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『氷の女王は、俺のシャッターに恋をする』  作者: 天パ猫(てんぱねこ)


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11話②:職員室の審判と、一筋の光明

香織が掲示板に仕掛けた「毒」は、瞬く間に校内の空気を汚染していった。 その日の放課後、湊と冬華の二人は、放課後の静まり返った生徒指導室へと呼び出された。


「……さて。二人とも、この写真について説明してもらえるかな」


重苦しい沈黙を破ったのは、学年主任の野太い声だった。机の上には、香織が撮影したあの「密会」の写真が、無機質に並べられている。 湊は拳を握りしめ、喉の奥から絞り出すように答えた。


「……これは、体育祭の演舞の練習をしていただけです。僕が、冬華ちゃんを……氷室さんを撮るために」


「練習? 体育館の隅で、二人きりでか? 帰り道のこれ(袖を掴む写真)も、練習の一部だと言うのかね」


主任の言葉には、あからさまな不信感が混じっていた。 隣に座る冬華は、青ざめた顔で俯いている。彼女の震える指先が、膝の上でスカートを強く握りしめていた。奥手な彼女にとって、全校生徒に晒された屈辱に加え、教師から向けられる「不純」という言葉の刃は、あまりに重すぎる。


「……私が、お願いしたんです。……湊くんに、私を、撮ってほしいと」


冬華が消え入りそうな声で、けれど懸命に言葉を紡ぐ。 「湊くんは、何も悪くありません。私が、彼を……」


「氷室、君の立場も考えなさい。君は応援団長だ。模範となるべき生徒が、こんな噂を立てられること自体が問題なんだよ。……当日のカメラの使用も、一旦見直すべきだという意見が出ていてね」


「……っ、そんな……!」


湊は絶望に打ちひしがれそうになった。香織の思惑通り、二人の「表現」の場が奪われようとしている。


「――そこまでにしていただけませんか。主任」


突然、背後のドアが開いた。 現れたのは、美術科担当で、いつも白衣のどこかに絵具をつけたまま歩いている若い女性教師、佐伯さえき先生だった。


「佐伯先生? 今は指導中だぞ」


「指導ではなく、憶測による『弾圧』に見えますけど?」


佐伯先生は、ふらりと二人の隣まで歩いてくると、机の上の写真を一瞥し、鼻で笑った。


「主任、芸術を教える身から言わせてもらえば、この写真は『下手くそ』です。悪意が先走って、被写体の良さを殺している。……でも、こっちは違います」


彼女は自分のスマートフォンを取り出し、湊が以前SNSにアップした、あの「夕暮れの冬華」の写真を画面に映し出した。


「これを見て、不純だの密会だの感じる人は、心がよほど枯れているか、嫉妬に狂っているかのどちらかですよ。……この写真には、撮る側と撮られる側の、純粋な『信頼』しか写っていない」


佐伯先生は、湊の肩をポンと叩いた。


「湊くん。君の写真は、学校の外ではもう立派な作品として評価され始めてる。校内の瑣末な嫉妬で、その才能を潰させるわけにはいかないわ。……氷室さんも。あなたがどれほど真剣に演舞に取り組んでいるか、私は美術準備室の窓から見ていたから」


「佐伯先生……」


冬華の瞳に、初めて一筋の希望が宿った。


「主任。この二人の『潔白』は、体育祭当日の結果で証明させましょう。もし湊くんが撮る写真が、不純なものなら、私が全責任を持って彼の機材を没収します。……でも、もしそれが全校生徒を黙らせるほどの『美しさ』を持っていたら、その時は中傷した連中を、学校側が厳重に処置してください」


佐伯先生の堂々とした宣戦布告に、主任は苦虫を噛み潰したような顔をしながらも、渋々頷くしかなかった。


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