仕事と趣味
彼は真剣な目で私を見て、言葉を綴る。
『どんな形でもいい――彼女に生きる希望を与えてくれないか』
いつもの私なら、この仕事を受ける事はなかっただろう。境遇を聞いたからからじゃない、私個人の趣味が勝った。
「どんな形になってもいいのかい?」
『ああ、生きてさえすれば』
「君は後悔しないの?」
『最後の蔦なんだ。お前しかいない』
「……そう」
どんな形でもいい、か。なら私のやり方で彼女の思考を変えていこう。面白いおもちゃが手に入った瞬間だった。
バタンとドアを閉めると、目先には項垂れる彼女の姿が目に映る。
媚薬が効いているのだろう。身体を動かすと、全身に快楽が巡るから、制止しておくのが一番と言った訳か。
「遅くなったね、君の大切な彼に付き合わされてね、散々だったよ」
私の声に反応するように、視線が絡まる。
「動かすのも苦痛だろう?いいのかい、そんなに動かして」
忠告をする自分が壊れていると感じた。私は見たいのだ。彼女が身体を動かすたびに、快楽に襲われていく瞬間を。
『あぁ……』
「だから言ったじゃないか」
夢の中にいる彼女を現実へと引き返そうと、近づいていく。鍵を外し、囚われの身になっている極楽へと足を滑らせるのだ。
「どんな形でもいい……生きてれば」
彼が最初に言った言葉を思い出しながら、復唱する。まるで自分が彼を演じている錯覚に陥ってしまうそうだ。
「……おいで、岬」
『……』
「それとも逃げるのかい?君が望んでいる事なのに」
そう告げると、観念したように、みだらな声をあげながら、私に近づいてくる。一歩、また一歩と。
「いい子だ」
『……』
「教えてあげるよ、君がこれからどうするかを」
『え?』
「永遠にかごの鳥になるつもりかい?そんなんじゃ彼を手に入れる事は出来ないよ?」
『……な、んで』
なんで自分の気持ちを知っているのか、と言いたいのかな?
彼と君を見ていたら、そう理解するのに時間はかからないだろうね。
「君は知らなくていい事だよ、それよりどう?気持ちいいでしょう」
『わ…から、ない』
「それが全てだよ。次第に慣れていく」
君が道化師になるのもね――
彼は嫌がっている、それだけはやめてくれと。でも最初にどんな形でも生きていればいいとも言った。闇に憧れを持つ少女は、これから成熟して、色香を纏う。
私達の世界では唯一、欠かせない存在になるだろう。
仲間を増やす気なんてない。このミッションと私の気まぐれで成り立つ仕事だから。立ち回りは仲間を増やすよりも、一人で立ち回った方が効率もいい。
尻尾は誰にも掴ませるつもりなんか更々ないね。
「死ぬ事よりも生きる快楽を知ってしまえば、君は自分が何をすべきかを理解するだろう……今は無理でも、いつかね」