店主
人をつぶす為には最低10年の時間が必要だ。しかし今回は違う。私の事を憧れているからこそ、潰しやすい。
本来の私ならまず土台から作るだろう。岬はまだ幼く、蜜の味を覚えさせる事が可能な年齢だ。
私は強引にキスをしながら、彼女が媚薬を飲み込むように導いていく。
特殊な薬でね、幻覚と快楽を見せてくれる魔法の薬。私と彼は媚薬に近い存在から、そう呼んでいる。
いつまで考える事が出来るのか楽しみ。
くくくっ、とのどで笑うと、彼女は観念したように、飲み込んでいく。
飲み込んだ事を確認し、唇を離す。
「いい子だ」
『ゲホゲホっ』
「私の見ている世界を見たがってたのは岬じゃないか」
『つっ』
「そんな顔をするな、大丈夫だ。すぐ落ちる」
即効性のある薬は喉を通り、胃の中へと侵入していく。胃液で溶けていき、次第に全身に回っていく。まるで毒蛇の猛毒のように――
閉じていた瞼を開けると、そこには彼と店主の姿がある。ここは同業者が集まる酒屋。ストレス解消の為に店主がくつろぐ場として提供している、私達『道化師』のもう一つの居場所でもある。
『お連れの方はつぶれましたか』
「そうだね、殆ど酒を呑まない奴が無理をするからだよ」
『……何かありましたか?』
この世界で生きているからこそ、私達の考えや行動で色々な予測をたてているのだろう。私に聞いてくるという事は興味がある証拠。
「たいした事ではないね」
『貴方のやり方についていけないと言った感じに見えました』
「だろうね。私には関係ないけど」
『冷たいですね、パートナーでしょう』
「まだまだだね」
私は店主と雑談をしながら、彼をあの店に預けてきた。潰れて、寝てしまった奴には興味がない。それに今、彼の傍にいると、うまい酒がまずくなる、だからいい気分の中で一人で帰るんだ。
私の花園にね。
夜風は頬のほてりを覚まさせ、彼女を繋いでいる牢獄へと足を向かわす。
『貴方は面白い人だ、この仕事がなりたつのも、貴方のお陰なのですから』
店主の言葉を思い出しながら、フラリと風に乗り、消えていく。
「変な奴」