始まり
翌日、俺は最悪の気分で朝を迎えた。
今日は19日だ。日誌通りなら、今日は羽中さんが裏切られて、いじめを受ける側になる日だ。
だが、正直俺は、手を出すべきではないと思っている。
なぜなら、彼女がしてきたことや俺がされてきたことを考えれば当然の報いともいえる。
だが、いじめを分かっていて見過ごす、という事もしたくない。
俺は、悶々としながらも朝食を食べ、学校へと向かう。
俺の通う学校は、家の最寄り駅から二駅の場所にある。そんなに遠い距離でもないが、疲れてるときは遠く感じる。そんな距離だ。
俺は電車に乗るために列に並ぶと、いた。
羽中詩織だ。隣には、彼女の幼馴染の鹿島美幸がいる。
二人とは小学校から学区が同じなので、同じ学校に通う以上同じ駅になることは仕方ないことだ。
それにしても、仲いいな。
これから、裏切る、られる。ようには全く見えないな。
「それでさー、あいつがさー」
「なにそれうざっ」
電車に乗り込んだ後、俺は二人の会話に耳を傾けていた。
気持ち悪いだろうが仕方がない。だって、気になってしまうんだから。
にしても声でかいな。もうちょっと場所を考えてほしい。
学校の最寄り駅に着くと、俺は早々に学校に向かった。
これ以上彼女たちの動向を見ていると、勘違い野郎に絡まれてしまう。
教室に着くと、自席に座り、本を開く。もちろんラノベだ。
ガラガラガラ
「うっす、詩織」
「おはよー」
しばらくして、羽中達がやってくる。いじめている側だから、当然スクールカーストの上に君臨している。
彼女は、教室に着くなり、クラスで普段目立たないメガネ君の真澄のところに向かった。
「ねえ、真澄君」
「は、はい」
普段会話することのない羽中に話しかけられ、真澄がキョドってる。
「今日さ、あんたに話があんだよね
放課後さ、体育館裏に来てくれないかな?」
「あ、え?話…ですか」
「うん!そういう事だから、また放課後ねー」
突然の呼び出しに、真澄は固まってしまっている。
おそらく、今のが嘘告の準備というやつだろう。
それから、いつも通りの学校生活が過ぎていった。
羽中さんのグループは、休み時間に談笑をして、などといつも見る光景だった。
そして迎えた放課後
俺は嘘告の現場で何が起こるのか見るために、羽中さんたちをつけた。
体育館裏につくと、案の定嘘告が始まった。
一見すると、羽中さんと真澄しかいないように見えるが、建物の影などに彼女のグループが大勢隠れているうえに、全員ニヤニヤしていた。
まって?なんか先生もいない?しかも、生活指導の菱山じゃね?
そんなことお構いなしに告白は進んでいく。
「あのさ、私真澄のこと好きなんだ。付き合ってよ。」
「え、あ、は、はい。ぼ、僕でよければ喜んで。」
真澄の告白への返事はOKのようだ。
羽中さんは外面だけはいいからな。
だが、羽中さんはもう堪え切れないとばかりに笑い出した。
「アハハハハハハハ!こいつマジで捉えてやんの」
「え?」
真澄はまだ状況が分からないようだ。
だが、菱山の顔が険しくなっている。おー怖。
「私があんたなんかに告白するわけないじゃん。もうたくさん笑ったからかえって…」
「羽中!」
羽中さんがビクッと震える。
「菱山先生!?」
「羽中、貴様やってくれたな。ちょっと生徒指導部まで来い!」
「ちょ、ちょっと先生!?」
まさに怒涛の展開とはこのこと、というようにとんでもない早さで羽中さんが連れていかれた。
しばらくすると、陰に隠れてた奴らが出てくる。
「いやー、真澄の驚く演技上手いな。」
「それほどでもないよ。それよりも鹿島さん、嘘告の件教えてくれてありがとう。」
え?どういうことだ?
「いいよ、いいよ。いやー、詩織ったら、傑作だよねー。
騙されてるとも知らずにうちらの計画にまんまと引っ掛かっちゃってさー。」
そうか、仲間にはめられるっていうのはこういう事なのか。
「でも、鹿島さんって、羽中さんと親友じゃないの?」
「違うよ。あれは一緒にいれば、敵が出来ないだけの都合のいいやつ。
今の私にはあいつが敵になったところで、味方がいっぱいいるから。」
真澄の質問に鹿島さんはそう答える。
なんだそれ?あまりにもひどいじゃないか。
「皆、詩織は明日からハブね。話したら許さないから。」
「OK」
「明日が楽しみだぜ。」
鹿島さんの羽中さんハブ宣言に、皆口々に了承している。
……帰ろう。これ以上ここにいたら気分が悪くなる。
次の日から学校中から羽中さんへのいじめが始まった。