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9 仮面舞踏会

 ドレスは、一応一人で着られるような形状のものだった。

 コルセットをつけないドレスに代わって久しく、昔のようにごてごてとしたものが少ない。ただそれでも、田舎から出てきたウルスラにとってはハードルが高かった。


 赤と黒の派手なドレスはスカートの上に柔らかいチュールが何枚も重ねられている。うっかり踏めば、すぐに破けてしまいそうだ。デコルテがむき出しなうえに背中も大きく開いており、どう考えても十六の小娘が着るようなデザインではない。もっと年上の色香が漂う女性向きだ。

 かといって、これ以外のドレスを持っていないのだから着るしかない。一緒に入っていたビスチェを身に着けてからドレスを着る。いつもより二割り増しくらいで胸が大きく見える。仮面をつければ、ウルスラの本来の甘さが完全に消え、見られないこともなくなった。背を高く見せるピンヒールが地味にきつい。

 コツコツとガラスをたたき、ナハトが入ってくる。いつもは黒一色なのに、今日は指し色で赤が入っている。ぴしりと着こなした燕尾服が似合っていた。


「うん、よく似合っている」

「これ、なんでサイズがぴったりなんですか?」


 ウルスラは姿見に映る自分を見ておののいた。まるで採寸したかのようにウルスラの体格にあっている。ウルスラは標準よりも背が低く、胸のあたりに肉が多い。体操服ならまだしも、制服や体のラインが出るものは既成の服ではまず間に合わない。


「学園の制服の採寸を調べるくらい、朝飯前だよ」


 思ったよりもしっかりとした答えで、ウルスラは安心した。見た目だけでサイズがわかるとかだったら、たまったものじゃない。


「もちろん微調整はしてあるけど。進級時よりも、やせた?」


 ナハトの発言に、頬に熱が集まる。そういえば最近、スカートが緩くなった気がしていた。


「トレーニングの成果です!」

「いいことじゃないか。ただ、私の好みとしてはもう少し肉付きがよくてもいいかな」

「ナハトの意見なんてどうでもいいです。それよりも、化粧と髪形どうするんですか? 私はできませんよ」


 ウルスラは決して不器用ではないが、髪を結いあげるのは苦手だった。化粧については経験がないからどうすればいいのか全く分からない。


「それはもちろん私が」


 そういってナハトは鏡台の前にウルスラを座らせる。まるで魔法のように化粧が施され、髪が編まれていった。濃い目のメイクは、普段は甘いウルスラの顔をきつめの美少女に仕上げている。ストレートのまとまりにくい髪は、うまくサイドに流され、コサージュで派手に盛り付けられていた。

