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大葉の身体紛失事件①

 次の日の朝。


 アレから別の病室に移され、ベッドに寝かされたは良いが、前室の窓ガラスが割れている事や、病院のあちこちが破壊されている事で、カチュウは取り調べを受けていた。上本うえもと愛院めいんは警察官なのだ。


 カチュウはベッドの上で上半身を起こし、頭に猫を乗せていた。愛院はベッド近くの椅子に腰掛け足を組み、カチュウの話を聞いていた。


 愛院は冷ややかな眼差しで「それで? あの窓ガラスの破壊っぷりは、外からの突風だったって言うのね? それ…本気で言ってる?」とカチュウに質問した。


「あ〜…。 いや、そのぉ…(本気で言ってるわけ無ぇだろ、何て言えば良いんだよ。 妖怪がやりましたって? 言えねぇよ、だって痛い子だと思われるもん)」


 廊下の看護師さん達が何やらバタバタと慌ただしくなり、愛院は質問を続ける。


「じゃあ、そのずっと君の頭に乗ってる猫ちゃんは何?」


「ああ、これ? トラックに轢かれそうになってたから助けたんだけど、なんか懐かれちゃったみたいで離れてくれないんだよね。(なんだこの猫ツンデレか? いつからそんな高等技術覚えたんだよ、いい加減降りろ)」


 愛院はバッグから何やらメモ帳らしき物を取り出し、1枚破いてカチュウに手渡した。


「ちょっとカチュウ君、この紙握ってくれる?」


「え? 紙?」


 カチュウはその紙を握り締めた、するとその紙はオレンジ色に輝き出した。


「あ〜、やっぱりね」


「なにコレ? なんか光ってんだけど…」


 愛院が、その紙をカチュウから取り上げた。すると光は落ち着き、しばらくして光は消えた。


「これは御札に使う特殊な紙でね、妖力や霊力に反応して光るのよ。 とても強い妖力と霊力ね、普通じゃないわ」


「妖力と霊力?」


 何がなんだかわからず語彙力を無くしているカチュウに、愛院は自身の警察官としての役割を説明し始めた。


 愛院の部署は『非在事件特殊捜査係』


 正式名称を、 警視庁公安部公安 ゼロ非在事件ひざいじけん特殊とくしゅ捜査係そうさがかりというものらしい。


 妖怪、怪奇現象、心霊現象などの科学的に説明が困難な『非在事件』を捜査し、社会秩序と安全を守るという事を目的として活動しているそうだ。


 愛院は、この近くの神社から「とても強い妖力が集中している」との通報を受けてこの病院に来たのだとか。


「わかったでしょ? だからちゃんと答えて。 昨日の夜ここで、本当は何があったの? 正直に話してちょうだい。 大丈夫だから、ね?」


 それを聞いてカチュウは、包み隠す事無く、入院した経緯いきさつや、その後に大量の妖怪に襲われた事、その妖怪達が共食いして混ざり合ってデカい妖怪になり襲って来た事、そして猫と大葉の力業で妖怪を倒した事。それらを正直に答えた。


「なるほどね、じゃあその猫ちゃんは妖怪で。 君と一緒に運ばれて来たもう1人の患者の魂と、猫ちゃんの妖力が、カチュウ君の魂にくっついてて、妖怪の集団に襲われたと。 猫ちゃんの妖力が戻るまでこの状況が続くってわけね?」


「そうなんだよ!」とカチュウはスッキリした様子である。


 愛院はカチュウに疑いの目を向けながら「それ…本気で言ってるの?」と若干引いている。


 その反応を見てカチュウに『ガーーーン!!』という衝撃が襲う。


「全然大丈夫じゃなかった! こんなトラップある!? だから言いたくなかったんだよ!」


 愛院は慌てて「あ、いや!ごめんごめん! ちょっと特殊ケース過ぎて受け止めきれなかっただけ! そ、そう…大変だったのね」と訂正した。


「遅い遅い遅い!ケアが遅い! そりゃサブもグレますわ!」


「だからごめんて! 本当マジごめん!」


 愛院はカチュウを全力でなだめ、落ち着いて話し始めた。


「それで、これからどうするの? その猫ちゃんの妖力が戻らないと、また妖怪に襲われるんでしょ?」


「ん~。 どうするって言われてもな」


 猫はカチュウの頭の上にしがみつきながら「昨夜の戦いでわかった事がある。 どうやらお前さんの頭に乗って、ワシの妖力に触れていると、少しばかり妖力が戻るようなのじゃ」と答えた。


