1 はじまり
ステラ惑星連合宇宙艦隊所属サアト・ショーン伍長は、その日、宇宙艦隊の新造戦艦のための攻撃重視艦α及び防御重視艦βの兵器兵装試験運用に参加していた。
少々やる気のないタイプの軍人のサアト・ショーン伍長24歳。
転々と艦隊異動をする砲撃手である。
同輩がこぞって兵器満載のα艦を希望する中、募集定員1名のβ艦に志願していた。
砲塔でトゲトゲしい外見のα艦に比べ、主砲1本というシンプルなβ艦。
仕事が少なそうで良い。
β艦は装甲やステルス機能、撹乱機能などに重点を置き、軍艦だから1本くらい主砲付けとくかという噂だ。
既にオペレーターが乗り込んでいて、全長100mほどの小型の艦艇内では、あちらこちらで開発部からレクチャーを受けていた。
「君、砲手の人?」
「はい」
「砲手室は艦橋の上にあるよ。手動の高エネルギー集積砲の使い方わかる?」
「問題なく」
「じゃあ、大丈夫そうだね、照準のオートや自動迎撃は無いからよろしく」
通りがかりの開発部に軽く説明され、艦橋に向かう。
艦橋では開発部とオペレーターが忙しく作業をしているのを横目に、サアト・ショーン伍長は天井を見上げ、端のほうに丸いハッチを見つけた。
「砲手のサアト・ショーン伍長着任しました」
平凡な軍人である彼を誰も気には止めない。
敬礼と挨拶をして壁付けの梯子を登り、ハッチを開けるとそこには小さな砲手室。
「シート1つに、機銃ハンドル照準窓・・・砲門稼働域は上に60度、横は200度」
シートに座り、シートベルトを装着し、己の仕事を確認する。
「外付け砲。艦本体とエネルギー供給が別回線なわけね」
小さなコンソールで、本日の仕事相手の取り扱いを読み込む。
「距離はこのサイズならまあまあ、出力最大で・・・近接で装甲は抜けるけど、貫通は無理。半分くらいは入るか。・・・これは?」
切り替えの機能に気が付きタップすると、圧迫感のある空間が無くなった。
「ドーム展望・・・コックピットじゃないんだから。誰の案だよ・・・天然プラネタリウム」
必要な点検を済ませ、下の艦橋の様子を覗き込んだ。
「・・・試験空域まではこのまま移送母艦で向かいます。帝国との緩衝地域のデブリ帯で、矛盾での武装装甲の確認を致します。光速ワープの単独装備してませんので、帰還の際はまた母艦に・・・いえ、その場合は緊急救命艇の方が足は速いです。試験運用ですのでー」
とりあえず、やることもなさそうなのでシートに座って目を瞑った。
そしてそのまま眠ってしまったようだ。
どぉん、とした衝撃に目覚ますと、眼前に広がるのは、ドーム展望にレーザーやミサイルの飛び交う戦場だった。
ハッとして、艦橋を覗く。
赤い点目『作戦中止総員待避』『緊急離脱』が、艦橋スクリーンに表示されていた。
そして、既に誰もいない。
「しまった」
血の気が引きながら、落ち着いて着座し、額を指先で叩いて目を開いた。
映画と思えば、迫力満点の光景に情報を探す。
「帝国軍艦隊同士。内戦か?緩衝地帯とは言え、試験空域ならステラ連合の空域だろうがムカつくな」
流れ弾が当たるのか時折、被弾する音が響くが、防御性能がいいのか沈む気配はない。
「どんな防御システムか覚えてれば良かった。気が付かれてないんじゃないか?ステルス性能あるだろうな。研究職も、ここを航行出来てこそ。の、気もしないでもないけど・・・」
スッと目の前に黒い艶のあるボディの戦艦が現れた。
黄金の獅子と王冠といういかにもなエンブレムがあしらわれた大銀河帝国の戦艦。
デブリに紛れ、隠れているようなこの艦には気がついてないようだ。
手を伸ばせば届くほどの距離で、上に移動してゆく。
5倍以上はあろうかという大きさの腹が見える。
砲塔の眼前。
「出力最大。距離0.01。発射」
白い光が超至近距離の黒い戦艦に吸い込まれ、爆散した。
動力炉直撃出来ると、思ったら、やってしまった。
始末書では済まされないことしでかしたという思いはある。
が、衝撃で吹き飛ばされて空域を離脱する・・・。