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レオン殿が何の話だ? と言う顔をされたので詳細を省いて説明する。
「昔は種族同士仲が悪かったもので。いやはや、今酒を酌み交わしているのは不思議な心持ちです」
「過去のいざこざはこの美味しいお酒で流していただけるとありがたいですわ」
「同意見です。今日は沢山呑んで流してしまいましょう。レオン殿は何を頼まれますか?」
「お、おう。じゃぁ、俺もその果実酒もらっていいか? 過去に何があったとか俺にはよくわからないが、一緒に酒を呑むくらいなら出来るからな。そんでもってトカゲの旦那の今後の明るい未来の話でもしよう!」
レオン殿が優し過ぎて涙が出そうですよ。
オーナーが来るまで一緒に果実酒を飲みながら3人で過去を酒で流し、今後の私の話をしました。ふむ……就職先ですか。
「レオン殿の手伝いですか?」
「おう、どうだ? 悪くはないだろう? 最近どうも身体の動きが鈍くなって来たんで、そろそろ人手が欲しかったんだ」
「火雲牛を単体で仕留めて来る方が言うセリフではありませんわね」
「仕留めた後が問題なんだ。魔物がいる中を安全な城門まで運ぶの大変なんだよ」
夕飯時に聞いていた熱いバトルのその後のリアルな話は、何だか現実味を感じさせますね。
レオン殿は火雲牛を倒した後に、三日三晩碌な睡眠も取らずに巨大な肉塊を担いで、城壁に囲まれた都市の城門まで走り切ったそうです……おや?
「私なら飛んで行けますね」
「「え?」」
「普通の成人した竜人種なら無理ですが。ほら、私は小柄なので。この歳ですし、魔力量も若い方よりは多いですからね。火雲牛くらいなら持って運べると思います。大きい個体ですと、切り分けてもらう必要があるかもしれませんが」
普通は成人したら身体の大きい竜人種は翼を切り落としてしまいますが、年齢と共に上がる魔力量に望みをかけて私は残しておきました。
邪魔だと思って切らなかった私偉い。因みに今は背中の表皮に収納してあります。
「トカゲさんは俺の救世主だ! 何なら次の火雲牛とついでにコカトリス狩り一緒に行こう? な?」
「お待ち下さい。坊やの家庭教師だと永住権と何なら月このくらい出します。いかがかしら?」
「あの、えっと……」
「お待たせさましたー! って何このカオス!? とりあえず、パンフレットどうぞトカゲさん」
グラスに注ぐのも億劫になったので、全員果実酒の瓶を片手に持ち2名は椅子から立ち上がてます。私は座っていますよ。そして酔っ払いに詰め寄られています。
事の詳細をオーナーにご説明しました。助けて下さい。
「流石に私は原液をガブガブ飲めないので炭酸割りで下さい。トマスさーん! 一緒に飲みましょー!?」
「あいよー! ちょい待ってなー」
オーナーとは別に、この宿のご主人だと紹介された援軍が来ましたが……ダメだ酒飲みのドワーフ族でした。
もはや火に油どころか、火に酒を注いで周りに引火し他の客を巻き込んでしまいました。
昔はどの種族とも中が悪かった竜人種ですが、今は種族関係なく飲めや歌えやのドンチャン騒ぎです。
「私のところはは住む場所も用意しますよ!」
「なんならその妹さん一族まとめて──」
「いやいやこっちは──」
「平和な世の中になりましたね……」
帰ったら移住先の相談でも妹に相談しましょうかね。
その前に心配事があるので、酔っ払ったレオン殿に訪ねて見ます。
「それにしても、こんなに騒いで大丈夫ですか?」
「大丈夫だ! いつも夜は結局こんな感じだからな! 子どもには見せられないが、今は大人の時間だ! トカゲの旦那ももっと呑め!?」
なるほど、これがこの宿流儀の大人の時間ですか。ではお言葉に甘えて私もいただきましょう。
子どもは勿論ですが、今からする事は大人も真似しないで下さいね。
「不肖トカゲ、共食いならぬ、共呑みに『大蜥蜴』の大瓶ラッパ呑みいたしまーす」
ごくごくごくごく……
「いいぞー! トカゲ野郎!?」
『ヒュー! ヒュー! もっとやれー』
〈〈凄い呑みっぷりー!!〉〉
「●米△◼️米○!!?」
もはや酔っ払って母国語で話されてたり、どこの国の言葉かもわかりませんが、声援を飛ばしたりして下さっているのはわかりました。
「プハーッ!! 最高。ご馳走様でした! それでは私は朝イチで収穫体験を控えておりますので失礼します!おやすみなさい」
罵声や引き止める声、律儀におやすみを返して下さる皆様に背を向けて、私は全速力で自分の客室の方に走り去りました。
水をガブ飲みし、いつもより寝床を雑に整えておやすみなさい……ぐぅ。
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トカゲ脱走後の食堂
蝶「相変わらず逃げ足はやいわね」
獅子「行くなー! 戻ってこーい!?」
ドワーフ「アイツ、どんだけ収穫体験楽しみにしてんだよ」
オーナー(スヤァ)