 最後に先ほどつけていた仮面をもう一度つける。ウルスラとは別の少女がそこにいた。

 ウルスラは息をのむ。

 鏡に映っていたのは、前世のウルスラにそっくりの婦人だった。意志の強そうな目に、自信満々の唇。赤い髪に金の目であれば、完璧に紅の魔王だ。


「うん、キレイだ。似合っているよ」


 満足そうにウルスラに声をかけ、ナハトは手を差し出した。ウルスラはその手を取る。


「ちょっと待ってください。ここからどうやって外に出るんですか?」


 今更、ウルスラはこの状態では寮から出られないことに気づく。


「まあ見てて」


 ぱちんと指を鳴らせば、風が起きる。相変わらず魔法陣のない、でたらめな魔法だ。

 気が付けば、ウルスラは車の中にいた。隣ではナハトがほほ笑んでいる。珍しく手袋のない手が、レースの手袋をはめたウルスラの手を握っていた。手のひらに熱が集まる。

 黒い飾り羽のついた仮面越しに、ナハトはにっこりと笑った。ウルスラは引きつった笑いを返す。


「いつも思いますけど、ナハトのその魔法って何なんですか? 常識外れもいいとこです」

「君の魔法もかなりでたらめだけどね。私の場合は、そうだな、魔族だからかな」


 本気とも冗談を持つかない言葉に、ウルスラは目を瞬かせる。

 なるほど、とすごく納得した。ナハトに対して警戒心を抱けないのは、彼が魔族だからか。ウルスラにとっては仲間だから、彼を警察に売り飛ばす気になれないのだ。

 うんうんと頷くウルスラを見て、ナハトは焦ったようにウルスラを見た。


「いや、本気にされると困るんだが?」

「そうですね、人間に魔族だとばれると困りますものね。でも安心してください。ナハトが魔族なら、私は魔王です」


 ウルスラも冗談とも本気ともとれる口調で返す。

 ナハトはなるほど、といって座席に背を預けた。


「魔王ならあの変則的な魔法陣もあり得るかもな」

「今日は、魔王とその従者がお忍びで仮面舞踏会に参加するということで」

「ではクイーン、このバレットめが命を懸けてお守りすることを誓いましょう」


 ナハトは手袋越しの指に、キスをする。そして緩やかに、車が会場に到着した。





 初めての舞踏会は、目が眩むほど煌びやかで妖しかった。

 豪奢なドレスに派手な仮面、まばゆいダンスフロアに、控えの間の豪勢な食事。すべてに現実味がない。

 天井にぶら下がるシャンデリアが魔法の光を反して幾筋もの光の道を床に落としていた。

 到着してさっそく出されたワインに手を伸ばそうとすれば、ナハトはそれをさえぎる。

 せっかく初めてアルコールを飲む機会だったのに、とウルスラは無言でナハトを睨みつけた。


「まずはダンスだろう。ワインを飲めば目が回る」

「踊れませんよ」

「私がフォローするから」


 そう言ったかと思うと、強引にウルスラをダンスフロアに連れ出す。いつの間にか、ダンスのポジションをとっており、テンポの速い曲に合わせて真ん中へ躍り出る。

 体はナハトに密着し、ほとんど腕一本で支えられている。比喩ではなく、地に足がつかない。くるくると回る。やっと足が床についたかと思うと、今度はぐっと背中が反らされる。景色が反転するが、不思議なことに倒れない。ナハトのホールドがしっかししているのだ。腕を引かれ、体勢が元に戻る。ウルスラ自身の筋力は全く使っていないし、動かしていないのに体が勝手に動く。


 魔法陣のない魔法をまた使っているのか。だが、魔法がかけられた気配もない。もうやけくそだと、開き直ってそのまま完全に体を預ける。曲のスピードがアップした。

 ナハトはそれについていく。同じパターンの繰り返しだが、徐々にスピードが速くなっていく。曲の速さについていけなくなった男女が、一組二組と脱落していく。

 最後には、楽団とナハトの一騎打ちになっていた。ウルスラもなにがなんだかわからなくなる。振り落とされないようにと、しがみつかなかった自分をほめたい。


 最後にジャン! と大きくシンバルが鳴った。それが曲の終了の合図だった。割れんばかりの拍手が響く。

 ナハトがやさしく、ウルスラを地面に下ろした。

 ウルスラは肩で大きく息をしながら、スカートの裾をつまんで礼をする。拍手がさらに強くなる。高揚感に包まれ、ウルスラは肺いっぱいに息を吸い込んだ。

 向きを変え、もう一度礼をする。先ほどよりももっと優雅に。授業の一環としてバルドリックに仕込まれていた礼は、少しは様になっていた。いろんな筋肉を使うからマスターしろといわれていたことに、少しだけ感謝する。


 拍手が収まったころ、息一つ乱していないナハトは、ウルスラの手を引いてダンスフロアから立ち去った。

 部屋から出るまでに、何人もの男性が声をかけてきたが、それをナハトが跳ねのける。正直もう踊れそうになかったのでありがたかった。ダンスフロアを出て、食事がサーブされている控えの間の横も通り過ぎる。