「マジで!? じゃあ解決じゃん、全力で妖力こねくり回せよ」とカチュウは少し安心した様子。


「いやそれがな。 妖力を抑える事には成功したんじゃが。 何故か妖力の戻りが弱いんじゃ。 もしかすると、大葉と魂の入れ替えをする必要があるのかも知れんな」


 カチュウは全力で嫌な顔をした。


「全力で嫌な顔をするでないわ。 まだ確証も無い。 それに、それに毎回そんなボロボロになるのは、流石のワシとて心が痛むわい」


 愛院は喋る猫を見て驚いた顔をして「尾が1本でここまで喋れる猫ちゃんも珍しいわね…」と呟いた。


「あ〜、コイツ元々尻尾3本あったよ。…えっと、なんだっけ猫又ねこまただっけ?」


猫魈ねこしょうじゃ! あんなもんとはレベルが違うわい!」


 愛院はそれを聞いて前のめりになり「猫魈!? それは凄いわね!」と目を輝かせている。


 猫はドヤ顔でカチュウを見下ろし「ほれ見てみい、わかる者にはわかるんじゃ、ワシの凄さは」と優越感に浸っている。


 カチュウは「呑気にトラックに轢かれそうになってた奴がよく言うぜ」と溜め息を吐いた。


「誰が呑気じゃ! トラックに轢かれたくらいではワシは死なんわ」


 愛院は少し引っ掛かっていた。カチュウが猫を『猫』と呼んでいる事に。


「ねぇカチュウ君、その猫ちゃんの名前は?」


「え? 猫でしょ?」



「そうじゃなくて名前よ。 私ずっと『猫ちゃん』なんて呼べないわよ」


「え〜…? おい猫、お前の名前って何?」



「ワシの名か? 火車かしゃと呼ばれておった時期もあったが、アレは名前というよりは職業名のようなものじゃからのぉ。 猫でよかろう?」


「だよな? んじゃあ『猫』で」


「良いわけ無いでしょ! ちゃんと考えなさい! それに、きっと友達にも聞かれるわよ? ずっと頭の上に居るんでしょその子。 『その猫ちゃんの名前は?』って聞かれて『猫だよ』って答えたら、ドン引きされるわよ? 特に女子には致命的よ、必ず嫌われるわ」


 愛院の言葉は、思春期のカチュウの心に深く突き刺さった。


「と言うわけで、名前を決めないといけなくなった。 大葉、さっきから大人しいけどさ。 猫の名前考えてくれよ、お前小説家だろ?」


 大葉はとても具合の悪そうな声で「猫さんの…名前ですか…。 そうですね… 長生きされているようなので… 古風な名前が良さそうですね…」と答えた。


「古風な名前かぁ」


 カチュウと大葉の会話に『?』を浮かべる愛院。どうやら大葉の声は愛院には聞こえないようだ。


 カチュウが腕組みをして、少し考えて「じゃあ、ニャン太郎だな」と呟くと、愛院は盛大に難色を示したが、猫が「じゃあそれで」と言うので、猫の名前はニャン太郎となった。


 しかし気になるのは。大葉の具合が次第に悪化しているように思える事だ。


「おい大葉、お前大丈夫か? なんか…心なしか色も薄くなったような?」


「そうですね…少し…疲れているようです…。 昨夜の一件があったからでしょうか…。 先ほどから身体が重いんです…」



「あんだけ無茶したらそりゃそうだろうよ! 俺を見ろ! 全身筋肉痛でちょっとしか動けねぇんだぞ! 責任取って印税よこせ!」


 その会話を聞いたニャン太郎は、魂が疲労を感じている事に疑問を持った。


「ちょい待て、身体が重いじゃと? 意味がわからん。 魂の入れ替えにそんな副作用は無い。 まさか…。 おい、大葉の身体は今何処にあるんじゃ」



 カチュウは「え? 集中治療室だろ? アレ? そういや何時間経った? 長いな」と廊下を見つめた。


 看護師が先ほどから、慌ただしく行ったり来たりしている様子を見て、ニャン太郎が「もしかすると、大葉の身体が死にかけとるのかも知れんな」と不穏な事を言い出した。


「は? それって…もし身体が死んだらどうなんの?」


「大葉が死ぬ」


 愛院が、近くを通った看護師に大葉の事を聞いてみると、看護師は焦った様子で答えた。大葉の身体が病室から消えたと騒ぎになっているそうだ。


 それを聞いて驚くカチュウ達を他所よそに、大葉は「ふふっ… それは少し困りましたね…」と苦笑いを浮かべながら答えた。


「少しじゃねぇよ!もっと困れよ! お前死んじまうんだぞ!」


「それも…運命ですね…。ふふっ」


 笑いながら諦めの言葉をこぼす大葉に、カチュウは「大葉、お前…『オオカミ少年』の教訓を知ってるか?」と問う。


 大葉が「オオカミ少年の教訓…ですか? 嘘をつくな… もしくは…嘘をつくならつき通せ… ですか?」と答えると、カチュウは大葉の魂に顔をグイッと近づけ「ご近所付き合いをしっかりしてりゃ、死なずに済んだってことだ。 お前だけ勝手に諦めんな。 探すぞ、お前の身体」と真剣な顔をして見せた。


 大葉は、カチュウの独特な解釈に妙に納得してしまった。


「はい… ご迷惑をおかけします… 」


 すると、大葉の魂の色が更に薄くなってきた。


「おい!ヤバイぞ! 愛院さん!ちょっと車椅子持って来て!電動のヤツ!ダッシュで!」


「え!? わ、わかったわ!」


 愛院には大葉の声は聴こえない。しかし、ただ事では無い状況だという事をだけは理解できる。愛院は急いで車椅子を取りに病室を出た。




読んで頂き感謝です( *・ω・)

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