笑顔で商売!そして嵐を起こす!
私の予想どおり、ラジャスター王は私と話がしたいと言い出した。
「どういうことだ?」
ヴァンが再びやってきて、腑に落ちない顔をした。
「さぁ……なにかしらねー?」
「何を仕掛けたんだよ!?」
王の間に着く。手や足が震えるのを自覚する。グーパーグーパーと何度も手を開いたり閉じたりする。深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。口の中が緊張で乾いてきた。
「ヴァン、本当に私を覚えてないの?」
「質問に質問で返すなよ。……おまえのことは覚えていない」
そんなわけないわよね!?と問い詰めたかった。でもその時間は今はない。私はヴァンの目をまっすぐに見る。ヴァンの顔を見ると勇気が湧いてくる。……失敗すれば彼に殺されるかもしれないのに。
「私が救いたいのはヴァンなの。絶対に自由にしてみせるわよ!」
「はあ!?おいっ!?なに言ってるんだよ!?」
ヴァンが驚く声をあげると同時に、扉が開く。私はグッと背中を伸ばす。顔をあげていく!
さぁ!商売の時間の始まりよ!
相手を私のテリトリーに引き寄せろ!……いや、引き摺り込む!
「よくもやってくれたな……アリシア=ルイスの仕業だと聞いた!」
雷のような声をあげる王。周りには他の者達もいる。腹心の戦好きの者達ばかりか?それとも反対だと思っていても声をあげられない者達か?
「なんのことでしょうか?私は牢に囚えられていたので、何もできません」
「白々しい!いつから……いつから……このような策を立てていたんだ!?」
可愛らしい女の子のふりをして、私は頬に人差し指をやり、なんのこと?と首を横に傾げて笑って見せる。……ちょっと演技がかりすぎたかもしれない、
「今更、何も知らない小娘のようなふりをし、猫かぶっても無駄だろうがっ!なかなか肝が据わった商人だな……おまえのしたことを考えると、今、この場で斬り捨ててもいいんだぞ!」
王の脅しに、私は慌てることなく、営業スマイルを浮かべて、やんわりと返す。
「えーと……その場合、物流を戻すために5年はかかりますね。どうします?その間にも他国に物は流れていきますよ」
私の言葉に、ぐぬぬぬぬとうめき声をあげ、真っ赤な顔になる王。
「馬、小麦、金属、肉、塩……気づけば、値上がりしていた。調べてみたらお前が……裏に回って他国に流していたな!」
「そんな……人聞きが悪いです!戦が続き、この国の民は重税を課せられ、搾取されて皆が困っていました。ちょっと他にも高く売れる場所がありますよって教えてあげただけです。皆さんが楽に暮らせるようにね。特に法律で決められているような物や、他国へ売っては行けない、国が管理している……っていうものも無かったですしねー。法律違反はしてません」
内政をおろそかにしているからだ。国内に余裕がなければ戦などできない。それとも国内を犠牲にしてまで攻めるか?調べてみたが、そんな必死に国外を攻める理由がラジャスター王国には無かった。……ラジャスター王の思いつきや気まぐれで、戦を起こしている。
「販売先の相手国を知りたいですか?」
「くっ………どこだ?」
悔しげに言葉を吐き出す王。
「エステラ王国とヘルド王国です」
ざわめく側近たち。どちらも大国だ。ラジャスター王国が戦を持ちかけるには無理がある。
「わざわざ手を出しにくい国を選んだのか?」
「どうでしょう?物流を戻したいならば、私に売って欲しいものがあります」
「交換条件か?」
さあ……ここから本番よ。私は表情を出さないように慎重にと自分に言い聞かせる。手や額に汗が滲む。
「噂に聞いていたのですが、ラジャスター王国には大変、有名な戦闘魔道士がいるとか?」
「それが?」
「私に売って欲しいのです。言い値で買います」
ざわめきが再び起こる。
「売って頂けるならば、物流を戻すため、契約書をすべてお渡ししましょう。戻すために必要でしょう?きちんとお金を払うこともお約束しますよ」
「小娘が!調子に乗るな!」
バッと立ち上がった。斬りかかろうと剣を抜こうとし、私に近寄ってきた。ラジャスター王に私はニッと笑って自分の右腕を見せた。その瞬間、ヒィッと悲鳴をあげて、距離をとる。そして恐怖の眼差しを向ける。
「この私も戦闘魔道士です。容易くこの場で斬られる者ではありません」
「なっ!?商人の戦闘魔道士だと!?聞いたことがない。そんな……なぜ商人をしている!?どうやって!?」
「私はどこにも属さない野良の戦闘魔道士です。その証として、契約印である焼き印は黒色でしょう?私をこの場で殺すと、契約書も手に入らないし、物流もガタガタなままですし、戦闘魔道士相手に兵たちや自慢の戦闘魔道士たちが無傷でいられますか?この城を一瞬で破壊しても良いんですよ?戦闘魔道士達の戦いは規模が大きいですよ」
……三流戦闘魔道士ってことは内緒にし、ホラを吹き続ける。私なんて、ヴァンが動いたらひとたまりもないわ。
「うっ……おまえは……いったい何者だ?単なるスーパーマーケットの娘では無いではないか!」
スーパーマーケット……私のことを調べていたらしい。だからヴァンはエステラ王国にいたし、私を攫って来たわけだ。
「望みの戦闘魔道士は誰だ?」
「ヴァレリウスが欲しいです」
王の傍に静かに控えていたヴァンが、目を見開く。
「……こいつは高いぞ!たかだか商人のかせぎで買えると思っているのか!?」
「どうでしょうか……買えませんかね?いくらでしょう?」
言われた値段は小国の国家予算並みだった。ヴァン……高すぎるー。
しかし私は平然としたまま、答える。
「買います」
サラッと答えた私に三度目のざわめきが起こる。
「馬鹿な!?そんなお金が……おまえのどこに!?」
「大丈夫です。払いますよ。バイヤー人生を送ってきて、今まで貯め込んだ全財産を注ぎ込みます。一国の王に二言はございませんよね?」
「戦闘魔道士を商人がどう使うんだ!?他の国に売るのか!?それならば売れないぞ!ヴァレリウスの力は他国に渡せるものではない!」
「どこにも売りません。それは絶対にお約束いたします。なんなら契約書を交わしても構いません。私は武器は扱わないと言いました。陛下は戦闘魔道士を武器の一つにしておられるようですが、私はしたくありません」
「……純粋に聞いても良いか?なぜオレを?」
ヴァンが口を挟んだ。
「あなたの未来を救いたいからよ」
私の声はやけに大きく王の間に響いたのだった。
私とラジャスター王の嵐のような舌戦は静まった。
戦闘魔道士を買って、どこにも売らない。それも天才と呼ばれるヴァレリウスを?何が起こったのかわからない……という空気が場に漂っていた。
読んで頂きありがとうございますm(_ _)mカクヨムでもカエデネコで活動しています。よかったらのぞいてみてください(*^^*)更新はあちらのほうが早いかと思います。




