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第6話 再生と暗雲

 〜再生の集落 コルト〜


 ホブゴブリン討伐後状況は一気に優勢に変わる。戦闘も落ち着き、逃がしたエルフ達も戻ってきた……ここ数日アルテミスは集落の修復作業を手伝ったりしているようだ。


「ありがとう、こっちはもう大丈夫だ」


 手伝っていた場所の作業が終わると休憩しててくれと言われ、丸太の上に腰掛ける。穏やかな風が頬を撫で心地よい気分になる。

 暫くした後、作業を再開しようと立ち上がると同時に声をかけられる。


「アルテミス殿、今回は本当に助かった」

「アンタは村長さんね、当然の事をしたまでよ。そんな気にしないで」

「あのままでは状況が酷くなる一方だった、いくら礼を言っても足りないくらいだ」


 村長エルフは深々と頭を下げると隣に腰掛ける。


「人間と話したのは本当に久しぶりだった。王都で種族差別等を受けてからは何もかも信じられなくなってしまってな」

「……昔あった事件ね、エルフに限らずドワーフも酷い目にあったと修道長から聞いたことがあるわ」


 人間以外の就労禁止、種族によら販売価格の変動、入都手続きの差別等など……約150年前にあった他種族差別事件だ。今や歴史の本にも書かれ人間の汚点とも言われている。


「今でも根に持つ者は多い、だが今回の一件で過去に囚われすぎるのも問題というのがよく分かった。難題に対して互いに手を取り合わなければな」

「……そう、でも少しずつで大丈夫よ。いきなり全員が変われる訳ではないからね」

「ああ、分かっている」


 村長は修繕の手伝いはもう十分と言い、レオス・ミノアへ今回の報告をする事を勧めてくる。この集落に通信機はない為アルテミスは道中残党処理しながら帰る事を伝えるとエルフの集落を後にするのであった。


 ◇


 コルトからの帰り道、やはりゴブリンの残党がチラホラ見かける。その都度討伐しているが全てを相手にしていては日付がまた変わってしまうだろう。

 しかし彼女は再び会得した紅掌破(こうしょうは)を試すのも考え、森や茂みをかき分けて進むのであった。


「ん〜……まだ全盛期には至らないかぁ」


 試しに岩に対して放つが掌底の跡が残る程度に留まる、本人曰く身の丈程の大きさならば普通に砕けていたらしい。威力、紅練気(こうれんき)の使用量はまだまだ未熟……自身の立ち位置を認識すると残党処理を再開するのであった。

 そしてゴブリンを見つけ、討伐しようとした際悪寒を感じそのゴブリンと距離を取る。


「……あんた何者? 」

「ケケケ、ウチの変化に気づいたのね」


 ゴブリンは黒い影、そして球体に変化すると何かに揉まれるような動きをし、やがて人間の女性らしい形になる。影に少しずつ色がついていく……そして影だったモノはアルテミスにとって見覚えのある姿になった。


「アンタは……! 」

「ん~ウチの事知ってるの? いや知ってて当然かぁ、有名人だもんね」


 目の前に現れた女性は人の形でありながら、肌の色は薄い灰色で、瞳が獣のようなモノになっている。しかしそれ以外は人間と変わらない……魔王が生み出した【魔人】と呼ばれる新たな種族らしい。

 その魔人は癖毛の金髪ショートで衣服はフードと盗賊のような軽装を身に纏っている姿をしていた。一番特徴的なのは左肩に金色の蜘蛛の入れ墨をしている事だろう。


「【金蜘蛛(かなぐも)】のダチュラ、人族を裏切った勇者パーティーの一人ね」

「ふふふ、ウチの子を倒したのが女の子って聞いたから見に来たけどぉ……あまり強そうじゃないわね」

「じゃあ、試してみる!? 」


 アルテミスはダチュラに飛び掛かる、だが拳を突き出したと同時に目の前に壁が出現し攻撃が阻まれてしまった。


「フゥン、まぁまぁ速いのね」

「イッツ……ならコレで! 」


 紅練気を纏い、紅掌破を放つと亀裂が入り壁が砕ける。ダチュラも一瞬驚いた表情をするが、すぐに薄気味悪い笑みを浮かべる。次の瞬間アルテミスの左方向に衝撃が走る……何処からともなく丸太が現れ彼女を吹き飛ばしたようだ。


「グフ……ケホッケホッ! 」

「クスクス……蜘蛛の巣に掛かった蝶みたい、もっと遊んであげる」


 その後アルテミスは丸太の殴打を連続で受ける、紅練気を防御に回しダメージをできる限り抑えていた。最終的にはロープで縛られ、まさに蜘蛛の巣に掛かったかのように吊り上げられるのであった。


「もっと楽しめるかと思ったけど、コレじゃ弱い者イジめになっちゃうわね」


 ダチュラが指を鳴らすと縄や丸太が一瞬で消え、支えの消えたアルテミスは地面に落ちてしまう。ダチュラは彼女の目の前に移動し、しゃがんで小声で話しかけてくる。


「今は気分が良いから見逃してあげる、でも……次は無いからね? 」


 するとダチュラは笑いながら黒い影となり、地面へ沈んでいくように姿を消してしまう。完全に気配が消えたのを確認するとアルテミスはヨロヨロと立ち上がり、近くの木にもたれ掛かる。


「ゴホッ……容赦なく遊んでくれるじゃないの。相変わらず趣味が悪いわね、ダチュラは」


 腰のポーチから治療薬を取り出し、一気に飲み干す……凄まじく苦いが、少し時間が経てば動けるようになるはずだろう。幸いにもゴブリンと出会うことはなく、近くの集落まで移動することはでき、宿に一泊してからレオス・ミノアに向かうのであった。


 ◇


 〜西の辺境都市 レオ・ミノア〜

教会の治療室にて、アルテミスは他シスターから治癒魔法を受けながら修道長に紅練気の事は伏せつつ報告をしていた。


「……そしてあの【金蜘蛛】と出会ったと。なんとか生き残ったってのかい? 」

「まぁ運は良い方だと思うけど、イツツ」

「治療痛は我慢しな、しかしコルトを解放したのはお手柄だよ」

「向こうも背に腹は代えられなかったみたいだったからね、後は真摯に動いたってしか言えないわ」


修道長はアルテミスの健闘を称え、暫くは休養するように告げて治療室を出ていく。のちに治療を行っていたシスターも出ていくと彼女一人だけの空間となった。紅練気を纏った魔物、そしてダチュラとの対峙……様々な事を思い出し行くうちに、アルテミスは深い眠りに落ちていくのであった。

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