 人が大勢いる場所から別棟にわたる際、ナハトは使用人から鍵らしきものを受け取った。さすがにウルスラはおかしいことに気が付いた。


「どこに行くんですか?」

「疲れているだろう? 休憩に」


 受け取った鍵をウルスラに見せながらちゃらちゃらと鳴らす。

 鍵についている部屋番号を確認し、ナハトとウルスラは入る。確かに休憩室のようだ、と大きめのベッドと置いてある応接セット見てウルスラは思った。


「汗がべたついて気になるようなら、隣にシャワー室があるから使うといい。バスローブはクローゼットに」


 一刻も早く靴を脱ぎ捨てたかったウルスラは、裸足になりながら眉をひそめた。さすがのウルスラも、今がどういう状況なのかはわかる。


「鍵は君に渡しておくとしよう。休憩時間は一時間ほどでいいかな? 迎えに来るから休んでいるといい。私が出たら、ちゃんと鍵をかけることは忘れないように、不埒な輩がどこにいるかわからないから」


 そういうと、ナハトは本当に部屋から出て行った。期待していたわけではないが、拍子抜けする。

 ウルスラは立ち去るナハトの背中を見送っていたが、廊下の反対側から歩いてくる一人の男を見て、慌てて扉を閉めた。そしてしっかり施錠する。

 先ほどダンスの時、ナハトが断ったにもかかわらずしつこくウルスラを誘ってきた男だ。このエリアにいながら一人で入る男など怪しいにもほどがある。

 念のためソファを扉前に移動してから、しっとりと濡れているドレスを脱ぐ。それからクローゼットからバスローブを出してシャワーを浴びた。頭も汗をかいていたのでせっかくの髪をほどき、化粧も落とす。備え付けの石鹸は驚くほどよく落ちる癖に、肌がしっとりとした。


 さっぱりした状態で部屋に戻る。やることはもうなくなってしまったが、ナハトが戻ってくるまでまだ時間がある。どうやって時間をつぶそうかなと考えるうちに、あくびが一つ出る。

 ウルスラは放置していたドレスをハンガーにかけて、フックに釣った。姿見に映るウルスラの髪はストロベリーブロンドで、子どものうちはいいが、ある程度の年齢になると子どもっぽい。メイクを落としきってしまうと、輪をかけて甘くなる。もう少し、色っぽさが欲しいのだけど、と思いながらベッドの上に転がった。


 先ほどのダンスは、ナハトの力に頼り切ったものだけどすごく楽しかった。少しは背筋が伸びていただろうか。少しは指先がきれいに動いていただろうか。いずれは、自分の力であれほど上手にうまくなれるだろうか。

 そんなことを考えながら、重くなってきた瞼を閉じた。






 ベッドに体重がかかる感覚で、ウルスラの意識は覚醒した。

 上質なベッドは軋まない。が、誰かが乗ればそこは沈むわけで、その変化がウルスラの体に伝わってくる。

 暗闇の中で目を開けたウルスラは、体を硬直させる。つい寝入ってしまったが、眠る前は部屋の電気がついていたはずだ。何より、部屋の中に気配があるというのはどういうことだ。しかもベッドの上にいる。

 鍵はかけたはずだ。だが、窓はどうだったか。ここは五階だしと、確認はしていない。

 ウルスラの脳裏にちらついたのは、先ほど廊下を一人で歩いていた男だ。いやな笑みを浮かべていた。もしかしてあの男が部屋に入ってきたのだろうか。

 ウルスラは息を詰めながら、手探りでベッドの上を探った。手に触れたのは枕だ。武器にはならないが、素手よりはましだろうか。音をたてないように胸元まで引き寄せる。

 黒い影が、ウルスラの顔を覗き込んだ。ウルスラはいきなり体を起こし、枕を思いきり投げつけようとした。投げる前に腕をつかまれる。


「……なんだ枕か」


 聞き覚えのある声がウルスラの耳に届いた。え? と混乱するウルスラを落ち着かせるように、部屋の明かりがともる。羽根つきの仮面からいつもの仮面に戻ったナハトが、ウルスラの手から枕を奪った。


