不可避の未来
「んんっ…。」
それから俺たちは長い時間抱き合っていた。が、今里先生の咳払いによって、我に返った俺たちは恥ずかしくなり、俯いてしまう。
「取り敢えず保健室に行きましょう。そうしないと、その怪我は見てられませんよ。」
そう言われた俺はすぐに立ち上がろうとするが、怪我の状態が悪く、ふらついてしまう。
それを見かねた羽中さんが俺の肩を支える。
「ほら、一緒に歩こ。」
「ああ、ありがとう。」
そうして、俺たちは保健室に向かい、俺が手当てを受けた。
その日の帰り道
俺と羽中さんは肌が触れ合うほどの距離で歩いていた。無論、手は繋いでいない。
「羽中さん、少し近過ぎないかな?」
「そーお?私は普通だと思うんだけど、嫌だった?」
「っ…。」
俺の質問に対して、羽中さんが放った上目遣いは強力だった。俺に嫌なんて言葉言えるわけがない。
「嫌じゃないよ。でも、あんまりくっつくと歩きづらいかな。」
「あ、そう…だよね。歩きづらいよね。」
そう言うと、羽中さんは少し残念そうに俺から距離を取った。
それから、少し無言の時間が流れる。
「あ、あのさ。」
羽中さんが、顔を真っ赤にしながら話しかけてくる。
「なんだ?」
「明日も私と喋ってくれる?」
なんだその質問?
「いいよ。特に困ることもないし。羽中さんの気持ちが晴れるなら、いくらでも話しかけてくれていいよ。」
「じゃ、じゃあさ、私のこと名前で呼んでくれないかな?」
「え?えーと…。」
「その、詩織って呼んでほしい。」
そう言う羽中さん…いや、詩織はとても可愛かった。
「わ、分かった。俺も詩織って呼ぶから詩織も朽木でいいよ。」
「っ…。く、朽木…。」
「な、なに詩織?」
俺たちの間に気まずい空気が流れる。
お互い顔を真っ赤にしながらも、二人が別々の道になる分かれ道が現れる。
「じゃ、じゃあ朽木、じゃあね、また明日…。」
「あ、ああ、また明日…。」
そう言うと俺たちは別れ、俺は帰路に就いた。
俺が家に帰ると、怪我を心配した母さんの質問攻めに遭ったが、これは他愛のないものだった。
俺は自室に戻り、ベッドに寝転がる。
俺は今日起きたことを振り返っていた。
詩織の机を綺麗にして、彼女があんなに驚くとは、思っていなかった。
殴られている俺のために先生を呼びに行ってるのは、嬉しかった。
俺は、俺の中にあった、羽中さんへの負の感情は薄れつつあるのに自覚するのはそんなに時間はかからなかった。
でも、そんなことはどうでもよかった。
そんなことより…
別れ際の詩織、可愛かったな…。
まさか自分が詩織を可愛いなんて思う日が来るとは思わなかった。
そんなことを考えながら、ベッドで悶絶してると、ふと思い出した。
「えーと、日誌はどこかな。」
そうだ。俺は実験的に未来が変えられるのか試してみたんだ。
俺は、日誌を出し例のページを開く。
すると、そのページには殺人の記述はなく、普通に受験勉強をしている詩織の記述があった。
「未来は変わった。未来は変えられる。良かった…。」
これで詩織が人を殺めてしまう未来は無くなった。俺はもうこの日誌の力を使う理由は無いだろう。
俺が本棚に日誌をしまおうとすると俺はそれを落としてしまう。
無造作に落とされた日誌はパラパラとページがめくられる。
俺が拾おうと、無意識にそのページを見る。
「え!?」
俺はそのページを見て驚愕する。
2024年8月13日
秋嶋と海に来た。
とても楽しい時間だったが、暴漢被害に遭いそうになる。しかし、秋嶋が身代わりになってくれ、助かる。
秋嶋が殴られているのを我慢できなくなった羽中は暴漢たちを瓶で殴り殺す。
うそ…だろ。