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ストレートネックな男

作者: 吟遊蜆

 首園直樹は近ごろ寝覚めが悪いような気がする。きっとストレートネックのせいだ。そういえば靴底の減りも妙に早いような気がしないでもない。それもストレートネックのせいなんじゃないだろうか。階段を降りるとき膝が痛いのも年に二度ぎっくり腰になるのも、きっとストレートネックのせいに違いない。首が真っすぐであるばっかりに。


 直樹は最近ブログのアクセス数が減ってきている原因をつかめずにいる。これもストレートネックのせいだと思う。ちなみにブログの内容は、ストレートネックについて書いているものだ。もちろん書くときの姿勢がストレートネックであるのは言うまでもない。


 だとすると読んでいる本の内容がいまいち頭に入って来ないのも、ストレートネックのせいだと思われる。読んでいる本はむろんストレートネックに関するものだが、少し学術的な入り組んだ文章になってくると、文字が逆流して目から本へと戻っていってしまうのだ。近ごろ本が読めば読むほどぶ厚くなってゆくような気がするのは、おそらくはそうして差し戻された文字が本の中へ積み重なっているせいだろう。


 気になっている女性にLINEを既読スルーされがちなのも、間違いなくストレートネックのせいに決まっている。そのせいで婉曲な表現がまったくできなくなってしまい、つい真っすぐに本当のことを言ってしまうのだ。そうなると職場で部下から慕われていないのも、ストレートネックのせいかもしれない。部下のミスを指摘する際に、やんわりと遠まわしに注意することがどんどんできなくなっていて、つい頭ごなしに正論をぶつけてしまうのだ。これではパワハラで訴えられるのも時間の問題だろう。


 最近ちょっと太ってきているのが、ストレートネックのせいであることはわかっている。おかげで食事が喉をするすると抵抗なく通ってゆくものだから、ついついわんこそばのように食べすぎてしまう。この調子だとその先の腸までもが真っすぐになって、食べたものがすぐに肛門から出てきてしまうような気がしている。口に入れたそばの先端が、ひょっこり肛門から顔を覗かせてしまうかもしれない。もしも直樹がトイレでいわゆる「便所飯」をする日が来るとしたら、それは確実にストレートネックのせいだと思っていい。


 実はこうしてなにもかもをストレートネックのせいにしてしまうのも、まさにストレートネックのせいなのだ。首が極度に真っすぐであるがために、あらゆる問題が脳に送り届けられる直前の首で直線的に引き伸ばされた結果、なんのひねりもない短絡的な発想を反射的に引き出しているものと考えられる。


 直樹本人とて、まさかただ真っすぐであることが、これほどマイナスに働く現実があろうとは思ってもみなかった。だが「愚直」という言葉もある。「素直で真っすぐな人間に育ってほしい」――そんな両親や教師らの願いが見事に結晶化した結果、この「ストレートネックな男」の首を真っすぐこりこりに凝り固めてしまった、という説がいまのところ濃厚である。

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