2 さきゆき
どこへ行くのかわからない慣性移動ではあるが、なんとかまだ生きている。
あれから3日。
困っているのは昨日からの停電。
操縦をしようと触ったら、何故か電源が落ちた。
慣れないことはしないほうが良かったと、反省しながら生命維持装置の付いた宇宙服を着込み、艦橋上部にある自室の砲撃室で寝起きして、いい解決方法が思いつくのを待っているところだ。
館内の空気はまだある。
まだ大丈夫。
そして今、デブリの衝突とは違う異音と、人の気配目を覚まし、息を殺してそっと下を覗き込んだ。
「・・・軍用艦かな?所属が外には無かったし、エアーはあるけど、損傷はほとんど無いしでも無人って、廃棄船にしても・・・」
突然、艦橋に現れたのはライトを手にした若い男のようだ。
民間用の宇宙服で、ヘルメットの前を開けている、
「・・・・まずは電源だな。機械室でいければいいけど、外部取りは厳しいしな〜」
艦橋を再び出ていき、しばらくするとブォンと音がして、死んでいた電気がついた。
再び艦橋に戻ってきた青年はオペレーター席に座ると、何やらはじめた。
「・・・ステラ惑星連合のβ艦(仮)?(仮)って何?はじめて見たんだけど」
「実験艦だからな」
「うわぁ!」
覗き込んで声を掛けると、侵入者は飛び上がった。
左右を確認する侵入者に、上階の穴からゆ~っくりと降りる。
動きから見て相手は格闘が出来そうなので、両手を上げて堂々と登場だ。
「人いた!?居るなら応答してくださいよ!?」
「申し訳ない」
大袈裟に困った笑顔をして見せると、意外なことに、彼は目を見開き首を傾げた。
「・・・シオ?その、エクボのほくろ。双子惑星の若様のシオだよね」
面影を思い出した。
「ユージンか?すっかり大人になって」
「うわぁ、懐かしい。今何してるの?」
「・・・・・遭難?」
「詳しく話して」
10年ぶりの再会に、ホッとしたのもあり、彼は事の次第を説明した。
場所は移して、β艦に接岸したユージンの小型運搬船の中である。
3日ぶりの水と食事をもらいひと息つきつつ、すべて話し終えると、ユージンは爆笑した。
「帝国艦を轟沈とか?!」
ユージンは爆笑して、視線をβ艦へ向けた。ウの音聞こえないし。
「10年前の仕返しとしたら細やかだけど大成果でしょ。郎党達の中には反帝国してもなんの成果も上げられてなかった奴らもいるしね。・・・でもまあ、よかったんじゃない?」
ユージンは、端末を操作していた顔を上げ、すいっと、惑星ニュースチャンネルを見せる。
【大銀河帝国内乱を否定】
【ステラ宇宙連合試験実験中の事故―不明者多数、生存は絶望】
【帝国とス連協調路線か】
「そういうことらしいよ。アレも悲劇の事故で遺憾の意でまとめたヤツらだし」
「不明者リストにあるのはα艦に行った奴らだな、あの戦闘に巻き込まれてか、本当に事故かわからないけど」
これがあって、β艦は緊急離脱したようだ。
詳しくは不明のままだろう。
ニュースチャンネルを進めると、不明者リストに自分の名前があった。
ハッとして、軍用口座を開くと既にロックされてる。
頭を抱えていると、リストを見ていたユージンがつぶやいた。
「シオの名前無いよね」
「ん?」
「え?」
少しの沈黙。
はたと、大事なことに気がついた。
「・・・あ、ぁあ、そうかそうか。大丈夫だ。逆に良かった気がする。俺は、佐藤志央だ」
「シオってシオウだっけ?シオだと思ってた」
「シオでいいよ。ウの音発音するとお父様の名前に近くなるからどこ行ってもシオだったし」
サアト・ショーンのドックタグを外してポケットに入れた。
惑星の消滅で一族を失い孤児になったため、惑星連合に移されて15歳で兵学校に入る際サトウ・シオウの名前が、事務のミスでサアト・ショーンで登録されたのだ。
10年親しんだ名前であるが、軍規違反諸々の全て持っていってもらえばいい。
サアト・ショーンは死んでもらおう。
「シオって商会の跡取りだよね?再建とか考えてる?」
「事業がほぼ死んでるから、休業中?ではある」
端末から、口座に入りユージンにも見えるように情報を出す。
「遺産の全部ニューミヤファンドに預けである。ニューミヤのおじさんがよく育ててくれた。給料も十年送金してたぶんも別にある。個人資産のほとんどは残ってるし、軍に残してたものもほぼ無いし、それもいいな」
尋常でない桁が見えて、ユージンは人が良さそうに笑った。
「ニューミヤのおじさんやり手だからね。あの後、会社立ち上げて、残ってる郎党の面倒見てるよ。でも良かった。まさに運命。そのβ艦?大規模改修して、サトウシオヤ商会再開しようよ」
その資金で。
「そそのかすなぁ、その本音は?」
「こんな小さな社用船じゃなくて、ボクはあーゆーの操縦したい。ライセンスは持ってる。改修のツテもある」
「・・・この艦は退職金代わりにもらっておくか」
「そうと決まれば、これ廃棄します!」
ユージンが取り出したのは、両手で持てるくらいの金属の箱だった。
「じいちゃんが言ってたんだ。軍用艦のコレは必ず外して壊せって。定期的に大本営に発信するやつ。とりあえず外しといたよ」
「仕事早くないか?ユージンは、何でもできてうらやましいな。わかった。それ撃つから、一度向こうにもどる」
「え?」
「そうだな、5分後に正面方向にダストシュートしてもらうと撃ちやすい」
「・・・あ、うん」
繋げたβ艦に戻っていくシオの後ろ姿を見ながら、ユージンは手元の箱を見る。
そのへんの恒星に放り込もうと思っていたのだが、撃つときた。
戦艦と違って大部分小さいこれを、艦砲射撃すると。
言われた通り、宇宙空間に出すと、肉眼では見えなくなるほどの距離でもって、光線一線見事に打ち抜いた。
これは、すごいのでは?
この『凡人』です風情の幽霊軍人。
「ただいま」
「おかえり〜。とりあえず曳航で高速航路ワープするよ。じいちゃんのドックに向かうからシオはその席座って休んでて。今日は直帰の予定だから、掘り出し物探しにデブリ溜まりのルートに来てよかった」
「拾われたのオレだな」
うっきうきで、ユージンは出発した。
「どのくらいで着くんだ?」
「ここからだと1.2光年。流石に曳航だと遅くなるから4時間くらい。寝ててもいいよ」