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止められない気持ち

 宙に浮いた謎の説明文は質問は一切聞かないと言わんばかりに宙に溶けて消える。

 そして俺の今の姿は映した鏡も同じく静かに消えていってしまう。

 

 俺は鏡と説明文があったところに手を伸ばすが全く意味のない行為だ。消えたという事はこれ以上話す事はない。意味は自分で考えろという事なのだろう。

 

 俺は伸ばした手を自分の顔の前まで戻すと強く握りしめる。


 色々分からない事はできたが、今はいい、些細な事だ。

 いま俺がやるべき事は体験版の時との仕様変更に疑問を持つことでも魂や前世なんて不確かなものの事を考える事ではないのだ。

 

 俺は手を握りしめたまま眼下の夜の街やプレイヤー達を再び見る。建物が放つ光が夜空を照らしプレイヤー達の騒ぐ声がまるで強力な空気砲のようになり俺の体を震わせる。


 いまは1秒でも早く俺もこの世界を楽しむ!それがいま俺がやりたい事だ!


 予想外の事が起こり少し出鼻を挫かれたがもう我慢の限界だった。

 俺はここ、ヘリポートのような所で出鱈目に走り始める。


 まるで子供が遊園地のゲート前まで来て入り口付近を走り回るように。


「・・・・・・は」


 そしてぐるぐると円をかくように、ウォーキングでもするかのようにゆっくりめに。


「・・・・・・はは」


 ぐるぐると円をかくように、時計の秒針が進むように少し速く。


「はははははははははは!」


 ぐるぐると円をかくように、ラジコンのモーターが急速にタイヤを回すように速く。


 俺は一周する毎に走るスピードを上げていく。スピードを上げていく毎に胸の鼓動が速くなる。

 それはまるでバイクのアクセルを全開でぶん回した時のエンジンが激しく振動するかのように。

 

 もう、止められない!止まらない!俺はーー!


 ひたすらその場をぐるぐると走っていた俺は円をかくのを止めて別の方に逸れるように走って行く。だがその先には柵も壁もない。だかだ!


「ーー俺はもう止まらない!」


 まるで短距離走に全力をかけるスポーツ選手のような迷いのない走りで俺は最後の一歩を踏もうとする。


 そしてその直前に頭のどこかでサイレンが鳴り響くように声がし目に見える景色が走馬灯でも見ている時のようにゆっくりに見える。

 

 進むのは危険ーー知っている!

 今なら引き返せるーーいやだ!

 落ちたら死ぬーー当たり前!

 死ぬきか?ーー死なない!


 ならーーうるさい!黙ってろ!


 俺自身の理性が必死に俺の行動を止めようとするが俺はその全てを黙らせる。

 声は消え、見える景色も元の速度に戻る。

 そして俺は最後の一歩を踏みしめて飛んだ。


 あぁ、風が体を撫でているのが分かる。跳んだ俺を重力が下に引っ張るのも分かる。 

 俺はこんな高さから理由もなく跳んだ。そして落ちたら現実と同じように命はないだろう。


 飛んだ俺は一体どれほどの距離を跳んだのか分からない。ただ振り返って跳んだ地点に手が届くような距離では当たり前だがなかった。


 あるのは己の体のみだ。なんとかしないと本当に地面に落ちてシミになってしまう。

 だというのに俺はこの落下していく感覚を楽しんでいた。


「あははははははははは!凄い!やっぱりこの世界は凄い!」


 これがパラシュートやスカイダイビングをする人達が感じる感覚なのか!すごい!まるで口から心臓が飛び出して、身体中の血管が緊張で爆発しそうだ!


 ここまで感覚を再現してくれるなんてこの世界は凄すぎる!


 パラシュートやスカイダイビングの事を考えているが俺は実際やった事はない。あくまでそうなのだろう。という気持ちだけだ。


 そして付け加えるのなら俺の体、アバターはパラシュートなどは装備されてなどいない。

 この世界においてそういう物はショップに行きポイントで購入する物だからだ。


 初期からアイテムを持ち装備されるなんて事はこのゲームにはない・・・・・・多分だが。

 

 実際体験版にない事がこの製品版で起こり少し自信がないがおそらくはその辺りは一緒だろう。


 そしてここで少し高い場所から落ちた時にくる突風を浴びて冷静になった俺は下を見るなり右手を突き出す。

 

 んー、初期アバターの頃では無理だったと思うけどこの鋭い爪を持ったアバターならできる筈だ・・・・・・初期ステータスだけど。


 ほんの少し埃程度の不安を感じながらも伸ばした右手が風で揺れながらも伸ばし続ける。

 するとだ。

 伸ばした右手が他の建物の角に当たる。


 よし、いまだ!


 角に当たった右手の指をすかさず握り爪を食い込ませ固定する。そして落下していた俺の体は重力と急停止のせいで体全体に凄まじい負担が降りかかる。


「ぐっ、これは、すごいな。まるで骨だけ残して、肉だけが下に落ちていきそうな感じだ」


 とは言ってもロボットの体なのだから骨や肉はない。あくまでそう感じたからそう表現してみただけだ。

 体の節々が少し痛むが掴んだ右手に力を入れて体を建物の上に引き上げる。


 ふぅ、いやはや、跳んだ下に建物があったなんてラッキーだな。初ログインして街を回る前に死ぬて笑い話にもならないな・・・・・・いや、笑えるな。俺ならそんな話聞いたらアホすぎて腹抱えて笑うな。


 建物の上で腕と足の関節をぐるぐるとほぐし俺はその場からぐるりと周りを見渡す。


「さてと、スリルを味わったところでどこへ行くかな。探索かいきなりバトルしてポイント稼ぎも、まぁありかな。おっ?」

 

 今後どうするか考えていた俺の視界に何やら気になるものが見える。

 それは人だかりだ。


 サービス開始で人だかりなんて珍しくもない光景なのだが、それは何やら楽しくて騒いでいるようには見えない。

 

 うんー、少し近くに行って見てみるか。面倒そうなら速攻で逃げよう。うん、そうしよう。


 三階建ての建物から俺はひょいと飛び降りてその人だかりに向かう。通行人を避けて人の波に飲まれないように。


 すると徐々に何やら怒号が聞こえて来る。何やらこの声から察するによっぽど気に入らない事があったようだ。

 まったく、サービス開始日ていうめでたい日なんだから、広い心で楽しめばいいのに。

 

「どこだー!出てこい!」


 おっ、あれか。肩でもぶつけられて気が立ってるのか?まったく牛乳でも飲んでカルシウムをもっととったほうがーー。


「出てこい7番!いるのは分かってんだ!出てきて俺と戦え!」


 この人だかりの中心で怒号を上げているプレイヤは7番という人に用事があるようだ。よし関係ないみたいだ探索に行こう!

 俺は回れ右をしてこの場所から離れようとるとする。


「帰っちゃうの?彼、君のこと探してるみたいだけど?」

「ーーっ!」


 俺は急に肩を掴まれ声をかけられた。すぐさま振り返り肩を掴んだ相手を見る。

 そこには全身全身真っ黒で赤い瞳をしたプレイヤーが立っていた。

 


 


 


 

 

 

 


 


 


 

 





 



 

 

 


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