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 こちらの夕食は事前のアンケートと言いますか、チェックシートに食べ物の好み等を(あらかじ)め伝えてから個々にメニューを決めているそうです。


 チェックシートだけで2枚、細かな指定用の自由記入の物1枚。食事関係の紙だけで合計3枚もありましたので、この宿の食に対しての力の入れようが伺えました。


 私が選択したのはコース料理風で、食材バランスは野菜と果物を多めの、できれば食材は丸のままか切っても大きめになるよう指定しました。


 1食に食べる食事量なども記入しましたので、普通の獣人族よりは食事の量も多く出てくると思われます。私はよく食べますからね。

 その他味付け等細かなコトは割愛させていただきます。















 食堂へ到着しましたが、私が一番最初に来たようでどうやら他の席は空席でした。



 給仕の者に案内された席に着くと、食前酒が出てきました。いやー、椅子が頑丈そうなしっかりした作りの長椅子なのは助かりますね。

 背もたれがあると尻尾があるので座れない事があるんですよ。


 最悪の場合、私の体重に耐えきれなくて座った瞬間壊れる物もありますからね。



 テーブルの上に『お品書き』なる物がありましたので読んで見ます。





〜本日のお品書き〜



 ベスティア国産白桃スパークリングワイン


 自家製野菜丸かじりセット

 トマト、きゅうり、レタス、水茄子、人参


 お化けカボチャのパンプキンスープ


 カイザス国産(養殖)鮭の姿焼き


 お口直しの苺のソルベ


 炭火焼きBBQ串(特大)

 神聖帝国産(天然)火雲牛(かうんぎゅう)、黄パプリカ、トマト



 デザート&食後のお飲み物

 アップルパイ、バニラアイス

 スイカ


 ベスティア国産ジャスミン茶

 ネスト大陸自治区産コーヒー

 神聖帝国産紅茶(ミルク、レモン)



 お酒、お飲み等は別紙メニューをご覧ください。





 お品書きに目を通しただけでも、年甲斐もなくワクワクさせられる物がありますね。


 別紙メニューの酒はフォーゼライド国産の物が多く記載されていました。

 流石にフォーゼライド国……ドワーフ族の酒は種類が豊富で迷ってしまったので、料理に合わせて給仕の方にお任せで出すようにお願いしておきました。




 お任せで出て来た自家製梅酒を飲みながら、これまた自家製の生野菜をムシャムシャ食べていると、ちらほら席が埋まりはじめました。



 トマト甘くて美味しいです。

 レタスは水々しくて、生のナスなんて食べたことありませんでしたが、こちらのナスは火を通さなくても食べられる品種だと給仕の方に説明を受けました。

 エグみもなく、皮がキュッキュッと、していてこれまた歯応えもいいですね。



「トカゲ、折角だから一緒に食べないか?」



「私の食事風景は少々お見苦しいですけど、大丈夫ですか?」



「俺は気にしない。てか、言うかこの宿に泊まりに来るようなヤツはそんな事気にしないって」



「それではお言葉に甘えてご一緒させていただきます。丁度話し相手が欲しかったので嬉しいですよ」



 レオン殿と相席する旨を給仕に伝えると、私の使っているテーブルに彼が座る椅子を持って来ていただきました。



 レオン殿の食事はコースではなく、料理が出来次第テーブルに並べるスタイルのようです。


 大皿の料理を食べる時に複数枚積み上げられた小皿にその都度取る食べ方は中々興味深いですね。

 そして、そのどれもがほぼ肉類。



「BBQは只今外で焼いておりますので、後ほどお持ち致します」



「了解。酒は今日は自家製梅酒ボトルで……いつものように氷とソーダ水をまとめて置いといてくれ」



「かしこまりました」



 いつもの様にとは? どうやらレオン殿は宿の常連のようですね。

 本人に伺いましたら、月に数回は泊まりに来るんだそうです。こちらの宿代は安くはないので、お若いのに稼いでいらっしゃる。



「若いって……もう40歳手前だぞ?」



「30代でしたか! いや、私に比べたら遥かにお若いですよ。その頃の私は卵から孵ったばかりでしたからね、ははは」



「え? てっきり獣人族蜥蜴(とかげ)(しゅ)のデカイ個体かと思ったが、もしかして竜人種???」



「はい、そうなんです。恥ずかしながら今年で4325歳になりました」




 丸ごとカボチャが出てきたと思ったら、蒸したカボチャの中身をくり抜いて器にし、お化けカボチャのスープを入れると言うなんとも遊び心あふれる物を堪能します。

 スープはお化けカボチャ特有の甘味の強い物ですが、外のカボチャはホクホクとした食感で2度美味しい。


 私がカボチャに齧りついていると、レオン殿は『箸』と呼ばれる2本の棒で器用に挟んでいた鶏肉の冷菜をポトリと皿の上に落としてしまいました。



「そ、それは失礼した。じゃ、ない……失礼しました。てっきり年下かと思いましてタメ口など、とんだ失礼を……」



「ははは、ラフな口調でかまいませんよ。種族も年齢もよく間違われますから。気にしないで下さい」



 普通の獣人族蜥蜴種なら20代に見えるんでしょうね。

 獣人族竜人種に分類される一部の者はエルフ族同様、成人すると老化が緩やか通り越して止まりますから、見た目での年齢が分かりづらいとよく言われますよ。


 個体差はありますが、四肢は筋肉質で尻尾が若干竜種の方が太くて長いようです。角が生えてるのも居ますし。

 人族と身体の作りはあまり変わりませんが、やはり体格が良いので大型に分類されます。

 まぁ、私も含めて大体蜥蜴(とかげ)顔なので、そもそも他の種族の方々には分かりづらいですかね?

