6 ふるさとよ
衛星カクテルに1泊して、旅券ノルマは終えた。
目指すは更に端の双子惑星。
「ユージン、この先デブリ帯みたいだぞ」
自動操縦の操舵席で目を閉じているユージンに、ルイが声をかけるとユージンは周辺機器を確認して、応答する。
「了解。自動操縦解除」
間もなく宇宙に漂うものが増えはじめた。
「航行注意らしいけど、機影有り。数6」
「デブリ探索だろうね。まぁ、こんなのがこれだけあればねぇ」
呆れてユージンが付近をズームアップする。
岩石よりも、船の破片やらの加工金属が多い。貴重な拾いものも出来そうに感じる。
「ステラ連合ヤバくない?これだけの・・・って相当だよ」
「クーデターや武装テロ、独立紛争多くてやばいぞステラ連合ってのは。生き残るだけで階級上がるって言われてたしな」
こんなデブリ帯そこら中にある。
「こういうのが資金源になってるよそれ。国でリサイクル回さないと、こんなの金を渡して対戦相手作ってるって」
レーダーに映る船の動きを、警戒しながらデブリ帯を抜け半日。ようやく目指していた惑星が見えた。
「今は接近周期かぁ」
抉られた惑星と側にひと回り小さい惑星。
「オトホシの外見は活きてそうだけど、ルイわかるか?」
「管理区域の鍵は父から預かってる。遠隔で港のハッチ開けるにはもう少し寄せて欲しい」
「ユージン相対速度合わせ」
「OK」
シュガーソルト号を近接させる。エラーを示していたオトホシの反応が消える。
「届いた。オトホシ解錠ハッチ開け」
「オトホシ開口確認。侵入します」
「入港確認。ハッチ閉じ」
無事オトホシ内な入港すると、3人は宇宙服に着替えて艦外へ出た。
非常灯が付いている事から、まだ設備が完全には止まっていないのがわかる。
一直線に管理区域に向かい、ロックのかかった扉を開けるとそこはオトホシのコントロールルーム。
管理ボードに鍵を差し、ルイが電子コードを幾つも打ち込むと、非常灯のみの部屋に電気が通った。
空調は正常値を示しているので、ヘルメットを外す。
「・・・行ってみるか」
管理区域から外に出ると、そこは何もない大地が広がっていた。
緑豊かだった農場は、管理者不在で草も生えずにただの地面になり、空を見上げると、あの日のようにエボシが見える。
「あんなに欠けちゃってたんだ」
丸かった惑星が4分の1ほど無くなっている。
何もなくなった大地を進むと、小さなお堂のお寺が鎮座ましている。
本堂には曼荼羅と弥勒菩薩。
3人は静かに手を合わせた。
宇宙に人が進出た頃宇宙そのものが曼荼羅であり仏の真理だ。と、始まった仏教宇宙派の寺院だ。
難しいことはよく分からないが、死を悼むのはここで手を合わせて静かに目を閉じる。
「さて、これからどうする」
「ここで生活はちょっと・・・だよね」
「それはそう」
ユージンが手を挙げた。
「地球とか、だめかな?」
「地球?って、あの人類発祥の地の?」
ユージンは1枚の写真を取り出した。
透き通った海を背景に、少女がポーズ決めてる写真だ。
「母さん。地球生まれの地球育ちなんだ」
「それは珍しい。純粋地球人か」
現在地球圏は保護区となっていて、星間航路の終着は木星のエウロパである。
地球は宇宙に適応出来ない遺伝子の人類が住んでいるという認識だ。
まだ太陽系に人類がいた頃は旧人類と蔑み、戦いの起きた歴史もある。宇宙暦になった頃、月を管理局にした地球保護区が制定されたといわれる。
天の川銀河の星間航路の最前線は、アンドロメダ銀河を間近という話だ。まぁ、100年くらいずっと言ってる話だが。そんな銀河事情など全く知らず、宇宙には宇宙人がいて、UFOの目撃や、月面基地や遠くて火星が地球圏の全てである。
「お母さん宇宙適正あったから本当なら月とか火星とかで働く役割らしいんだけど、勉強嫌いな人で、父さんと結婚してここに来たんだ、母さん宇宙公用語カタコトで日本語しかできなかったから」
「サトウシオヤ商会が日本語使ってたからか」
「地球とは通信手段無いから・・・お母さんの事知らせたいなって」
「良いと思うよ、シオくんは?」
「もちろん。次は地球へ」
すっと指を差した空に、何かが動いた。
「・・・帝国軍だ」
帝国艦が悠々と横切ってゆく。
「戻ろう」
管理区域で、起動出来る範囲の周辺の観察と、ルイの自前の端末にシステムをつなげ、様子を見るに、入った時はたまたま通らなかっただけらしく、頻繁に帝国の戦艦や輸送艦が通っている。
「これ・・・もしかして、この空域帝国領になってないか?」
十年前は凸凹だったはずの空域図が、現在□□で色分けされていた。
ステラ惑星連合だったはずの空域が大銀河帝国の空域になっているではないか。
「ニュースにもなってなかったよ、こんなの」
「ここ放棄させたのそれのため、とか?」
「・・・だからといって、打倒帝国とかステラ連合とかだと、俺たちにはスケールが大きすぎるぞ」
「まぁ、それはそうなんだけど」
「わかってるけど、我が物顔で双子惑星を横切られるのはちょっと・・・」
双子惑星の生存者の中には復讐に燃えて活動している者もいると聞くが、悼む悲しみはあるが、それで何かに怒りをぶつけるというものが、この3人には無い。
政治的な信念とか思想は特に無く、ただ、できるかどうかの範囲で考える。
「2人は先に船に行っててよ、ここ閉めてから戻るから」
ルイが、キーボードをタッピングする音が響くなか、シオとユージンはシュガーソルト号に戻った。
「きれいな笑顔で言ってたね」
「あれはルイが、悪いことする時の顔だ」