ターゲット
香しい匂いの中で朽ちるのは私の姿かもしれない。
『またお前は……』
睡眠薬を大量に飲んで微睡んでいる私の姿を見て、奴が溜息を吐く。まるで毒を孕んでいる彼を見つめながら、狂ったように笑い続ける自分の姿が鏡へと映り込む。
「ふふっ……そんな顔するなよ。私は楽しんでいるんだ」
『狂ってる……』
「その何が悪いんだ?」
私は狂っている訳ではない。ただ崩壊しているだけ、壊れているだけだ。自ら望んで落ちた現実は美しく、いつまでも続く迷路のように身体を包み込んでいる。
「そんな事より、話があったんじゃないのか?」
タバコの煙が充満している中で私達の目が合わさる。
まるで共犯者――
『……次のターゲットの事だ』
「だろうね。そうだと思ってた」
『しかし』
「……そんな状態で仕事が出来るのか?と言いたいのだろう?」
『ああ』
「ははっ。今まで私がしくじった事があるか?ないだろう」
『ああ』
「今だけはこの快楽を楽しませてくれよ」
私は机の上に置いている炭酸水のボトルに手をかける。キャップを外すと錠剤を放り込んだ。
『まだ飲む気か』
「お前に関係はないね、そこまで干渉される理由ないだろうが」
私は私のやりたいようにやる。例え全てが消えてしまっても、それもそれで一つの快楽の形なのだから。そうやって自分を追い詰めて、壊していく楽しさから逃げる事は出来ない。
だから私は同じ事を繰り返す。それが唯一の生きる意味でもあるのだから。
「へぇ」
奴が用意してきた資料に目を通す。今回のターゲットは女だ。
「女子高生か」
若いのに、ここまで落ちているのかと思うと、微笑んでしまう。愛しい愛玩具へと注ぐ感情と同じものを。
「まだ若いのに、命を軽んじているな」
『お前も変わらないだろう』
奴はそう言葉を吐くと、呆れたような表情で私を見つめてくる。瞳の奥には闇が広がっていて、どれだけ演じようとも隠そうとも、私と同類だと言う事実がそこにはある。
「私は違うね。その先の美しさを知っているからさ。でもこのターゲットは違う。まだその快楽の先に何があるのか分かってないだろう。生きる世界が違うしな」
『お前が言うと説得力があるな』
私はその言葉が嬉しくて、微笑んでしまう。
「光栄だ」
全ては崩壊へと繋がる隠し道。
そして私はその先を進む存在
「お前は生かしたいのか」
聞くまでもないが、確認をしないと私の仕事に支障をきたす。
『ああ』
「笑えるね。自分じゃ助けれないから、私に投げるのだろう?」
『……』
図星なのか無言になる奴は、悔しそうに苦虫を噛む。
「私はどちらでもいい。でも楽しめそうな案件だ」
『……なら』
「楽しませてもらうよ」
ターゲットを生かすも潰すのも私次第。
その為の仕事なのだから――