 友人には「お前の顔は歳も喜怒哀楽も色々分かりづらい」とよく言われたものです。


 ついでにレオン殿に名前の話でもしましょうかね。



「父の名前は明かせませんが、母はサンドリオンで妹はルナです。竜人種が皆サンガルカントマルクスフォルクなんて長ったらしい名前ではないので誤解しないで下さいね」



「そうだったのか……」



 スープを食べ終わり、絶妙なタイミングで鮭の姿焼きが出てきたので背中の方から(かじ)り付きます。

 うーん。いい塩梅で皮目がパリパリ。一緒に出された米から作られたと言う酒ともよく合います。



 結局レオン殿の「かしこまった口調は苦手」のひと言で以前のようにお話させていただきました。

 (ただ)し、呼び方は『トカゲの旦那』になりました。


 そんなこんなで食事と酒を楽しんでいると、人影が近づいて来ます。



「あの、先程はありがとうございました」



「いえいえ。此方こそ楽しいひと時をありがとうございました」



「困った時はお互い様だ」



 侍女のシャンさんがお礼にとパピン君が収穫したと言う大きなロメインレタスの葉を数枚お裾分けして下さった。ご丁寧にどうもありがとうございます。

 そうか、だからあんなに泥んこだったんですね。


 よく見たら食堂入り口近くのテーブルで何やら一心不乱に葉物野菜を食べているパピン君を見つけてちょっとほっこりしました。

 ここまでシャクシャクとした咀嚼音(そしゃくおん)が聴こえて来そうなほどのいい食べっぷりです。


 ピピ夫人はパピン君にかかりきりの様なので目礼にて挨拶をすませます。


 さっそく、お裾分けしていただけたロメインレタスを2人でいただきました。



「こちらの野菜はどれも美味しいですね。明日の朝に私も収穫体験を予約しているので今から楽しみです」



「俺もこの宿で出てくる野菜は好きだ。一度だけ収穫体験をした事はあるが、調子に乗って取りすぎて危うく食い切れないところだった。トカゲの旦那も気をつけてな」



「それはそれは……私も明日は気をつけます」




「お済みのお皿をお下げします。焼き上がりましたBBQのお肉をお持ちしてもよろしいでしょうか?」



「おう、よろしく」



「はい」




 口直しの甘酸っぱい苺のソルベを食べていると、何やら凄い物が出てきました。わぁお。






「なんとも豪快ですね」



「この肉俺が先月狩ってきたんだ。一足先に味見させてもらったが、味は保証するぞ」



 レオン殿の前には串焼き数本で、私の前には長い皿からはみ出るような鉄ぐし1本で出て来た、大きめにカットされた肉塊が数個刺さったワイルドな物でした。


 肉と肉の間に彩豊かな焼いた黄色いパプリカ、トマトも一緒に串刺しにされている。これは目にも鮮やかでインパクトがありますが、湯気と一緒に運ばれてくる食欲をそそるなんともいい匂いが堪らない。



 ソルベを流し込む様にして食べ終わると、二股のフォークで肉を鉄串から外して齧り付きます。



「幸せだ……。美味しい肉をありがとうございます。レオン殿」



「どういたしまして」



 刺さっている肉は所々部位が異なるのか味わい豊かで、合間にある焼いた野菜を食べると口の中が一旦リセットされて肉を飽きずに食べられます。

 加熱されたトマト甘くてジューシーで最高ですね。

 別に添えられた数種の岩塩や胡椒、レモンも合間ってもう私のテンションはダダ上がりです。


 おっと、食事に夢中で一緒に出された赤ワインを忘れるところでした。



「プハー……おっと失礼。お見苦しかったですね」



「いや、気にするな。トカゲの旦那の食べっぷりは見ていて気持ちがいいな。俺の串焼きも食べてみるか?肉もそうだが、このタレが美味いんだ」



 お言葉に甘えて一本失敬しましたが、こちらはあまじょっぱい独特のタレが絶品ですね。

 肉にトロミのついたタレが絡んで口の中が幸せいっぱいです。



「こちらもまた一段と美味しいですね。いや、長生きはするモノだ。こんなに美味しい串焼きに出会えるなんてこちらに宿泊するまでは夢にも思いませんでした」



「そう言って貰えると、苦労して狩ってきた甲斐があるよ」



 レオン殿と熱いバトルを繰り広げた火雲牛の話を聞きながら食べるBBQは、中々に乙なものでした。



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