流れ出る血と笑い声
この傷跡は永遠に背負うものになるだろう。悲しみは闇を生み、憎しみにかわっていく。黒い霧に包まれたように別人となり、偽りの姿を選んだ。
私の本当の姿を見抜く人間は殆どいないだろう。ある人物を除けは、ほぼゼロに近い。
『いつまでそうしているつもりだ?』
「黙れ。お前に気にされるゆわれはない」
包丁を持ちながら自分の腕」を切り裂く。見せつけるように、楽しんでいるように、小さな傷を複数つけていく。ぷっくりと浮かび上がった傷からはゆっくりと血が流れ、美しさに瞳を潤めていた。
「美しいだろう。人間は醜く、汚いが流れる血は美しい」
『……いい加減に』
「偽善はいらない。お前は所詮、誰も助ける事なんて出来ないのだから。それとも私を救おうと言うのか?」
『……』
「何も言えない弱者だな。だが、それが賢明だ。口にしたところで綺麗ごとにしか聞こえないしな」
生きている実感なんてなかった。私を上手く使ってくれた彼がいなくなった今、誰も私を救うなんて不可能だろう。
──だからこそ楽しい。
狂ってしまった価値観は簡単には捨てれない。それにすがりつく事で自分の心を守るしか方法を知らなかったのだからな。
『俺は……』
続きの言葉は出てこない、いくら時間をかけて考えたとしてもそれは薄っぺらい。
「お前は私の苦しみ続ける姿を鑑賞していればいい。それだけしか出来ない」
人の気持ちなど知った事か。どんな人間でも最後は自分を選ぶのだから。助ける自信や覚悟がないのなら、何もしてほしくないからな。
私は奴を見下すように鼻で笑うと、右手首から流れる血をペロリとなめとった。いつもの癖だ。唯一、生きている実感を得られる瞬間と言ってもいい。他者から見る光景は奇怪だろうが、これが私だから仕方ない。
理解出来ない奴らに理解してもらおうとも思わない。
キツネの目のように怪しく微笑みながらすれ違う。横目で奴を確認すると何も出来ない自分の無力さがにじみ出て」いて、余計愚かに感じてしまう。
私を理解するのは私だけでいい。もう二度と誰にも心を開く事はないだろう。
「楽しくなりそうだ」
私の言葉は風に流され消えてしまう。それを楽しんでいる自分がいて、笑えてしまう。
笑いを堪えながら、その場をあとにすると、私の大好きな闇がより深く受け入れてくれる。この高揚感たまらず、小さく笑うと静寂だけが残った。