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「ではマルカ、帰りも気をつけて下さいね。明日には私も向かいますので、また後日」



「ピィ」(オッケー)



 外でマルカを送り出してから宿に戻ると、レオン殿に晩酌(ばんしゃく)に誘われました。

 これからは大人の時間だそうです。お供します。恥ずかしながら、夕食時にいただいた酒の量だけじゃ足りなかったので。









「とても幻想的で素敵ですね」



「俺はこの風景を窓辺で見ながら飲む酒がこの宿で一番気に入ってる。まぁ、俺が仕留めた肉焼いてるの見るのも好きだがな」



 再び食堂に戻ると室内は適度に暗く、大きな窓からのぞく庭には夕飯時は豪快にBBQを焼いている様子が見られましたが、現在はいくつもの(ほの)かな光が灯っています。



 窓辺に通された席に座りながらしばらく眺めていると、レオン殿オススメの酒が瓶ごと出てきます。



「『大蜥蜴おおとかげ』って言う神聖帝国産の米から出来た酒は夕飯時飲んだと思うが、それの(にご)り酒の方だ」



「鮭料理に夢中で酒の銘柄まで確認していませんでしたが、そうだったんですか!」



「トカゲの旦那にピッタリだろう?普通のよりも、俺はこっちの方が好みだな」



 瓶底に沈澱(ちんでん)した物を混ぜるように軽く揺らし、グラスに注いでもらった濁り酒をひと口いただく。



「はぁ〜……。美味しいです」



「だろ?」



 思わず溜息が出るほど旨いです。少しトロミのついた酒は、独特のほのかな優しい甘みが口で広がり、後に残った香りが鼻に抜けて行くさまは素晴らしいのひと言です。



「今日孵った妹の子どもの顔を見たら、もう思い残す事はないですね」



「なんだよ、まるでもう直ぐ死ぬみたいな…………トカゲの旦那死ぬのか?」



「5年前から老化が始まりましたので、もう長くはないでしょうね」



「……そうか」



 お通しのビーフジャーキーを摘みながらしばらく酒をチビチビ呑んでいると、(おもむろ)にレオン殿が口を開けました。



「後どれくらい生きられるんだ?」



「私は竜人種の中では小さい方ですからね。そう長くはかからないでしょう」



「そうか……」



「大体200年くらいです」



「おまっ! 俺の悲しみを返せよ! 俺の全寿命の倍あるじゃねーか!?」



「えぇ??」




 私にしたら短いですが、平均寿命100年の獣人族獅子種のレオン殿には長い時間だったみたいです。

 そうか、最近長寿種と共にしていたので世界基準の時間感覚が麻痺していたようです。失礼しました。



「……いや、すまん。口が悪かったな。この先どうやって過ごすんだ?」



(しばら)くは妹の所でお世話になろうと思っていますが、戸籍は別大陸にあるので滞在は1年くらいが限界ですかね?こちらに来たのは生前贈与の手続きのためなんですよ。その先は考えてなかったのですが、国に戻っても何もないですしどうしましょうかね?」



「俺に聞かれてもな。……いや、決まってないならいっそ俺がいる国に住むのはどうだ? トカゲの旦那はどこに戸籍があるんだ?」



「魔大陸の魔王城です」



「ブフッ!?」



「大丈夫ですかレオン殿?」



 魔大陸で魔王の補佐のしていましたが、老化が始まったと言う事で辞職が許され、身辺整理をしてからこちらに来ました。


 大分引き止められましたが、妹の子どもが産まれそうだと知らせを受けて、結構無理矢理魔大陸を出て来ました。子どももいない私は生前の財産分与の為に妹のところに来ましたが、滞在可能期間は1年間しか許されませんでしたので。そもそも、私この大陸に住めるんですかね?



「オーナーの宿に来る奴は大物ばっかりで慣れたと思ったが、上には上がいるよな本当。俺もまだまだだな……不法に来たわけじゃ、ないよな? そしたらこの宿は泊まれないし」



 何やらレオン殿はブツブツ独り言を始めましたが、考えに没頭しているためソッとしておきます。酒は私が()ぎますよ。


 

 次の酒と料理を決める為にメニューでも見ましょうかね。

 こちらの食事のメニューは絵があるのでわかりやすいですね。ふむ……迷う。



「ご一緒してもいいかしら?」



「私もついでにお願いします」



 メニューを隅々まで見て悩んでいると、ピピ夫人とオーナーが相席をご希望されました。私はかまいませんが、レオン殿は……



「丁度よかった! オーナー相談事が……あ、ピピ様もどうぞどうぞ」



「何ですか?」



「お隣失礼します」



 オーナーはレオン殿の隣に、私の隣はピピ夫人です。窓近くの方にどうぞ、外の風景が綺麗ですよ。



「ふふふ。竜人の方は相変わらずレディファーストですね」



「もう、女性を大切にするのは血に刻み込まれておりますから。ははは」





 オーナーとレオン殿が話している間に私はピピ夫人と会話を楽しみます。



「メニューはいかがですか?」



「ありがとうございます。こちらの桃の果実酒をいただきますね」



「では、私も同じ物を。レオン殿とオーナーは……後にしましょうかね」



 あーでもない、こーでもないと話が盛り上がっているようなので2人の注文は後ほどにして。あ、ついでにフルーツの盛り合わせを追加で頼みましょう。






 新しい酒が運ばれて来てピピ夫人と乾杯して先にいただいていると、2人の話しは終わったようです。



「サンガルカントマルクスフォルクさんは移住希望でお間違えないですか?」



「長い名ですので、トカゲで結構ですよ。移住出来ますかね?」



「私がいる国ならお金があれば出来ると思います。他の国は問い合わせて見ないとなんとも言えませんが、資料をお持ちしますので、少々お待ち下さい」



「…………」



 何やら話が大事になってきましたね。うむ、困った。





「ピピ夫人は竜人種の私がこの大陸にいるのはどう思われます?」



「いいのではないですか? 私は歓迎しますよ。何なら私の国に勧誘したいくらいですけど、どうかしら?」




「正気ですか?」



「ええ、坊やも懐いていますし。何なら家庭教師でもしていただけると助かりますわ」



「ははは! パピン君の家庭教師ですか。竜人種が蟲人族の………ここは平和な世の中になりましたね。長生きはするものだな」



「それは私も同意見でしてよ」



 レオン殿は困惑気味な表情ですが。まぁ、長生きしていると過去に色々な出来事もあるんですよ。

 

 今の若い方がして来ない苦労や、口では語れない事もして来ました。当時では普通の日常も、振り返って見ると現在ではとても残酷な事だってありましたからね。



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