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第1話

「やめてください!」


曇りきった僕の脳みそにSOSの電気信号が入りこんだ。


声のする方向に目を向けると、控えめに言っても美少女と呼んでよいルックスの女子高生が三人のヤンキーに絡まれているようだった。


恐らくナンパとかの類だろう。


しかし、こういうのは絶対絡まない方がいい。


残念ながら今までの人生で正義感を出して良かったことなんかない。


申し訳ないが、僕はその場を立ち去ろうとした。


しかし、絡まれている彼女と偶然目が合ってしまった。


その大きな瞳から放たれる視線は何故か僕の心に強く刺さった。


あれ?なんだろうこの感じ。


心に刺さったものが抜けそうにもない。


こりゃ困ったな…


でも、こんなオタクでロクにケンカもしたことのない僕にどうしろっていうんだよ…


周りを見渡しても誰も人はいないし、この状況に気づいているのは僕だけか…


はぁ、やれやれ…


彼女の瞳に射抜かれたせいか、それとも単なる気の迷いか、僕の足は無意識にヤンキー達の方に向かっていた。


「なんだよ。お前」


ヤンキーAが言った。


「もしかして助けようとしてるの?」


ヤンキーBが薄ら笑いを浮かべながら僕の姿を品定めするかのように見て言った。


一体、僕は何をやってるんだ…


らしくないじゃないか…


ヤンキーに囲まれた状況を客観視した結果、僕はこの状況の悪さを改めて痛感した。


残念ながら、彼女の瞳には僕の姿がしっかり映っているようで、救世主でも見るような顔をしていた。


やれやれ、本当に困ったな。


「お前みたいなオタクに何できるんだよ」


ヤンキーCが茶化してきた。


なんでこいつ僕がオタクだってわかったんだろう?


こんなに最悪な状況なのにどこか既視感があり、冷静な自分に驚いた。


「えっと、嫌がっていると思うから離してあげたらどうかな?」


僕は彼女の腕を掴んでいたヤンキーAに言った。


「はぁ?何言ってんだよ!お前に関係ないだろ!」


ヤンキーAが吠える。


その他のヤンキーも「あー」だの、「あぁん」だの言いながら吠えてきた。


「いや、どう見ても嫌がっていると思うからやめてあげてよ」


僕はバクバクいう心臓の鼓動と戦いながら冷静な口調で言った。


「うっせぇな!」


ヤンキーAが僕の頬を殴った。


「痛っ!」


僕がよろけると、他のヤンキー達も僕のことを殴り出した。


しかし、流石の僕もイラっとした為、火事場馬鹿力が出たらしく、ヤンキーAを思いっきり殴った。


僕の拳は奇跡的に顔面に入り、ヤンキーAがよろめいた。


しかし、ヤンキーAはイラッとした様子でこちらを睨んだ。


そして、僕に飛び蹴りを食らわせた。


もちろん、僕はその蹴りを避けることは出来なかった。


さらに、不運にも僕は階段の近くで喧嘩をしてしまったようだった。


見事に階段から落ちてしまったのだ。


あっ、終わったな。


何故か時間がスローに流れる。


身体を階段に強打した。


これ、もしかして僕死んでしまうやつか?


それにしても時間がゆっくり流れ過ぎじゃないか?


もう一度、身体を階段に強く打ちつける。


確かに、前にテレビかなんかで悲惨な事故に遭った人が言ってたな。


めちゃくちゃスローモーションのような状態になったって。


これはそれか?


てか、これで人生終了?


まだ僕は高校三年生だし、一度で良いから彼女とかも作ってみたかったな(まあ、僕はオタクで非モテだから生きてたって実際出来るかわからないけど…)。


まあ、でも死んだらゼロパーセントだもんなぁ。


てか、こんなことなら変に正義感出して女の子を助けようなんてするんじゃなかった…


でも、あの子可愛かったし、ちょっと良いところ見せようとか下心が出ちゃったんだよな(馬鹿だな自分)。


そんなことを考えながら僕はこの長い長い階段に何度も身体を打ち付けた。


そして、頭を強打した瞬間、眩しい光が見えて意識を失った。


そう、僕はこんなにも呆気なく死んだんだ。



ジリジリ〜!

目覚まし時計が僕の枕元で鳴っているようだ。


僕は眠い目を擦りながら、目覚まし時計を止めた。


あれ?僕、確か死んだような…


いつもと変わらない自分の部屋のベッドの上で僕は目を覚ました。


「あれは夢だったのか」


僕は一人で呟き、起き上がった。


部屋のカーテンを開けると、天気は良く、少し頭痛はするが、爽やかな気持ちになれた。


それにしても、あの行動は僕らしくなかった。


でも、変にリアリティがあって嫌な夢だったな。


自分がヤンキーに殺される夢とか本当に最悪だ。


僕はオタクということもあって、昔からスクールカースト上位のクラスのイケてる奴らに馬鹿にされたり、虐められたりすることが多かった。


ヤンキーのようにやんちゃな奴らは何故か、ただ偉そうにしているだけでスクールカースト上位に君臨し、僕たちを馬鹿にし虐める。


一体どんな権限があいつらにあってそんなことをするのだろう?


僕は少しイラつきを感じたが、助けようととした女の子の顔を思い出すと心が和んだ(それにしても可愛かったな。あの子)。


まぁ、夢の世界の美少女だからもう二度と会えないと思うけど、出来れば他の夢で会えたら嬉しいな。


僕はそんなファンタジーを考えながら、自分の部屋を出て洗面所に向かった。


顔を洗い、歯を磨き、僕はいつも通り、学校に行く準備をする。


「今日は母さん、早出の日か」


僕はテーブルに置かれたメモ書きを確認した。


「隆弘の好きなマスドの新作ドーナッツ買ってきたよ〜食べてね!」


えっ?これ、見たことあるぞ。


確か夢の世界でも全く同じメモ書きを見た覚えがある。


しかも、この新作のドーナツも僕は食べたぞ。


僕は驚きながら、新作のチョコレートクリームのたっぷり入ったドーナッツを頬張った。


「同じ味だ…」


僕は口に付いたクリームを手で拭うとすぐに牛乳を飲み、テレビのリモコンに手を伸ばした。


「まさか、俺って過去に戻ったのか?」


テレビをつけると、ニュース番組でキャスターが連続強盗の犯人が捕まった話をしていた。


このニュース、僕は知っている…


「そんな馬鹿な」


僕は混乱する頭をフル回転させる必要があった。


これはアニメとかでよくあるタイムリープってやつか?


しかも、めちゃくちゃ短時間な戻り方したようだ。


いや、正夢って説も残されているがここまで一致するか?


もし本当に昨日に戻ったのなら、今日の放課後に僕はヤンキーに絡まれて死ぬことになる(もう一回死ぬの嫌だな)。


いや、ちょっと待てよ!


またあの子に会えるじゃないか!


しかも、未来を知っている僕なら彼女を助けることが出来るかもしれない。


今度こそあの蹴りを避けないといけないな…


さもなくばまた階段から落ちて死ぬ…


漫画やライトノベルのパターンだと、これで未来を知っている僕がヤンキーの攻撃を見事にかわし、やっつけるという展開のはず。


僕は一人でニヤリと笑ってしまった(ライトノベルの読み過ぎか)。


「変えてやるぞ。未来」


僕はそう呟き、ドーナッツにかぶりついた。


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