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『氷の女王は、俺のシャッターに恋をする』  作者: 天パ猫(てんぱねこ)


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第45話:【祝杯の夜:ミューズと執事の凱旋】

【喧騒のファミレス:暴かれる二人の「聖域」】

文化祭売上一位という最高の栄冠を掲げ、二組のメンバーが向かったのは駅前の大型ファミレスだった。貸し切られた店内は、アドレナリンが収まらない生徒たちの熱気で溢れかえっている。


「おい湊! 正直に言え! お前、いつから冬華さんとあんな『できてる』空気だったんだよ!」 男子グループのムードメーカー・佐藤健太が、コーラのジョッキをマイク代わりにして湊に詰め寄る。 「そうだよ! パリでの密月旅行についても詳しく吐いてもらおうか!」 男子たちが馬鹿みたいに机を叩いて囃し立て、湊は苦笑しながら「密月なんて大袈裟な……」とタジタジになっていた。


一方、女子たちの標的は冬華だった。 「冬華さん冬華さん! 湊くんのどこが一番最初に『刺さった』んですか!?」 「やっぱりあの執事姿の完璧なエスコート? それとも写真撮ってる時の真剣な顔?」 「私、あの写真展示の横にある湊くんのコメント読んで泣きそうになっちゃって……。あれ、絶対公開ラブレターですよね!」


矢継ぎ早に飛んでくる質問に、冬華は特大パフェのスプーンを止め、少しだけ頬を染めた。 「……彼が、私の『本当の顔』を世界で一番最初に見つけてくれたからよ。……それ以上は、内緒」 その気高くも甘い回答に、女子たちは「ひゃあああ!」「ご馳走様すぎ!」と絶叫し、店内はさながら結婚披露宴の二次会のような騒ぎとなった。


【影に座る少女:かつての自分を見つめて】

ファミレスの喧騒が最高潮に達する中、冬華はふと、ドリンクバーに近い隅の席に視線を止めた。 そこには、一人の少女が小さくなって座っていた。クラスメイトの佐々ささき 結衣ゆい。彼女は文化祭中、裏方として地道に食器洗いや準備をこなしていたが、大人しく自分を出すのが苦手な性格ゆえか、今の熱狂的な盛り上がりについていけず、手持ち無沙汰にメロンソーダのストローをいじっていた。


冬華はその姿に、強烈な既視感を覚える。 (……あの日までの、私だわ)


パリへ行く前、そして湊に出会う前の自分。高い壁を築き、誰も寄せ付けず、賑やかな場所に行けば行くほど「自分はここにいてはいけない」と疎外感に苛まれていたあの頃。 冬華はスッと立ち上がり、クラスメイトたちの呼び止めを軽くかわして、結衣の隣へと歩み寄った。


「佐々木結衣さん。……お疲れ様。あんなに大量のティーカップを一度も割らずに管理してくれたのは、あなたのおかげね」


「えっ……。あ、氷室さん……っ!」 結衣は驚きで肩を跳ねさせ、顔を真っ赤にした。 「い、いえ! 私はただ、裏で洗ってただけで……。氷室さんみたいに、みんなの前に立って輝いてたわけじゃないから……。私、ここにいてもいいのかなって……」


冬華は結衣の隣に静かに腰を下ろし、真っ直ぐに彼女を見つめた。 「光が当たるところには、必ず影があるわ。あなたが裏で完璧に整えてくれたからこそ、私は安心して主人の振る舞いができた。……今日の成功は、あなたの献身の上に成り立っているの。自信を持ってちょうだい」


冬華の言葉には、表面上の慰めではない、経験者ゆえの重みがあった。 (……ああ、私。今、湊くんに救われたあの日を、彼女に繋いでいるのね) 冬華の胸に、不思議な温かさが宿る。被写体として撮られるだけでなく、誰かの心を照らす「光」になりたいという、初めての感情だった。



「おーい、冬華ちゃん! 佐々木さんも! 何二人でしっぽり語り合ってんだよ!」 そこへ、男子グループを盛り上げていたムードメーカーの佐藤さとう 健太けんたが、湊を引き連れてやってきた。健太はコーラのコップを片手に、屈託のない笑顔を振りまく。


「冬華さん、佐々木さん。文化祭、マジで最高だったよな! なあ湊、俺たちだけで打ち上げの『おかわり』しに行こうぜ!」


湊は、冬華が結衣を気にかけていたことに気づき、優しく目を細めた。 「いいな、それ。健太と、結衣さんも一緒にどう? 文化祭中、結衣さんは裏方で全然回れなかっただろ。今度は四人でゆっくり遊びに行こうよ」


「えっ、わ、私も……いいの?」 結衣が信じられないといった様子で顔を上げると、健太が「当たり前だろ! むしろ来い!」と明るく背中を押した。


湊は冬華を見つめ、少しだけ声を落として言った。 「……冬華ちゃんも、いいかな? ちょうど『写真の撮り方』を教えるって約束したし、その時にこの四人で出かければ、良い練習になると思うんだ」


(……湊くん。あなた、私の考えていることが筒抜けね) 冬華は、自分の心の変化を即座に汲み取ってくれた湊に、誇らしさと愛おしさを覚えた。 同時に、先ほどの香織への嫉妬が、少しだけ前向きなエネルギーに変わるのを感じていた。


「ええ、いいわ。佐藤健太くんの騒がしさは少々不安だけれど……佐々木結衣さん、あなたをモデルにして、私が湊くんに習った技術で、最高の一枚を撮ってあげる」


「ええっ、氷室さんが私を!? ……は、はい! よろしくお願いします!」


結衣の顔に、今日初めての本当の笑顔が浮かんだ。 湊は、冬華が「撮られるだけの女王」から、自らの意志で誰かのためにレンズを覗き込もうとする「一人の女性」へと歩み出そうとしている姿に、深い感動を覚えていた。


「よし、決まりだ! 目的地は、今度じっくり考えようぜ!」 健太の快活な声が響く。 湊と冬華、そしてお調子者の健太と、内気な結衣。 この四人の組み合わせが、二人の関係にどんな新しい「現像」をもたらすのか。 冬華の胸には、湊への独占欲と、新しい世界への好奇心が、心地よく混ざり合っていた。


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