第5話 反撃の狼煙
男性エルフ達を開放すると一気に戦闘が始まった。ゴブリン達は手に持った武器で応戦するも、魔法使い多数相手には分が悪いようだ。矢を放たれるも障壁に弾かれ、エルフ達には届かない。
しかし魔法を使う為の魔力も無尽蔵ではない、ある程度休息を挟まなければ魔力は回復せず、その隙に押し返されてしまうだろう。
「武器を奪え! 奪ったら少しでも魔力を節約して応戦しろ! 」
村長エルフの指揮は的確で魔力の事を考えての布陣を組む、徐々に武器を持つエルフが出始め、ゴブリンとの接近戦も始まる。
「お前の名は何という? 」
「アタシ? アルテミス・ベルスターよ、レオス・ミノアでシスターをやってるの」
「その動きで傭兵や騎士団ではないのか! カカッ、面白いやつだな! 」
アルテミスは近づいてくるゴブリンを拳と脚で蹴散らしていく、村長エルフは棍棒と魔法で応戦し、互いの背中を守るかのように動いている。
「さぁて、頭倒さないとジリ貧よ。何か手はあるかしら? 」
「ゴブリンのボスか? それなら私の家を根城にしてるぞ。一番でかい家を目指せ、今道を拓いてやる」
「一人で戦えるの? フンッ! 」
「問題ない! 他のヤツが援護してくれる、行けぇっ! 」
すると村長エルフは棍棒で地面を叩き、魔法を発動させる。彼の正面に魔法陣が出現すると真空波が発生し、並んでいたゴブリン達を切り刻む。アルテミスは彼の言葉を信じ、拓けた道を突き進むのであった。
◇
道中邪魔をしてくるゴブリンがいたがアルテミスは難なく対処し、やがてこの拠点で一番大きな建物へと到着する。装飾としてなのかズタボロな布に動物の血で独特な紋様が描かれたモノが飾ている。
扉が蹴破られると中から他よりも一回り以上大きいゴブリンが姿を現す。体色は苔生したような緑ではなく、暗い青。頭部に角が生え、体には錆びた金属鎧を身に着けている。
「ホブゴブリン……! 手強そうね」
「ガガガッ、我ラニ歯向カウトハ愚カナ事ヲ! 」
「あら話せるのね、ならとっとと降参しなさいな。時期にエルフ達が押し寄せてくるわよ? 」
「舐メルナ人間! オレ等強クナッタ、簡単ニハ負ケナイ!! 」
ホブゴブリンは背負っていた曲剣を引き抜くとアルテミス目掛けて接近し、連撃やフェイントを織り交ぜて攻撃してくる。我流だがどれも鋭い攻撃だ。
「よっ、ほっと」
「グギギ、動クナ!! 」
「むっ?! 」
左手を向けてきたと思えば拘束魔法を仕掛けてくる、予想外だったのかアルテミスは抵抗できずに魔法を受けてしまった。足が地面に吸い付くような感覚がし、その場からの移動を制限されたようだ。
動けないアルテミスに対してホブゴブリンは剣を振るう。
「なんのこの程度じゃ……フンッ! 」
ガキィン
手甲を使って剣を弾き、前に出てきた力を利用した反撃を繰り出す。右拳がホブゴブリンの頭部に直撃……だが口の中を切る程度の威力だったらしく、倒すまでは至らなかった。
「良イ一撃ダ」
「チッ、流石に倒れないか」
今の攻撃で拘束魔法が解けたらしく、アルテミスは数歩後退する。その後も正面からぶつかり合う事を繰り返し、彼女はホブゴブリンに対し違和感を感じるようになった。ゴブリン系にしては人間と会話できるほど理性があり、体力もある……自身の知る知識と比べても全く合致しない。戦闘を行いつつ相手を観察していると、身体から真紅いオーラのようなものがにじみ出ている事に気づく。
「……何あれ? 」
「余所見シテイル暇ガアルノカ!! 」
「おっとっと、危ない危ない」
彼女にはそのオーラに見覚えがあった、その名は紅練気。かつてアルテミス……まだ【ルナ・ビルガー】と名乗っていた時に編み出した流派の技である。体内に巡る【気】を練り上げる事で身体能力の向上を図り、取得すれば強靭な肉体を得る事ができるのだ。しかし現状で使えるのは自身のみと考えていたが、考えてみれば元弟子も扱える。おそらく魔物の強化するのに応用したのだろう。
「気に食わないわね、ならアタシも本気でやるか。スゥ……ハァッ!! 」
掛け声と同時に全身から真紅いオーラが噴き出す、本来は身体を薄い膜の様に覆うはずなのだがオーラが収束する様子はない。
「チッ……今の実力じゃこれが限界か、でもまぁ――」
「ナっ!? 」
「あんた相手なら十分! 」
一瞬で背後に移動し、回し蹴りを放ちホブゴブリンを吹き飛ばす。浮くことは無かったが地面に大きく滑った跡が残っている……砂煙で正面が見えなかったが右方向から何かが飛び出してくるのを確認できる。ホブゴブリンは迷うことなくそれに向かって曲剣を振るう、だがガキンッと鈍い音が鳴り、手が痺れるのであった。
「ア……ガッ」
「残念、ハズレよ!! 」
刃が当たったのは人の頭ほどの石、弾かれて硬直状態のホブゴブリンに対しアルテミスは拳を突き出す。脇腹にめり込み、頭が下がったところを上段蹴りを放つとそのまま振り抜いた。勢いよく吹き飛び、地面を数度バウンドしたのち地面を滑っていく。気を抜かずに構え直すもホブゴブリンが動く気配はない、どうやら彼女の勝利のようだ。
久しぶりに技を使った影響なのか鼓動が早くなっていた。深呼吸を行い気を静めているとホブゴブリンの身体から真紅いオーラの玉が現れ、アルテミスの下にふわふわと漂う様に近づいてくる。
「コレは……あいつに宿ってたオーラ? 」
一瞬ためらうがそのオーラに触れると、吸い込まれるように消えていく……そして次の瞬間ドクンっと強めの鼓動が来たかと思えば全身に力が行き渡っていくのを感じた。試しに紅練気を再度発動してみる、特に変わった様子はない。しかし掌底を打ち込むような動きをするとオーラが腕部に集中し、より強力な一撃を放てるようになっていた。しかし蹴り技は変わっていないようだ。
「【紅掌破】……あいつを倒したから使えるようになったの? 」
彼女の推測で間違いはないはずだ、オーラを纏った敵を倒せば自身の紅練気も強化される。だが自己鍛錬が無駄という訳ではない、オーラに見合った身体ができていなければ十分に扱う事は出来ないだろう。
アルテミスは考察をある程度纏めると、村長たちの下へと戻るのであった。