4 かいこう
「おはよう!」
ノックと同時に入り口が開く。
「鍵閉め忘れてるよ、不用心!気を付けなよ。体調どう?9時で朝食時間終わるよ」
「・・・何時?」
寝起きの情報量は多いが、元々目覚めはいいシオは、身体を起こすと、時間を確認する。
8時だ。
「流石に疲れてたかな。ベッドと重力はよく寝れる」
朝食のために起こしに来てくれたユージンに連れられ、シオは食堂へ。
朝食セットのトレーをもらい、空いている席に向かい合わせで座った。
パンとゆで卵。
ベーコンポテトスープ。
グリーンスムージーのジョッキ。
なぜジョッキ。
「このドックの従業員がさ、野菜を食べないから、食べないなら飲めって毎日これ付くんだ。さあ、いただきます」
「いただきます」
りんごと小松菜のスムージーは美味しかった。
スムージーは日替わりで味が違らしい。
「さて、今日の予定です」
ユージンは改まって、シオを見た。
「今日は惑星ジエルに向かいます。会社に船返して辞表出すから。午後はニューミヤのおじさんに時間作ってもらったから会いに行きます」
「わかった。全部お膳立てしてもらって悪いな」
「全然。働いた分の給料もらう予定だから、新会社の設立急がないと」
人工星メリクリウスから、3光年先の独立惑星国家ジエル。
メタリックなピンクとブルーにさざなみ煌めく惑星ジエルは、小規模な星間航路の中継都市である。
小規模といえど、惑星経済国家ランキングでは名だたる大規模惑星圏国家がある中で、十番台を維持し活気のある惑星だ。
メイン産業は宇宙関連事業。
造船、販売、改造、メンテナンス。宇宙船製造技術学校、宇宙船操舵免許スクール、宇宙条約法務アカデミーなどの学校法人の運営他多数。
小さな惑星1つがまるっと宇宙船関連事業に特化し、メタリックな外層が宇宙港で知られている。
国を挙げて積極的に企業誘致を掲げていて、宇宙船関連事業の法人への税優遇があるのも理由だろう。
ユージンの勤めている宇宙物流(株)もここにある。
会社に向かうユージンに、ショッピングモールの吹き抜けの噴水で待ち合わせをしたシオは、散策しながら場所を探す。
オフィス街だからか、スウェットの部屋着姿が悪目立ちしている。
丁度良く紳士服店が眼の前にあり、躊躇いなく入った。
ネイビーのピンストライプのスリムシルエットなシングルスーツに、少し青みのあるシャツとピーコックグリーンベースのネクタイ。
靴も合わせて、元の服をショップの紙袋に入れてもらった。
店から出て視線を動かすと鏡の付いた柱に自分を確認する。
軍規で士官以下は頭髪は短髪を義務付けられているため坊主ではないが短い。
「眼鏡もするか」
鏡の自分がまだサアト・ショーンしているので、雰囲気は変えないと居心地が悪い。
シルバーの縁の伊達メガネを装備して、イメチェンに満足する。
時間も丁度いいので、待ち合わせ場所に向かう。
噴水側のストリートピアノでは、レトロクラシックを若い女性が弾いていた。
待ち合わせ場所としては、見通しが良くてわかりやすい。
吹き抜けは、ぐるりと大規模な螺旋階段が4階くらいまで続いている。
そんな階段を団体が移動してるのが見えた。
遠目にも分かるような長身美形の男性がすごい速度で歩くのを、女性の団体が追いかけているようだ。
芸能人だろうか?
「シオ、お待たせ。メガネとスーツいいねぇ。無事クビになってきたよ」
明るく言うことではないセリフで、ユージンが合流する。
改めてユージンを見れば、スウェットや作業着でなく、ジャケット姿でオフィス空間になじむそれなりの服を着ていた。
視界の端に3階ほどにいた団体がぐるっと吹き抜けを周り、2階から1階に着く。
顔のサイドが少し内巻きのサラリとした金髪で、とてつもない美形が周りの視線を集める。
長めのカーディガンを靡かせているのが絵になりすぎて逆にこわい。
「うわ、何アレ」
同じものを見たユージンが、にやけてつぶやき、手をあげた手をあげた。
すると、どんっと背後から何かに激突さる。
同時にギュッと抱きしめられ、荒い息が頭に当たってシオは、硬直した。
「シオくん!本当にシオくんだ、つむじが2つある」
「え。誰?!怖っ、知らない情報」
「オーディエンスを引き連れて登場したのは、今日待ち合わせをしていたニューミヤおじさんとこのルイでした。てか、特定の仕方気持ち悪い」
そういえば、同じ歳の幼馴染はいつも背中にくっついていた印象がある。
だが、成人男性同士ですることではない。
追いついて来た、女性団体もドン引きだろう・・・?
(*´﹃`*)(〃∇〃)(,,゜Д゜)(。ŏ﹏ŏ)
変な雰囲気と変な鳴き声を上げて去っていった。
「・・・ふん。帰って仕事してろ腐女どもめが」
「アレが同僚がファンクラブ勝手に作ってたって言ってたアレ?」
うわぁという表情で去りゆく群衆を見送る。
「オレはただのシステムエンジニアだぞ!ファンアートとかって勝手に裸にされて、めちゃくちゃなことされた画像作りおって!(コレは妄想です)って付ければ赦されると思うなよクソどもが!性的に襲われたなら刑務所にぶち込めたものを!」
むちゃくちゃな、事を言いながら、ルイは身体を離して礼をする。
「シオくん安心して。オレたちの何かしらが出回ることはないから」
「そのこころは」
「界隈は特定した。アクセスしたらハードもソフトも崩壊するウイルス仕込んだ」
「ひどい。会社でアクセスしたら大変なことになるんじゃ」
ルイはキラキラとするエフェクトがとぶような表情浮かべる。
「さよなら、永遠に・・・」
やや低音の声もまた良い。
「セクハラで訴えても受理しなかった、退職した会社だからな。なにが、『君は若くて綺麗だからもてて羨ましいよ』そういう事じゃないだろう」
「うろん」
「胡乱な目で見てること口にでてるぞユージン」
子供の頃からとびきり美少年だったが、大人になってこうも圧倒する美貌の青年になるとは。
性格はこんな苛烈じゃなかったが、十年いろいろあったんだろう。
「どうでもいいさ。もう会うこともない輩なんぞ」
気を取り直して、ルイはキリッと姿勢を正した。
「父がお待ちしてます。シオウ様。我が家へどうぞお越しください」
笑顔が眩しく、ホントに顔が良いという感想に終止するのが個性なんだろうな。