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第7話 襲撃

 ホブゴブリン討伐から約1ヶ月後、アルテミスは既に通常の業務に復帰できるまで回復した。教師以外にもマリア修道長からの”依頼”に関しても同様だ。最近はゴブリン以外にもコボルト系の魔物が増えてきており、田畑や家畜の被害がともに増えているとの事。

 変化があると言えば彼女が助けた集落との交流が始まったのも挙げられる、最初こそ警戒していたが取引を重ねるごとに解けていき、他の商人達とも交流しているようだ。


「ふぅ、午前の授業も終わったし外にでも行こうかな? 」


 子供たちは既に帰宅しており、教室にはアルテミスただ一人……片づけを終えて背伸びをしているとノック音が聞こえてくる。身だしなみを整えたのち応答すると、ランロット騎士団長が入ってきた。


「シスター・アルテミス、少し時間を……貰える、かな? 」

「何でしょうか、ランロット騎士団長? 」


 ランロットは部屋に入ると扉の鍵を閉める、アルテミスは既に嫌な予感がしていた。理由は不明であるが彼から殺意がひしひしと伝わってくるのだ……無言のまま一歩、また一歩と近づいてくる。そしてとうとう腰に差しているショートソードを引き抜いた。


「……冗談にしては笑えませんよ? 」

「……」


 ランロットの目から光が消えているのが分かる、正気を失い誰かから操られているのだろう。アルテミスは解呪を試みようとするが彼は既に剣を振るおうとしていた。


 ブゥン……メキャア!!


 上段から振り下ろされた剣はアルテミスの居た机を斬り裂いた。解呪を中断して横にとんだ事で無傷で済んだが状況は変わらない、続けて横に薙いでくるが下に躱してランロットの顎目掛けて蹴りを放つ。


「オゴォっ?! 」

「悪く思わないでね! 」


 ランロットは顎を押さえて痛みに悶える、その隙にアルテミスは教室の窓を突き破って外に出ると彼と同様に目から光を失った騎士が2人立っているではないか。武器を抜くとフラフラと奇妙な動きで襲い掛かってくる……躱して迎撃をするが反応はランロットと同様だった。アルテミスは紅練気を纏いそれぞれの鳩尾目掛けて拳と蹴りを放つ。身体がくの字に曲がり教会の壁に吹き飛ばされる騎士達、念のために生きてるかを確認するが上手く気絶させられたようだ。


「意識を絶てば良いのかしら……って呑気に考察してる場合じゃないか」


 生存の確認直後の事であった、ランロットが扉を壊して外に出てきた。周囲は異様に静かだ、まるで都市の住民すべてが眠りに落ちてしまったかのように。普段ならば他のシスターが慌てて飛び出してくるはずなのだが気配すら感じない。

 しかし確認している時間はない、ランロットは目の前に迫っていた。


「う……グゥ?! 」

「ランロット騎士団長?! 」

「アル、テミス君……か? 逃げ、ろ……街に敵が…………うぅ?! 」

 

 ランロットは頭を押さえたまま俯く、再び頭を上げた時には目から光は失われているのであった。剣を構えると先程とは違って機敏な動きを見せる。鋭い斬撃を繰り出してくるもアルテミスは回避と受け流しを使い分けて冷静に対処していた。


「敵は街にいるのね、それだけ分かれば十分!! 」


 容赦なく、腹部に紅掌破を放つ。凄まじい衝撃が身体を貫き、ランロットはその場に崩れ落ちる……もちろん死んではいない。脈がある事を確認した後、街へと駆け出した。


 ◇


 街の中心広場、そこには1体の魔物が立っていた。髑髏の付いた杖を持ち、身体にはボロボロの布を纏っている。その魔物の名はゴブリン・シャーマン。魔術を得意としており、辺境とはいえ一つの都市をこの様な状態にする個体は存在しないはず……よく見るとその身体から紅いオーラが滲み出ていた。


