監禁の成れの果て
当分彼に会うのはやめよう。会えば彼女の現在の状況を聞いてくるだろうし、仕事の支障になりかねない。
当時、彼女をこちら側へ落とす事はまずあり得なかった。だけど、考えが変わった。生きる事を選択させる為には縋り付く居場所が必要なのだから。
何度も何度も繰り返した。同じ話をして、媚薬を投与し、彼女の当たり前がこの状況である事を植え付ける為に。
媚薬に頼ったのは私の弱さなのかもしれないが、一番、楽な方法でもある。だから必要不可欠だった。
媚薬は身体に馴染んでいき、人格さえも変えてしまう、特効薬。
私も同じようにして今がある。だから彼女にもその現実を突きつけたかった。
私は見た。
もう彼女は岬ではない。
新しい名をあげた『道化師』としての名を。
「ほしいものはどんな事をしてでも手に入れる、それが君に合ってる」
『……それでもあたしは誰も傷つけたくない』
あの時は媚薬に呑まれて、話も出来なかった癖に、今では饒舌だ。
彼が、君を見たら驚くだろうね。
「それは君の考えだろう。この世はそんな甘いもんじゃない」
『それを教える為に、あたしを幽閉したの?』
「さあね」
『つくづく変な人』
「……私が怖くないのかい?」
『……怖くないと言えばウソだけど、貴方には貴方のやり方があるのでしょう?無』
「この五年で魅力的になったね、それなら彼を自分のものにするのも簡単だろう」
『……あたしはあの人を愛しているわ。それでも貴方があたしに与えた痛みも愛してしまった』
極上の言葉に身震いをする。
「今日のご飯、まだだろう?」
『ええ』
「ならおいで」
『自分で出来るわ』
「そう」
私は包丁を放り投げる。カシャンと音を立てた包丁は、怪しく微笑みながら、それを手に取る彼女がいた。
私はいつものように、彼女を待つ。
私にとっても、彼女にとっても、これが日常になった。
『いただきます』
「どうぞ」
サッと包丁をふるうと、私の腕からドクドクと血が滴れ落ちる。
『美味しそう』
私は微笑みながら、僕の生きる味を堪能する為に、舌を滑らせ、貪る。
動物のように――
私の依頼人から久しぶりに連絡があった。彼女と会わしてほしいとの事だった。調教が上手くいった状況を隠しながら、彼を呼び出した。
予め、彼女には考えて言葉を選ぶようにと忠告した。自分のものにする為に魅力的に映るようにと。
『岬』
「久しぶりだね」
彼の前にいるのは満面の笑みで、色香を漂わす彼女の姿。
裏があるからこそ表が輝く。
だから両方を上手くつかいながら、生きる快楽を楽しめばいい。
お腹が空いたら、いつでも私の血を欲すればいいのだから
――どんな形でもいい、生きてほしい。
「君達の願いはかなえたよ。これで満足?」
成長すればするほど、彼女は当たり前の生活が物足りなくなるだろう。
その為に、この世界がある。
自殺願望者を再生させる事の出来る闇が生きているのだから――
生きてくれればいい、その方が楽しいから。