待ち合わせ
「ふぁああ…。」
俺はいつも以上に憂鬱な朝を迎える。
俺が憂鬱な原因は言うまでもなく、昨日に俺が見た詩織が人を殺すという記述だ。
今回は、俺が殺人の引き金になったらしい。
「俺は、どうしたらいいんだ?」
俺は思わず、そう零す。
取り敢えず、朝食を食べるためにリビングに向かう。
「おはよう、朽木。」
「ああ、おはよう、母さん。」
母親との会話もそこそこに朝食を食べ始める。
朝食をほとんど食べ終った頃
ピロン
メールの着信が届くが、俺のじゃないだろう。多分母さんのだ。
「朽木のメールじゃないの?」
「ははっ、母さんのだろう。」
「私にそんな相手いないわよ。」
親子そろって、可哀そうな会話である。
確認してみると、俺のスマホにメールが届いていた。
まあ、食事中にスマホを見るなんて行儀悪いから後で見るか。
そう考え、俺がスマホを置くと、母さんが俺を注意する。
「駄目じゃない返信しないと。」
「母さん、それは行儀悪いよ。」
「だとしても、友達からのメールは秒で返しなさい。」
「は、はい。」
母さんの剣幕に押され、渋々トークアプリを開く。
送信者は詩織だった。
『くー君起きてる?』
「ぶふっ。」
「ひゃっ!」
俺は、詩織のメッセージに驚いて吹き出してしまう。しかも、母さんにかかったみたいだ。
俺は、高速で返事を返す。
『起きてる。それよりくー君ってなんだ?』
『くー君は愛称だよ。いやだった?』
『恥ずかし過ぎるからやめてくれ。』
『えー』
『頼むからさあ』
『分かった。じゃあさ今日一緒に登校しようよ。』
「へ?」
俺は思わず、声に出して驚いてしまう。
まあ、最寄り駅は同じだから断る理由なんて無いんだけど…。
『分かった。じゃあ、三十分後に昨日別れた場所で。』
『了解』
俺はメールを終えると、すぐさま食事に戻る。
「メール、何だったの?」
母さんが質問してくる。
「今日一緒に登校しようって話。」
「ふーん、男の子?」
「いんや、女子。」
「へー、避妊はしなさいよ。」
何言ってんだ、このババア。
「そういう関係じゃねえよ。」
「ふーん。相手を傷付けないようにね。」
俺は母さんをジト目で見る。
…やはり母さんはどこかズレている。
朝食後、俺は早々に準備を終わらせ、家を出る。
いつも通り駅に向っかていると、いた、詩織だ。
彼女は、スマホを見ながら、待ち合わせ場所で待っていた。
「おはよう、詩織。待った?」
「ううん、全く待ってないよ。」
俺の顔を見た瞬間、彼女は満面の笑みとともに挨拶を返してくれた。
しかし、近くの主婦たちの会話で、俺は現実を知ることになる。
「なによ、あの男。あんなに女の子を待たせておいて、悪びれもしないなんて。」
「本当よね。あの子、もう一時間はそこにいるわよ。」
なんだって?もう一時間はいる?
「なあ、詩織、本当はいつからいたんだ?」
「え、えっと…、一時間半前くらい?」
「なんで疑問視系?というかそんなに前からいたのか…。」
「ご、ごめんなさい。明日から一時間前にするから。」
だとしても早すぎるだろ。そういうのは男がやるもんじゃないのか?
……やらんけど。
「最低限、十分前にしてくれ。俺もそんなに早くは来れないから。」
「……分かった。」
これで明日、一時間前とかに来てたらどうしよう。
「詩織、行こうか。」
「うん!」
それから、学校に着くまではなんの問題もなく、登校できた。
俺たちが教室に入るが、いつも通り誰も関心を向けやしない。詩織がいてもだ。
「なんでお前みたいなやつが彼女と?」みたいなイベントはなし。
誰も俺のことを見てないし、興味ないから当たり前だ。
「朽木ぃ~、今日お弁当一緒に食べよー。」
「いいよ。どこで食べる?」
こんな感じで、二人でのほほんと喋っていると、俺たちに近づいてくる生徒がいた。
クラスメイトの八島勇だ。
「おい、秋嶋。お前生意気なんだよ。」
開口一番にわけわからないこと言っている。
「なにいってんの?」
「あ?お前みたいな陰キャが詩織に関わっていいわけねえだろ。身の程をわきまえろ雑魚が。」
??????
「??????」
「何しらばっくれてんだよ!てめえ!なめてんのか!」
いやマジで何言ってんだこいつ。訳わからんわ。
「えーと、何をそんなに怒ってるの?」
「だーかーらー、お前みたいなやつが詩織と一緒にいるのが我慢ならねえって言ってんだろ!」
「それがよく分からないんだって…。」
いや、マジでこいつの言いたいことが分からん。
ていうか、詩織も黙ってないで助けてほしい。
「ほら、詩織行くぞ。そんな雑魚を相手にしてても意味ない。俺が戻れるようにしてやるから。」
ていうか、この男は鹿島一派のはずだ。要は、詩織をいじめていた奴らの一員ってことだ。
パンッ
詩織は自身に向けられた手を弾いていた。
「触らないで。」
その目は酷く淀んていた。
「なっ!?詩織、なんだその態度は!俺が折角戻してやろうと思ったのに。」
「そうやって、私を笑うつもりでしょ。それが本当だったとしても、そんな汚い言葉ばかり投げる人と一緒になりたくない。私は、優しくて、誠実で格好いい朽木の方が断然いい。」
彼女は俺の手を力強く握りしめながら、そう言う。
八島が怒りでわなわなと震えている。
「てめえ!ふざけんなよ、このクソビッチ!そうやって、自分の体使って、秋嶋を垂らし込んだんだろう!」
こいつっ!言う事に事欠いて!
「は?私処女だし。そもそも、まだ誰ともキスすらしたことないし。まあ、何があってもそれをあんたにやることはないよ!」
八島が物凄く焦ってる。焦ったからか彼はとんでもないことを口走った。
「お、俺は見たんだからな!お前がおっさんと一緒にラブホテルから出てきたのを!」
「「は?」」