「紅練気……!? 」

「ゲゲゲッ、我、宿スハ、最強ノ戦士!! 」


 杖を天に掲げ、奇妙な呪文を唱える。アルテミスは阻止するべく接近を試みるが距離がありすぎる……魔物が身体を大きく仰け反らせると凄まじい風が彼女に吹き付ける。

 ゴブリン・シャーマンの身体はメキメキと音を鳴らしながら変形していく……体は一回り以上大きくなり、腕や脚は丸太のように太くなっていた。


「カハァ…………良イ、心地ダ」

「アンタ、名は? 」

「我、ハ我ダ。名ハ無イ」

「じゃあ見掛け倒しじゃないの!? 」


 アルテミスは紅練気を纏い拳や脚技の連撃を仕掛ける。だが魔物は微動だにせず、攻撃を全て片手で受け流していた……ため息を吐くと杖を剣のように振るってくる。アルテミス脇腹にめり込むと力任せに振り抜いて勢い吹き飛ばすのであった。


「ゴハッ……?! 」

「寝テイル暇ハ無イゾ! 」

「ッ〜! 」


 魔物は次の攻撃準備に入っている、上段に構え目の前に迫っているではないか。アルテミスは視認してから回避行動を取るが、振り下ろされた風圧で無理やり体勢を崩されるのであった。

 

「いい加減に……! 」


魔物の頭部に目掛けて渾身の蹴りを放つ、直撃したが怯む様子はない。脚を掴むと地面へ叩きつけてダメージを与えてくる、数度叩きつけた後、ボロ雑巾を捨てるように放り投げ、飛び上がって杖を振るおうとしてくる。


「クッ、痛ったいわね!! 」


 紅練気を腕に集中させて攻撃を受け止める、そして流れるような動きで後ろに回って頭部を蹴りつけて距離をとるのであった。

 不意を突かれた魔物は体勢を崩していた。アルテミスはその間に息を整え、治癒魔法を掛けるのであった。


「イツツ……もしかしてそっちも痛かったりする? 」


 軽く挑発してみると、相手はあっさり乗ってくれた


「五月蝿イッ」


 魔物は攻撃を繰り出すもアルテミスには当たらない。彼女の苦しい表情もやがて余裕を見せ始める……確信は相手が焦っているように見えたらしい。普通に攻撃しても効果が薄いと感じた彼女は秘策を思いつく、大振りの攻撃を回避後、距離を取って再度挑発を行うのであった。


「たった一発でアタシの頭を潰せば終わるのにまだできないのかしら? 最強が聞いて呆れるわね」

「グヌヌ、ヌゥンッ!! 」


 魔物は怒りをあらわにすると、杖を上段に構えて突進してくる。間合いに入ると相手が振るう前に一歩踏み出して左腕を突き出す、勢いよく突撃してきた魔物の腹部に突き出した左拳がめり込み、身体が"く"の字に曲がると衝撃が身体を突き抜けた。


「グオオ……何、ヲシタ?! 」

「何って、アンタの力を利用しただけよ」


 彼女の言うことはシンプルである。簡単な例えをすると斜めに突き出した支柱に自ら全速力で体当たりしたようなモノだ。

 魔物の身体は徐々に萎んでいく、アルテミスが考えていた通り時間制限のある術だったらしい。完全に元の姿に戻ると糸の切れた人形のように倒れてしまう。


「ふぅ〜……危なかった、知能はゴブリン並みで助かったわ」


 その場に座り込むアルテミス、やがてゴブリン・シャーマンの身体から真紅いオーラの玉が出現し、彼女もとにフワフワと近づいてくる……迷うことなく触れるとゆっくりと吸収されていくのであった。

 呼吸が落ち着いた頃に再び立ち上がると状態を確認する、どうやらまた一段と紅練気が強くなったらしい。

 技を試そうとしたが眠っていた住人達が起き出してきた為、大人しく教会へ帰ることにした。騎士団長等から謝罪を受けたが、アルテミスはある決意を固めるのであった

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