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蟲人族の幼体はパピン。
蟲人族の母親はピピ。
侍女の方はシャンとおしゃるそうです。
ご丁寧にありがとうございます。
レオン殿にパピン君の荷物を持っていただき、青い暖簾をくぐり男湯の脱衣所前の下駄箱付近でサンダルを脱ぎます。
下駄箱に他のサンダルがないので私達で貸し切りですかね?
「結構広いんですね」
「体の大きい奴らも入るから、この宿は何処も広めに作ってあるとオーナーが言っていたな」
「なるほど」
「ピギャー」
本当は脱衣所で服を脱ぐのがマナーでしょうが、パピン君の体についている泥が乾いてポロポロ落ちそうなので、洗い場で脱がせてもらいましょう。
パピン君を大きな洗い椅子の上に一旦待機させレオン殿が見守りしている間に、全員分の服を脱衣所の籠に置きに行かせてもらいました。
「君は本当にお利口です。レオン殿を振り切って脱走してるくらいは想定していましたよ。偉い偉い」
「ピギャッピギャッ♪」
頭をヨシヨシしたら泥がポロポロ落ちてきましたので、早く洗ってしまいましょう。
先ずはシャワーをかける前に湯温の確認をしましょうかね。温度調整をして私とレオン殿が湯温の確認後、パピン君の尾の部分にそっとかける。
「もっと高めの温度の方がお好みですか?」
「ピギャピギャ」
首を振られたので大丈夫そうですね。このまま体の泥を綺麗に流してしまいましょう。
「手慣れてるな」
「下に弟妹が5人もいればこんなものですよ。上はもっといましたけどね」
「ピギャ〜……」
パピン君が持参した低刺激のボディソープを掌で泡立ててから体を洗っていたら、気持ちよさそうな声を出された……お痒いところはありませんかー?
「レオン殿、申し訳ないが先にご自分の体を洗ってもらってもいいでしょうか? 私は貴方が洗い終わったら洗おうと思います」
「了解」
「ピギャ〜」
体の皺を伸ばして洗っていたらまた気持ちよさそうな声を出された。
産毛が掌に当たって、洗っている私も気持ちがいいですよパピン君。
さて、反対側も失礼しますよ。このぷよぷよお腹は素晴らしいですね。
「ピギャ〜…………ぐー……ぐー……」
「坊主寝てないか?」
「ははは。そうですね。いやー、これは将来大物になるでしょうね」
レオン殿が体と頭を洗い終わったのでパピン君の体にシャワーをかけててもらい、私自身もザッと体を洗う。
終わったらパピン君を起こし、内風呂ではなく露天風呂なる野外の風呂に直行した。
ぱちゃぱちゃっぱちゃっ
「凄いですねパピン君。貴方泳げるんですか?」
「犬かきならぬ、芋虫かきだな。蟲人族は水が苦手な者が多いと聞いたが。こりゃ、坊主には当てハマらないみたいだな」
道理で体を洗ってる時に嫌がらないと思いました。
まさか泳げるとは思わなかったので、抱えてパピン君の尾を温泉に入れながら露天風呂の気分だけでも味わって貰おうと思いましたが心配無用でしたね。
私の腕をすり抜けて自ら湯船に飛び込んだ時は流石に肝が冷えましたよ。
大人2人も湯船に浸かり、パピン君に目を向けながらレオン殿に質問してみました。
「パピン君って歳はお幾つかご存知ですか?」
「今年で14歳らしいぞ」
「なるほど。もう直ぐサナギになるんですね。道理でズッシリしていらっしゃると思いました。女湯に入るには少し勇気がいると言うか、微妙なお年頃ですかね」
「まぁな。気持ちはわかるが、あの幼体じゃ自分の体もまともに洗えないだろうに。トカゲがいてくれて助かったよ。感謝する」
「こちらこそ勝手に巻き込んですみませんでした」
パピン君の気がすんだようなので、出ますかね。
上がり湯をかけてタオルで体表面の水気を拭き取ってから脱衣所に戻り、皺の隙間や足の間まで再度綺麗にタオルで拭きます。
レオン殿と私も洋服を着て、忘れ物がないか確認してからその場を後にします。
「お待たせしてしまいましたか?」
「いえ、大丈夫で……きゃっ!」
「ピピギャピギャピギャピギャギャピンギャーピンギャン!ピギャピピギャギャギャンギャンピギャン!?」
「そうなの? よかったわね。うふふ、はいはい。トカゲ様とレオン様にきちんとお礼しましょうね」
「ピギャッ!」ぺこり
「どういたしまして。お礼も言えて偉いですね」
「お、おう」
パピン君はピピ夫人の元にダイブしたと思ったら何やら高速で話し始めました。お風呂で泳いだ事でもお話しされたのかな?微笑ましい光景で顔が緩む……いや、歪むかと思いました。
一応ピピ夫人と侍女のシャンさんにお風呂での様子をレオン殿と一緒に説明したら、何度もお礼をおっしゃりながら客室に帰られました。
こちらこそ癒しと、魅惑のふわふわプニプニボディをありがとうございました。
私の体は鱗で覆われており毛もなく、オリハルコン並みに硬いので自分にはないあの感触は癖になりそうですね。
あ、嘘つきました。
オリハルコンより硬いんです私の体。
昔の話ですが、私に当たったオールオリハルコン製の剣、ポッキリと言わず粉々にしましてね。
友人の剣だったのですが、鍛治師に「治すより新しく買った方が安く済む」と、言われたくらい手の施しようがない状態でした。あの時は悪い事しましたね。
「俺はもう一回ゆっくり風呂にでも入るかな。トカゲはどうするよ?」
「私は結構体が温まりましたので、庭でも散歩させてもらいましょうかね」
「おう、じゃぁまたな!」
夕食まで今しばらくの間、庭と言う名の庭園を見て回りました。
いやー。宿で池付きの庭園も珍しいですね。
普通は裏庭に井戸と洗濯物が干せるスペースがあるくらいで宿に庭園なんてありませんよ。
季節の花々など中々に見応えのある庭園でした。
今現在は白塗りの東屋で涼やかな風を浴びながら休憩中です。
何やら先程からいい匂いが漂って来ますがそろそろ夕飯時ですかね。戻るとしましょうか。
「よっこらせ」
最近、立ち上がったり腰掛けたりする時に思わずひと言出てしまうのは歳のせいですかね? 私もジジ臭くなりましたよ本当。
庭園の花々と涼やかな風を堪能した後に一旦自分の客室に戻り、洗濯物を回します。
いや、こちらの洗濯機は性能が良いですね。量も少なかったので15分程で終わるようです。
洗濯物が終わるまで寝床で整えますかね。
普通の宿だとベッドだったり、安いところですと床に雑魚寝もザラですが、こちらの宿では顧客のニーズに合わせて選べるのは助かりました。睡眠は大事ですからね。
山盛りの藁の上に大判のシーツを被せて藁を寄せたり、踏み固めたりしながら私の体に合わせるようにして寝床を整えていきます。
「グルル……グルル……」
おっと、熱中し過ぎてお見苦しくも喉を鳴らしてしまいましたが、私以外聞いている方がいらっしゃらなかったのは幸いです。
丁度洗濯も終わったようなので、寝床の微調整は寝る前にして、洋服など仕舞ったらそろそろ食堂に向かいましょうかね。




