焦る気持ち
その日はその年で一番暑い日と言われた日だった。気温は38度、猛暑日だ。そしてエアコンや扇風機のない屋内なら気温は軽く40度を超える。
そんな聞くだけでうんざりする日に俺は着たくもない学校に来て授業を受けている。
なんたる嫌がらせ、世の中クソだ・・・・・・と言いつつも学校に来るのは学生の仕事みたいなものだし、後親に安くない金を払って高校まで出してもらってるわけだし、行かないと悪いしな。
日差しを浴び額から汗を流しながら俺は無理矢理自分を納得させ続けている。
だが、あんな光景見たら苛ついて今にも帰りたくなる。
俺は視線を教壇に立って授業をする、頭の寂しい熟年教師から右にずらす。そこにはこの教室にただ一つの扇風機の前に陣取ってやかましく騒ぐこのクラスの仲良しグループがいた。
そのグループは真面目に授業を受けている他の者や嫌々授業を受けている俺の事などお構いなしにニワトリの鳴き声のようにやかましい声で話している。
こういう手のグループは各学校各クラスには必ず一つは存在する。人の迷惑を考えないで自分達さえいいみたいな考え方をする自己中共が。
俺や他の生徒は口には出さないが教師にこのやかましい声や扇風機の事で注意をしてくれと無言の視線を送る。
なのだが教師は俺達から視線を逸らした。そして授業を続ける。
「・・・・・・クソが」
俺は誰にも聞こえない位の大きさの声でそう呟いた。
そしてやかましい声は止まる事なく教師は注意する事なく時間は過ぎ休憩時間に入る。他の者は親しい友人のところに行ったり来たりだ。
俺は自分の席から動く事なく誰とも喋る事なくお茶だけ飲んであとはスマホを触る。
何を見るわけではないが適当にスマホを触っていた時だった。俺の耳にある会話が聞こえた。
「なぁ、聞いたか!また出たんだってよ!」
「何がだよ、お化けか?」
「ちげぇよ!七番だよ!な、な、ば、ん!」
「ああ、BOPLプレイヤーの人か」
「そう!その七番だよ!」
「凄いらしいな。で、今回は何やったんだよ?」
「それがな、相手の番号は知らないけど今回は二十人のプレイヤー相手に七番一人がノーダメで全滅させたんだよ!」
「へぇー、それはまたすげぇな」
「だろ!ずげぇよな〜俺、早く製品版買ってあったみたいぜ」
「そう言えばBOPLの製品版今日発売なんだよな?」
俺はその会話を聞きながらスマホの画面見た。そこにはBeast of previous life本日発売と書かれた画面が映し出されており、上の通知画面にはネットショッピングアプリの通知で配送完了の文字も出ていた。
俺はスマホを手に持ったまま窓の外を向いてため息と共に小さな声で呟く。
「はぁ、早く帰ってあの世界に行きたい」
それから俺の頭にはあの世界、BOPLの事で一杯だった。
残り二つの授業の話なんて全く入ってこない。一分一秒でも早く帰ってあの世界に行くことだけを考えている。
因みにBOPL、正式名称Beast of previous lifeはスマホ向けのVRアプリゲームのことだ。
そのアプリはVRアプリとなどと言われているが従来のようにゴーグルに挿してやるタイプのアプリなどではない。
そのアプリは何と音楽を聴くみたいにスマホにイヤホンを挿し両耳につけるだけで仮想空間に行けるという理論の理の字もわからない超絶ぶっ飛んだゲームなのだ。
最初は誰も信用しなかった。だがそれの体験版が200名限定無料でインストールできるというので興味を持った何人かがインストールした。
その結果、すぐにそれは真実だと判明した。
そこらから凄かった、噂を聞きつけた者達が残りの枠を狙いその日一斉にアクセスし回線が異常混雑したほどだ。
そしてその後体験版をインストールできなかった者達はその狭き門を通れた数人のプレイヤーが上げるプレイ動画を片唾を飲み見ていた。その人物をその世界を。
それからはさらに凄かった。誰かがBOPL体験版の動画を上げるだけでその動画の再生数は2日で10万再生を記録し登録者数は1000万というある職種の人からしたら最悪の出来事だ。
BOPLの動画を出すたびに人気を奪われるのだから。
それほどにBOPLという世界は魅力的で見るもの全てを虜にした。老若男女問わず。
そしてその夢のような世界に行ける製品版が今日発売なのだ。待ちきれなかった者が一体どれほどいるのだろう。
おそらく今日この日のために学校を休み仕事を休んだ者は大勢いる。
そして製品版をダウンロードしたスマホ片手に今か今かとサービス開始の時間を待っていることだろう。
そこから俺は行動は早かった。ホームルームが終わると鞄片手に急いで下駄箱に向かい靴を履き替え自転車置き場に向かう。
速く!速く!あの世界に!もう一度!
自分の自転車の置かれた場所はもう目の前に色々焦る気持ち。あと数歩進めば手が届く。
その時だ。
「ーーあ」
何かに躓いた。いや、それより避けないとダメだ。このままだと自転車にーー。
避けなくては思った。だが無理だった。俺は転び自分の自転車にぶつかり倒れた。
「くっ、そ、頭痛ぁ・・・・・・」
自転車にぶつかった俺は頭を押さえふらつきながらも何とかその状態から立ち上がる。
そして今気づいたが誰か人の気配がする。
ゆっくりと後ろを振り向いた。
「あははははははははははは!こいつ、今の見たか!なぁ?すっごい勢いで躓いたよな!」
「ああ分かってるから、ぷっ、あまり言うな。面白くて、ぷっふ、笑いが止まらねぇから、ぷっふふ」
そこにはいかにもガラの悪い二人の男子生徒が押さえた頭から血を出している俺を見て笑いながら立っていた。