アステムと共に再び
私は古黒龍 ヴェンデル。
このヴェンデルという名は我が友アステムによって名付けられたものだ。
私が人間という種族に初めて会ったのがアステムだった。アステムと初めて会ったのはアステムが私の寝床に迷い込んだ時だ。その時、私は軽くあしらって追い払おうとした。だが戦ってみると中々に強い。尻尾でぶっ飛ばしたくらいでは死ななかった。
聞くと人間の中でも強力な個体「勇者」という存在らしい。そして話をする内に面白い奴だとわかった。また変な奴だとも。
この私の寝床がある場所ーー雪山の洞窟まで来たのは伝説の魔剣を探しに来たためらしい。そのために聖王国グランセルからいくつかの山を越えこの雪山の洞窟までやって来たと。他の龍から伝え聞く人間というものからは大きくかけ離れている奴だった。
そして、私の集めた宝物の1つである魔剣を指差してこれを譲ってくれと言う。
バカな事を言う奴だ。当然だが私は断った。だが引き下がるので「海底神殿にある伝説の巨大パールと交換だ。」と無茶振りをした。
「よし! わかった! それまでその魔剣は誰にも譲るなよ!」
言われなくても誰にも譲らない。俺が集めた (配下の竜達に集めさせた)大事な宝物の1つだ。そしてアステムはこの雪山から去って行った。
いや、去る前に私の名前を聞かれたのだった。私は古黒龍だと答えたら、「いやそれは種族名だろう、個体名の方だ」と言われた。「俺の名前はアステムだ」とも。
私は個体名なぞ持ってなかったが面白そうなのでアステムにつけてもらった。「ヴェンデル」という名だ。
ヴェンデルか。中々悪くない響きではないか。これからは配下にもヴェンデルと呼ばせよう。
その後、アステムが去ってからはまた日常が戻った。いつものように勝手に私を崇めて勝手に私に貢物をするワイバーンがいるだけになった。
そしてさらに月日が経ちアステムの事を思い出さなくなった頃、奴は再び現れた。背中に自分の背の倍以上もあるパールを背負って。奴は私を見つけると笑顔で言い放った。
「さあ、これで魔剣を貰えるか?」
アステムは本当に面白い奴だった。
そこからはこいつと行動を共にするようになった。奴が魔剣を欲したのは「次元の狭間」から現れる「世界を壊す者」を倒す為。なぜそんな事をお前がするのか? と聞くと、さあ? 俺が勇者だからじゃないか? と答える。他人事のように話すアステムはやはりバカなのだろう。
そんな奴を背中に乗せて飛ぶ事を厭わない私も。そして「世界を壊す者」との闘いは激しいものであった。アステムの仲間は何人も死んだが俺達は勝利することが出来た。
そして全てを済ませた後は私とアステムは別れた。特にアステムとは話さなかったが自然とそうなった。私には龍としての生活、奴には人間としての生活がある。本来は相容れない関係なのだから。
また会う事は無いだろうと思っていたが再び奴と再会した。しかし1人ではなくローブを被った変な集団と一緒に。
アステムが言う。
今日はヴェンデルを討伐しに来たと。
変な奴ではあったがまた今日は変な事を言う。
アステムはかなり手加減した攻撃を私に仕掛けて来た。そして私に密着した状態で言う。
「ヴェンデル。このまま俺を喰い殺せ。そうすればお前は勇者でも倒せない存在となるのだから。」
アステムはまたよくわからない事を言った。お前を殺せるわけがない。だが、そう思っているとローブの集団が魔法を唱え始めた。集団魔法だ。
その魔法は封印魔法だった。私をこの場所に縛る魔法だ。そしてその魔法が使われるとアステムはその集団に「やめろ!」と叫ぶ。
だが時すでに遅く私はこの地に縛られた。魔法効力の高い鱗を持つ私に効く魔法だと。
アステムはその集団に抗議に行ったが、ローブの集団に囲まれて……。
集中攻撃を食らってアステムは殺された。
そこから先はよく覚えていないがとにかく私はこの地から遠くには行けないし人間への強い憎しみが残った。気まぐれにアステムの墓という物を作ってみた。それを見ると不思議と心が少し安らぐ。だが少しだけだ。
私は人間への復讐を為さねばならない。我が友アステムを罠にかけて殺すような下衆の種族には。
そして数百年が経った頃、1匹のワイバーンから近くの盆地に街が出来ているという報告があった。こんな所に街などと。調子に乗った人間にはやはり鉄槌を下さねばならない。
ー
今、私は瀕死の状態で地に伏せている。アステムよりも格段に強い人間の手によって。
この男には私の持つ様々な魔法が効かない上、動きは私の目では追えない程速い。そして私の硬い皮膚は紫色に光る刀によって簡単に貫かれた。こいつは勇者ではなく改造強化人間といったか。だがそんな事はどうでも良い。私はおそらくもうすぐ死ぬのだろう。だがこのアステムの墓の側で死ぬのは悪くない。
「ほう。その墓は主はアステムというのか。しかも……人間か。」
そうだ。我が友アステムだ。だがお前には関係なかろう。私はアステムと共に逝く。そこの宝はいくらでも持っていけ。だからこのまま逝かせてくれないか。
「断る。お前を我が帝国の構成員とする。だが……お前の希望は叶えてやろう。では眠れ。睡眠」
私はその後、意識を失った。
そして夢を見た。
アステムと一緒にいる夢だ。
いや、これは夢ではなく死後の世界というものだろう。私はもう死んでいるはずだから。久しぶりに会うアステムは少しバツの悪そうな顔をしている。
全く。お前は本当に騙されやすい性格をしている。あの時はちゃんと周りの者と相談したか? 1人で突っ走っていないか? お前は本当にしょうがない奴だよ。やはりお前は……。
だが、その世界も終わりを告げる。
その後、俺は目を覚ました。
ここはどこだ? 見慣れない変な場所。
と、俺は1人の男に声をかけられた。
俺を倒したあの白銀の鎧を身につけた男だ。
「気分はどうかな? ヴェンデルよ。」
気分は悪くない。だが体の感覚がおかしい。
俺の体は……
俺……? 私……?
いやそんな事よりも。
俺は人間の体になっていた。
そしてその体は……
アステムのものであった。
俺はアステムになったようだ。
「お前を改造した。アステムの体を素体としてな。これでアステムとずっと一緒だ。今までで1番大変な改造であったぞ。」
「まったく。ヴァイスはとんでもない事を考えるねえ。」
隣にいた金髪の若い人間の女が言う。
「ふふっ。私は構成員となる者の希望は叶える方だ。お前もそうであったろう。」
「まあね。でも多少ズレてるけどね。」
「ふむ。そうなのか?」
「そうだよ。」
俺は目の前の白銀の鎧を着た者をまじまじと見る。こいつはとんでもない事を考える輩のようだ。
だが、この体は悪くない。
そしてアステムが喋っているような気がした。
(また、一緒になったな。 ヴェンデル。)
ああ。お前と冒険した日々は忘れた事が無かったよ。アステム。
(俺もだよ。また冒険の旅に出ようぜ。久しぶりにさ。)
それも悪くないなアステムよ。お前との旅はいつも波乱万丈だったがな。
あの時は言えなかったが俺はやはりお前と一緒が良いよ。