
「裏門なんてあんの?」
あー君先輩が聞いてくる。
「ありますよ、てかあー君先輩ってどうやってここまで来てるんですか?」
「え?普通によじ登って」
もう『あー君先輩』を注意する気はないらしい。
でもよじ登るって・・・ただの不審者にしか見えないと思う。
「結構壁高いのに凄いねー」
小雪先輩が感心している。
「それで、どうにかしてください。もう忍び込むのはイヤですよ。」
「じゃ、どうすればいーの?」
「先生に相談してみようか」
美鈴先輩が話しに加わる。
「え~」
小雪先輩は明らか面倒くさそうだ。
「今、思ったんですけど俺とかあー君先輩が学校に入ることを許可されてなければ俺達当然文化祭も出れませんよね?」
「訊きにいこう!」
小雪先輩は分かりやすい・・・
そうして先輩達は先生を探しに出て行った。今部室には俺とあー君先輩の2人。
「許可出ますかね?」
「どうだろなーここ女子高だし」
「あー君先輩って俺が言うのもなんなんですけど、毎日部室に来れるってことは学校で友達いないんですか?」
「いるわ!でも俺基本的に学校以外でダチとつるまないから」
「付き合い悪い人なんですね」
「うっせ」
・・・しばらくの沈黙。
「いつもは放課後何してるんですか?」
「・・・彼女と遊んでた」
過去形。
「その彼女とは?」
「フラれたよ」
「原因とか訊いてよかったり?」
「二股かけてたんだよ」
「最悪じゃないですか!」
「仕方ねぇだろ、2人とも可愛かったし断る理由無いわ」
・・・この人と俺は脳のつくりが違うらしい。
「で、二股がバレてどちらからもフラれたと」
「そう、そのフラれた帰り道に雪たちにスカウトされたわけ。ちょうど暇になったところだったからOKしたのよ」
あー君先輩が笑う。
「二股なんて最低だよ!!」
小雪先輩が戻ってきた。怒ってる。どうやら俺達の会話を聞いていたらしい。
「あー君、KBS!」
「あ?んだよそれ?」
「女子高生の間で流行ってるんですか?」
「いやいや初耳」
さっちん先輩と美鈴先輩がハモる。
「でKBSって何です?」
「KBS」
「・・・それ略になってんのか?」
あー君先輩が呆れている。
てかSはいらない気がするのは俺だけだろうか。
「それより先生とは話付いたんですか?」
「あーそれね、担任じゃまだなんとも言えないってさ。今度校長に相談してみるって。明日教えてくれるらしいよ」
美鈴先輩が答える。
「もし無理だったらどうするんですかー?」
「お前らクビ」
「・・・さっちん先輩もう少し他の言い方ないんですか?」
「だってしょうがないじゃんさ」
「ダイジョブダイジョブー」
お、小雪先輩のこのネタ久しぶりに見た気がする。
「安心して!もし無理って言われたら私が土下座して頼むから☆」
ウインクしながら小雪先輩が言う。
この人にプライドって無いんだろうか。
「・・・ありがとうございます」
でも、俺達を大事に思ってくれているんだろう。ちょっと嬉しい。
そんで次の日。
今日も神経をすり減らしながら忍び込む俺。
大丈夫、今日だけの辛抱だ。もうこんな恐怖からも開放されるはず。
携帯によると現在は4時半頃らしい。もう小雪先輩達も部室に来ていることだろう。
ノックを2回と同時に俺はバックステップで後ろに下がった。
と、同時にものすごい勢いでドアが開く。
「いらっしゃいっ!」
思い通り!
やはり小雪先輩がドアの前で俺が来るのをスタンバっていたらしい。
前回、前々回と思いっきり鼻をぶつけてたいそう苦い思いをした俺はもう学んだのさ。
今日も小雪先輩は純粋に俺がちゃんと来るのか心配だったらしい。
「おぉ、学んだな太一~」
さっちん先輩が感心しながら言う。
「感心してるぐらいなら、小雪先輩がドアの目の前で待つのやめさせてくださいよ」
「無理無理ー雪は心配性だからな、ちゃんと来てくれるか心配なんだろ。2週間は続くと思ったほうがいいぜ。」
と気楽にさっちん先輩が言った。
やれやれ、もしノックしたのが教師、一般生徒等だったらどうなっていたのか心配だ。
「先輩方、こんちはー」
部室には俺以外の全員が揃っていた。俺があー君先輩より遅いのは初めてだ。
『ふとしくん』とマジックで大きく書かれたイスに座る。もう慣れたわ。
「それで、どうだったんですか?」
今日はそのことばかり考えていた。
「みんなふとしが来るまで訊かないで待ってたんだよ。で、どうなんだ?」
みんなの視線が美鈴先輩に集まる。
「・・・OKでした!」
「わーい!」
嬉しかった、すごく嬉しかった。だが声に出して喜んだのは小雪先輩一人。
「あれ?太一もっと喜ばないの?お前が提案したんだろ」
もう、忍び込まなくていいんだ。
「なんも言えねぇ」
「でも!条件が付くそうです!」
美鈴先輩の話はピリオドを打っていなかった。
「条件?」
「そう、
一つ目 校舎内に居られるのは6時半まで!
二つ目 教室などに入るのは基本的に厳禁。
三つ目 ナンパなどは言語道断!
です。」
なるほど、でもこの程度の条件で許可してくれるとは随分許容範囲の広い校長だ。
「分かりました。ま、大丈夫そうですね。あー君先輩、三つ目大丈夫ですか?」
「お、おう」
「これで、俺はもう裏門から侵入したり、あー君先輩は壁をよじ登らなくていいんですね!」
「だね」
「今の知らない人が聞いたらすげぇ勘違いしそうだな」
さっちん先輩が言う。
「それじゃ、練習しよー!」
小雪先輩は今日も元気一杯だった。
あっぷあっぷ感が漂う作品ではありますが
楽しく書いています。