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『氷の女王は、俺のシャッターに恋をする』  作者: 天パ猫(てんぱねこ)


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第31話:帰路の独白、あるいは氷が溶けた後の物語

ガタゴトと一定のリズムで揺れる列車の車内。 おばあちゃんの家を離れ、都会へと向かう帰りの列車は、夕暮れ時の淡い紫色の光に包まれていた。ボックス席に並んで座る二人の手元には、ウメが持たせてくれた大量の土産物と、数え切れないほどの思い出が詰まったカメラバッグがある。


冬華は窓の外、遠ざかっていく山々をぼんやりと眺めていたが、やがて湊の肩にそっと頭を預け、消え入りそうな声でポツリポツリと語り始めた。


「……ねえ、湊くん。私、どうしてあんな『氷の女王』なんて呼ばれるような性格になっちゃったのか、自分でもたまに考えるの」


冬華の指先が、自分の膝の上で所在なげに動く。 いつもの凛とした口調ではなく、どこか幼い、独り言のようなトーンだった。


「物心がつく前から、大人は私を『商品』として見ていたわ。綺麗な洋服を着せられて、カメラの前で笑って……。でも、私が少しでも子供らしく泣いたり、嫌がったりすると、みんな困った顔をするの。……私が私であることより、『美しい氷室冬華』であることが、周囲の正解だった」


彼女の声に、微かな震えが混ざる。湊は黙って、彼女の細い手を自分の掌で包み込んだ。


「……だから、決めたの。誰も私の中に入らせないようにしようって。感情を殺して、完璧な仮面を被っていれば、誰も私を傷つけない。……いつの間にか、自分でもその仮面の脱ぎ方が分からなくなっちゃった。……本当は、すごく怖がりで、寂しがり屋な……ただの女の子なのにね」


冬華は自嘲気味に、ふふっと小さく笑った。


「学校でもそう。みんなが私を『女王』として扱うから、私はそれに応えるしかなかった。……でも、あなただけは違ったわ。……あなたは、私の完璧なポーズじゃなくて、その裏側にある『迷い』や『温度』を撮ろうとしてくれた」


冬華は湊の手に自分の指を絡め、少しだけ力を込めた。


「……おばあ様の家で、あんなにタジタジにされて……正直、自分でも驚いたわ。でもね、すごく安心したの。……ああ、私、ここではただの『冬華』でいていいんだって。……醤油を顔につけて笑っても、金魚掬いに失敗して悔しがっても、誰も私を嫌いにならない……」


彼女は湊の顔を覗き込むようにして、上目遣いで、照れくさそうに微笑んだ。


「……湊くん。私、これからも……あなたの前では、かっこ悪い女の子のままでいてもいいかしら? ……学校ではまだ、少し冷たくしちゃうかもしれないけれど。……でも、私の心の中には、ずっとあなたとの夏があるから」


「……ああ。どんな冬華ちゃんでも、全部僕が撮り続けるよ」


湊の答えに、冬華は満足そうに目を細めた。


「……本当よ? ……約束なんだから。……私、すごく……独占欲が強いんだから。……覚悟、しておいてね」


奥手な彼女が見せた、精一杯の「甘え」と「独占」。 列車の揺れが、二人の距離をさらに縮めていく。 都会の喧騒が近づいてくるけれど、二人の間にある空気は、あの秘密の海岸の潮風のように、どこまでも澄み渡っていた。


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