1/2
プロローグ
家から1歩も外に出なくなりちょうど3年が経った日の夕方、母から不思議な店の話を聞いた。どうやらそこへ行くと人生が変わるらしい。何もかもに嫌気がさして、死んでしまおうかとも思ったが生憎自分にその勇気は無く、何をする訳でもなくただ生きている。長袖しか着られなくなったこの体でも、もし母の言うように本当に人生が変わるのだとしたら、苦しいだけの世界から抜け出せるかもしれない。
──その店へ行ってみたい。
母の話に興味を示さずには居られなかった。
何気ないいつもの帰り道、仕事で疲れた足をどうにか引っ張りながら歩いたネオン輝く道の陰、細い路地を抜けた先、ガラッと変わった景色の真ん中に小さな家が立っていた。
「めもりーず…?」
〝Memories〟と書かれた木の板がドアに掛かっている。
店の窓からは並べられたオシャレなカップが見えており、カフェなのだと分かった。
この時はまだ知らなかった。この店は特殊であり、普通のカフェではないことを。
母はその後風の噂で知ることになる。
このカフェは記憶を取り扱う店である、と。