「ナハト、なんでここに?」

「そりゃあ、約束の一時間がたったから」


 ウルスラの質問に、ナハトはこともなげに答える。


「鍵は?」


 扉の方を見れば、バリケードにしていたソファが元の位置に戻されている。テーブルの上には何種類かのデザートが用意されていた。


「君は私をだれだと思っているんだ?」


 そうだこいつは怪盗なのだ。鍵がかかっていても意味がない。


「それよりも、服の乱れを治したほうがいい。私は役得だけど」


 そういわれて、ウルスラは自分を見下ろす。バスローブが乱れていた。決定的な部分は見えていないが、羞恥するには十分な露出だ。耳まで真っ赤にして、ウルスラはバスローブの前合わせを直す。


「どうせもう、ドレスを着る気はないだろう? これを」


 そういってナハトがウルスラに渡したのは、淡い水色のワンピースが入った紙袋だった。髪飾りや靴も合わせて入っている。ついでに下着も。

 さらに首まで真っ赤にして、ウルスラは立ち上がった。シャワー室に向かう。

 脱衣所で手早く着替え、ナハトの前まで戻る。悔しいがワンピースのサイズもぴったりだ。靴も踵が低くしてあり、履きやすい。


「ありがとうございます。ドレスは無理でも、こちらは洗って返します」


 ドレスの洗濯方法は分からないから、処理はナハトに任せた方がいいだろう。今ウルスラが着ているものも、素材は絹と上質で、できれば扱いたくはないがクラスメイトの誰かに聞けば洗えそうだ。


「いや、それは君にあげたものだから、返されると私が困る。もちろん盗品ではないよ」


 それはそうだろ。このワンピースだってウルスラにぴったりだ。仕立てなくてはできないサイズだ。


「わかりました。受け取ります。でもこれきりにしてください」

「ところで、さっき私に枕を投げ投げつけようとした理由だけど」


 ウルスラをソファに座らせ、自分はその向かいに座ってナハトは聞いた。


「さっき、私たちをつけてきているような男がいたので、部屋に侵入したのかと。自意識が強いと笑ってくれて構いません」

「ソファでバリケードまで作っていたのに、不安だった?」

「寝起きって頭が働きませんよね」


 言い訳にすらなっていなかったが、保身のため述べておく。


「客人が一人、捕まったようではあるけどね。初めは君のことを襲おうとしていたようだけど、別の客人ともめ事を起こして警察隊に突き付けられていた」


 いつもの甘い笑みではなく、真面目な顔で言う。ウルスラの背中を冷たい汗が滑り落ちた。


「バリケード築いておいて正解」


 ナハトはテーブルの上にあったフォークを手に取った。イチゴのケーキを一口分、フォークに刺す。そしてウルスラの口元に差し出した。


「はい、口を開けて」

「……どういうつもりです?」

「確かに一歩間違えれば大事になったけど、こうして無事なんだし。難しいことは考えずに甘いものを食べて気分を変えよう」


 にっこりと笑って、フォークに刺さったケーキを揺らす。たぶん、口を開くまでひかないだろう。

 ウルスラは覚悟を決めて、口を開けた。食む。


「おいしい」


 クリームもスポンジも、口に入れた瞬間に溶けた。そのくせ、濃厚な味とイチゴの酸味はいつまでも口の中に漂っている。


「だろ?」


 幸せそうな顔になり、ナハトは残りのケーキもウルスラの口に運んだ。一個食べても、胸やけがしない。


「私にも何か食べさせてくれないか?」


 ナハトはずいぶん難易度の高いことを要求する。ウルスラの頬が熱を持つ。だが根負けして、ウルスラはチョコケーキの皿を手に取った。切り分けて口に運ぼうとするが、ナハトの口元には届かない。

