表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人物詩録の殺人予告  作者: 波多見錘
7/8

虚実の証拠

 「お、俺は見たんだからな!お前がおっさんと一緒にラブホテルから出てきたのを!」


 「「は?」」


 八島の発した言葉により、クラス中から「援交?きもっ」だとか「見るからにやってそうだよな」などと好き勝手言っている。


 俺は、取り敢えず詩織の動向を見る。


 「なにそれ、なんでそんな嘘つくの?」


 「は!嘘じゃねえよ!証拠もあんだからな。」


 そう言って、八島が見せたのは一枚の写真だった。


 「ねえ?何これ?」


 写真には、おっさんの腕に抱き着いて笑っている写真だった。


 「ほら、これが動かぬ証拠だろ!いい加減認めろよ、自分が尻軽女だってことをよ!」


 なんて馬鹿なことを教室で言えるんだこいつは?意味が分からん。


 「ねえ、朽木、こんな写真憶えが無いんだけど。」


 「詩織が知らないんだったら本当に知らないんだろう。」


 「うん…。」


 詩織は本当に見覚えのない写真なんだろう。だが、俺だけがそれを理解しても意味はない。


 現に、クラス委員の杵島千鶴(きしまちずる)が近づいてきている。


 「羽中さん、話は聞かせてもらいました。あなたの行為は学生としてあるまじきものです。」


 「だからっ!私は知らないって…。」


 詩織は杵島の言及に必死に反論する。しかし、ある人物の登場によって、事態は最悪の方向に向かう。


 「なんの話をしているんだ?」


 担任の登場。いじめを黙認していたクソ教師、夏山。


 「先生、羽中さんが、淫らな行為をしていると言及していたところです。」


 「ほう、どういう事かな?」


 ここぞとばかりに先生が食いついてくる。


 「だから、私は知らないって!」


 「犯人は皆そう言うんだよ。」


 写真を見た先生が訴えかける詩織にそう伝える。


 ツーか、この話に犯人もくそもねーよ。


 「先生、これって援交ってやつじゃないんすか?」


 「それなら、それは問題だなあ。取り敢えず、親御さんを交えて、じっくり話を聞こうか。」


 親、という単語に詩織は焦り始める。


 「ど、どうしよう…。やってもないのに怒られるなんて嫌だよ…。」


 彼女の親は、とても厳しいのだ。モンスターペアレンツしか、いなかったいじめられてた時代(あのとき)、詩織の両親だけ話を素直に聞いてくれ、彼女を叱ったらしい。まあ、当時の詩織はそのことで逆行したんだけど。


 「俺も、少しだけ詩織の両親を知ってるけど、訴えれば、必ず味方してくれる両親だよ。信じてあげな。」


 「うん…。朽木は信じてくれるよね?」


 「当たり前だろ。俺はお前の味方だからな。」


 彼女は、しきりに俺の手を握った後、担任についていった。


 「なあ八島。」


 「あ?なんだよ。」


 「さっきの写真送ってくれないか?」


 「俺、お前のアドレス知らないんだけど。」


 あー、そうだ。俺、このクラスに友達いねえんだわ。


 「はい、アドレス。やり取りが終わったら消していいよ。」


 「分かった…。」


 そう言うと、八島は渋々俺に写真を渡してきた。


 俺は席に戻り、写真を見る。


 彼女が知らないという事は、この写真はフェイクだろう。


 ただ、この写真が加工されているかなんて、俺には分からない。


 でも、なんだろうか。このおっさんどっかで見たことあるんだよなあ…。


 午前の授業が終わり、昼休みに入る。詩織は戻ってきていない。


 俺は一人で弁当を食べていた。


 「やっぱり、どこかで見てるんだよなあ。」


 「何がですか?」


 俺が一人で呟いてると、杵島さんに話しかけられる。


 「いや、写真のおっさんが見たことがあるような気がすんだよね。」


 「あなた、羽中さんが何もしてないと思ってるの?あんな証拠もあるのに?」


 杵島さんが俺に奇異の目を向けられる。


 「いや、実際にやってないと思う。」


 「そんなわけないですよ。彼女がやってきたことを見てたでしょう?」


 杵島さんは詩織の何を知っているんだろうか?


 「何でそんなに彼女を敵視してるんだ?」


 「当たり前です。あんな素行の悪い人間は皆敵なんです。」


 俺は、察してしまう。この人も過去に何かあったクチだ。


 「そう決めつけるのは勝手だけど、他人に押し付けんな。一人じゃ何もできない奴に見られるぞ。」


 「そ、それは…、いいです、無駄な努力をするだけしてればいいですよ。」


 杵島さんが去った後、俺はもう一度写真を見る。


 写真に写るおっさんは良くも悪くも、どこでも見るような顔だ。


 俺は悶々としながらも五時間目を迎える。


 「―――――であるからして…。」


 五時間目は地理だが誰も聞いちゃいない。もちろん俺もだ。


 教室を見渡すと、皆やりたい放題だった。


 小声で会話する者


 スマホでメールしている者


 中でも目に付いたのは、教科書を盾にして、動画を見ている者だ。


 クラスで流行りだしているゲームの攻略動画だ。


 配信者もネットでは有名な人物で、現に教室をざっと見ただけで四人が同じ配信者の動画を見ている。


 ある生徒の動画では、プレイしながら自身の近況を話す、という事をしているのか、色々な画像が切り替わっている。


 どんな話をしているのだろうか…。


 そう考えながら、その動画を遠目に眺めていた。


 話が変わったのか、おっさんの画像が出て動画が進んでいく。


 え?あの動画のおっさん、写真に写ってた?


 俺はこれまでのことを並べる。


 写真にいた、どこかで見たおっさん


 動画に出ていた全く同じおっさん


 ネットでも、写真の加工にも簡単に使えるおっさん…いるじゃねえか。


 ガタンッ


 俺はいても立ってもいられず、勢いよく席を立つ。


 「ど、どうしたんだ?」


 俺があまりにも勢いよく立ったのでクラス中が驚いている。


 「先生、トイレ行ってきます。」


 「わ、分かった。体調が悪いなら保健室に行くように。」


 俺は教室を出ると、駆け出した。


 向かうは、詩織のところだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