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『氷の女王は、俺のシャッターに恋をする』  作者: 天パ猫(てんぱねこ)


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間話:氷の令嬢の、溶けすぎた深夜の作戦会議

ヒロインは今日も今日とて反省会ฅ^•ﻌ•^ฅzzz

日付が変わったばかりの午前零時。 世界が静まり返る時間、学年一の美少女と称される氷室冬華は、自身の部屋の毛足の長いラグの上で、無様に「行き倒れ」ていた。


「……死ぬ。もう、心臓が足りないわ……」


彼女の瞳が釘付けになっているのは、手元で淡く光るスマートフォンの画面。そこには、湊がSNSにアップしたあの一枚の写真――夕陽の残光を背負い、かつてないほど柔らかな、それでいてどこか切実な視線をカメラに向けている、自分自身の姿があった。


「……私、湊くんの前で、こんな顔をしていたの? これじゃ、まるで……」


言葉の先を紡ぐ勇気が出ず、冬華はのろのろと這いずりながらベッドに這い上がると、愛用のクッションを抱きしめて左右に激しく転がった。いわゆる「のたうち回る」というやつである。


「『一番大切な、最初の人』……って。……って、何なのよ、もう!!」


湊が写真に添えたその短い一文。それを頭の中で再生するたびに、冬華の体温は一度ずつ、着実に上昇していく。 日中、学校で香織に対して言い放った「正妻」のような凛とした態度は、もはや一欠片も残っていない。あの時は、湊を守らなければという義務感と、彼を独占したいという衝動が、彼女の臆病さを上回っただけなのだ。


本当は、あの時だって足が震えていた。 指先が触れ合った瞬間の、あの火傷のような熱が、今も右手の小指に居座っているような気がしてならない。


彼女は震える手でスマートフォンを引き寄せ、湊とのLINEトーク画面を開いた。 そこには、打ちかけては消した、膨大な未送信メッセージの残骸が積み重なっている。


『素敵な写真をありがとう。宝物にします』 ――これじゃ、あまりにも教科書通りすぎて、社交辞令に聞こえてしまう。


『私のこと、そんな風に思ってくれてたの?』 ――これはダメ。自意識過剰だと思われて、せっかくの繊細な距離感が壊れてしまうかもしれない。


『……次は、いつ会えるかな』 ――……っ! まだデートから帰ったばかりなのに、これじゃがっついていると思われちゃう。嫌、絶対に嫌。


「あうぅ……。私、どうしてこんなに可愛くないの……」


冬華は再びクッションに顔を埋め、深く、深く溜息を吐いた。 彼女は自覚していた。自分は「氷の女王」などではなく、誰よりも重度の「湊くんオタク」であることを。 彼の切り取る世界の熱心な信奉者であり、同時に、彼というお人好しで不器用な少年を、独り占めしたいという黒い独占欲を飼い慣らせずにいる。


そして、彼女の心を暗く沈ませる別の予感もあった。


「……ダメね。しっかりしなきゃ。湊くんは、もう私だけのものじゃないんだから」


今回の一件で、彼の才能は「世界」に見つかってしまった。 これから先、彼に群がるのは、香織のような浅薄な女だけではないだろう。 純粋な才能の賞賛者、彼を商品として消費しようとする大人たち、そして――冬華よりもずっと「被写体」として相応しい、魅力的な誰か。


「……私が、守らなきゃ。……ううん、私が、彼の隣にふさわしい人間にならなきゃ」


彼女が湊のパシリ生活を終わらせたのは、単なる善意ではない。 彼を自分の手の届く、けれど彼が一番輝ける場所へ誘い出すための、静かな「略奪」でもあったのだ。その事実に気づいているのは、世界中で彼女一人だけだ。


「……湊くん。私ね、あなたをもう、離さないって決めたのよ」


不器用な少女の顔に、一瞬だけ、ゾッとするほど美しい、冷徹なまでの決意が混じる。 それが恋心ゆえの献身なのか、それとも、天才を囲い込もうとする芸術への執着なのか。彼女自身にも、その境界線はまだ分かっていない。


冬華は意を決して、今日という日の「落とし所」を探るような、短いメッセージを入力した。


『まだ、眠れてないかな? ……今日の映画のパンフレット、読み返してるの。すごく、幸せな一日だったわ。おやすみなさい、湊くん』


送信ボタンを押した瞬間、彼女はスマートフォンを部屋の隅へ投げ捨て、布団の中に潜り込んだ。 心臓の鼓動が、静まり返った深夜の部屋にうるさく響く。 結局、彼女が眠りにつけたのは、東の空が白み始め、鳥たちが囀り始めた頃だった。


そんな彼女の夢の中に、ネイビーのシャツを着て、カメラのレンズ越しに自分を愛おしそうに見つめる湊が現れたのは、必然だった。 そしてその夢の最後、湊が自分以外の誰かを撮ろうとして――彼女がそのカメラを取り上げるシーンで、冬華は目を覚ますことになるのだが、それはまだ、誰にも言えない秘密の話である。

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