4 めざめるもの
荷物をまとめたコンテナを貨物室に積み込み、受注手続きを終えて、シュガーソルト号は出発する。
大銀河帝国の航路から入ってきた場所はMELROSEライン上ではМからEの間であった。
航路不可能空域が終わる位置に3つの星間航路の合流点がありそこに人工天体トランジットがある。
ステラ惑星空域や、惑星ジエルから合流する場合、こからMELROSEラインに入るのが通常航路だ。
人工天体トランジットもしくは、MELROSEの最初のМの惑星メアリでクエストを始める場合が多いらしい。
惑星間に、監視衛星はあるが人口天体や居住衛星は無く、現在地までの距離は以下だ。
人工天体トランジットから惑星メアリへ30光年。
惑星メアリと惑星アールの距離30光年。
アールから次の惑星ラインリールは最短の25光年である。
発着進加速は手動の操舵で行い、スピードがある程度乗ってくると切り替えができる。
1速・星間ワープシステムは目的地の宇宙港を指定して進む自動操縦システム。
2速・星間ワープの時間だけ指定して進む自動操縦システム。
3速・通常航行の自動操縦システム。即キャンセルで手動に切り替えられる。
ちなみに非常ボタンを押すと速度半分ほどになる。装備品にエネルギーを振る軍用艦は割と足が遅めなのだが、速さを補う戦闘機や小型の護衛艦などはその限りではない。
ロマン型兵器としては、無線砲台や人型になる可変型戦闘機存在しているが、少なくともこの辺りの空域では実戦配備はされては居ない。
ユージンは加速しながら、ラインリールの衛星ドットポップの宇宙港に設定し、星間ワープ1速に入れた。
「はい、星間ワープ入ったよ。・・・到着はー」
『到着まで26時間です』
「丸1日とちょっとか・・・って、え?誰」
突然の電子ボイス。
3人は顔を合わせて、それぞれに自分のモニターを見た。
「艦橋補助の準備学習終わって、AI起動したみたいだ」
「・・・あんまり良くない学習させちゃって無い?大丈夫かなぁ」
『名前をつけてください』
「オレの画面だ」
シオのモニターに入力画面が表示されている。
少し考えて、シオは〈九曜〉と入れた。
ユージンは意外そうな顔をする。
「てっきり、ビネガーとか付けるかと思ってた。料理のさしすせそ?砂糖・塩・酢・せ?せ〜」
『ショウユ。正油、醤油とかきます。セウユとフリガナをします』
「そ。は、ソースとか?」
「味噌なんだなぁ」
「最後のひっかけか・・・で、シオくん、何で九曜?」
シオは胸元の花丸を指さす。
「この、花丸?」
「結び九曜紋の九曜だ」
「・・・花丸だと思ってた」
『九曜はラインリールまでのシステム保全をします』
「じゃあ、おねがい。ボク筋トレしてくる。何かあったら呼んでね、九曜」
衛星アルツでレクレーションルームにトレーニング機材を買い込んで設置したユージンは、いそいそと向かっていった。
「シオくんちょっと見せて」
どうやらAIの管理システムの権限は艦長席にあるらしく、ルイがモニターを覗き込む。
「アバター未設置・・・作っていいよね?」
「あぁ。もちろん」
ルイは張り切って艦橋を出ていった。
1人になった艦橋で、シオは足元の収納から桐の箱を取り出し開く。
オトホシの自宅の残っていた物だ。
表面に結び九曜紋が書いてあるのに惹かれて持ってきたのだ。
箱の中の1番上にはこよりで閉じた、レトロな手作りの冊子。
「やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける・・・なんだ?」
読める字だが、わからない。
「人の気持ちがたくさんの言葉になったみたいなかんじか?」
父母はこういうのには興味が無かったと思う。家系的に興味がなさそうなジャンルで、祖母も違うだろう。
となれば、祖父のものだろうか。
ガサガサと取り出していくと、みっしりと漢字が書かれた縦書きの紙が何枚も入っている。
筆で書き取りの練習でもしてたのか、同じものが何枚もある。
「・・・?」
箱裏を見れば、佐藤紫桜と書かれているが祖母は確か史緒里だったはずのだ。
祖母より古い当主の誰かのもののようだ。
『やまとうたは人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける』
突然、九曜がが喋りだした。
『は、古今和歌集です』
「こきんわかしゅう?」
なんだ?といったシオの言葉を拾って、答えを探してくれたようだ。
『地球の古代文学のひとつで和歌という57577の古代日本語の詩集です』
「検索してくれたのか。ありがとう九曜」
『どういたしまして』
オトホシには寺院もあったし、こういうのが好きな先祖が居たのは間違いないようだ。