 ウルスラとナハトの腕の長さが違うのだ。当然彼は届いてもウルスラでは届かない。ナハトはにやにやと笑いながらウルスラの行動を待っている。ウルスラは立ち上がり、ナハトの隣に座った。体温を感じるほどに、近い。


「どうぞ」


 半ばやけになって、ケーキをナハトの口に運ぶ。ナハトはそれを食べた。


「うん、おいしい。君も食べるといいよ」


 そういって二口目を運ぼうとしたウルスラの手を包み込んだ。暖かな手の感触に、ウルスラの鼓動が早くなる。ナハトはそのまま、ウルスラの口にケーキを運んだ。チョコケーキも嫌いではない、むしろ好物なウルスラはぱくりと食べる。


「おいしい」

「そういってもらえると、手配した甲斐があるよ」

「いつも、こんなことをしているんですか」


 気持ちのいいダンスを踊って、おいしいスイーツを手配して。女性の扱いがとてもうまいから、仮面をつけていないナハトもさぞかしモテるだろう。


「普段はしないな」

「と、毎回言うんでしょうね」

「言ってないが、その証明は難しいな。君が信じたいか信じたくないかにかかっている」


 とてもずるい言い方だ。それならまだ、ウルスラが初めてだ、信じてくれといってくれた方が救いようもある。ウルスラも恋愛に興味はあるが、溺れきってしまいたくはない。


「ナハトが私にここまでするのって、何か理由がありますよね」


 できるだけ心を悟られないように、ウルスラは表情を殺して言う。


「君に惚れたからという理由では納得いかない?」

「いきません。人はそう簡単に他人を好きになれないでしょう?」


 今まさに落ちようとしている自分が言うべき言葉ではないが、それぐらいは強がりたい。


「なるほど、君はまだ恋をしたことがないと見える。恋に落ちるのは一瞬だよ。理屈でもなく、論理的でもなく、会った瞬間に本能が求める。とても情熱的なものだ」

「その本能で行くのなら、ナハトは私に恋はしていないでしょう?」


 ウルスラに甘くしてはくれるが、情熱は感じない。とても穏やかに見守られている感じだ。ウルスラにとっては、その視線がとても居心地がいいのだけど。同時に、もやもやもする。


「……正解。やっぱり女性って言うのは勘が鋭いね」


 諦めたように、ナハトは肩をすくめた。


「それで? 私の何を利用したいんですか? といっても、心当たりは二つしか思いつきませんが」

「ふたつ?」

「治癒能力。そしてバルドリック殿下の動向を探ること」

「前者は正解、後者は違う。バルドリックには必要以上にかかわらなくていい。君には、治癒の力で私に協力してほしい。ただし、今のままで十分だとは思わないでほしい。君には、遠隔で治癒魔法を使ってほしいんだ」


 いきなり難しいことを言ってくるナハトに、もやもやしていた感情が吹き飛ぶ。


「それ、できたら面白いですけど、そんな魔法は聞いたことがありませんよ?」


 ウルスラは身を乗り出し気味に確認した。


「攻撃魔法は基本的に飛ばすだろ? その要領で」

「攻撃魔法ですか……全く使えないので今まで放置してましたけど、応用すれば確かにいけるかも」


 もともと魔法の研究をするのは好きだ。だから変則性魔法陣などという、ウルスラにしか使えないような魔法陣が出来上がった。

 ウルスラとナハトは治癒魔法の遠隔操作について議論した。机の上のスイーツは全部消え、帰りの車の中でも白熱する。あっという間に寮に到着してしまう。空はいつの間にか暗かった。

 ほっそりとした月が地上を見下ろしている。

 ウルスラはもっと意見を交わしたかったが、ナハトにも都合がある。スーツの裾をつかもうとした手を、ウルスラは引っ込めてしまった。


「ではまた明日」


 別れ際、ナハトはウルスラのこめかみにキスを落とす。

 また明日、その言葉が今は、すごく嬉しかった。


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