深夜の脱出劇
自転車さえ手に入れたなら、どこにだって行ける気がしていた。
上の町から落ちて来る廃棄物の山で見つけた奇跡的に歪みのないフレームと数々の部品。もとの姿を想像しながら組み立て、油を差す。
決行の深夜、行く手を阻んだのはろくに整備もされていない坂だった。想像以上に体力を奪われ、荷物と化した自転車を引きずって上る。
あまりの足の重さに諦めかけた頃、頭の横を何かが通り過ぎた。つられて振り返れば、小型の無人航空機とはるか向こうの無数の追手。
「こっち! 後ろは攪乱しとくから」
声の出どころを確かめる間もなく引っ張られ、自転車ごと車の荷台に詰め込まれた。
追加で飛び立った無人機に後ろを任せ、車は走り出す。
第23回 毎月300字小説企画、お題は「車」でした。