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学舎の仲間

ツーロウの自宅と正反対の正門から学舎へと入りすぐ右側を見ると、硝子格子の引き戸が待ち構えていた。ガラスは波打っており、中が少々見え辛いが男たちの楽し気な話し声が聞こえ、良い匂いが鼻を通っていく。ここが食堂に違いなかった。


 ガラガラ、と大きな音を立て開けると、男たちが一斉に振り向く。扉にある人物を認めると皆笑顔になり空席へと招いた。


 生徒数が五十名ほどと少なく、食堂も広くはあるが大きいとは思えない。座学や実技の部屋も各一部屋と小さな学舎なのだが、この学舎に居る者はすべて優秀な男たちだった。マオルの祖父の代から続く学舎らしく、八年間武術について学ぶとツーロウは言う。毎年冬の終わりに入舎試験を行い、座学と実技の総合が高い者が学舎に入れるのだと、ツーロウは控えめに笑った。


 一人で教えられる人数も決まってくるため少人数となり、土地的にもあまり大きな学舎は造れず、こじんまりとした学舎となったのだ。


 毎年の試験には応募者で人が溢れかえり、生徒たちは一日かけて手伝いをすることを、しかしユラが知るはずもなかった。


 ツーロウとユラは区切られた机の一角に腰を下ろす。二つの長机が四角く置かれ、四、五人で向き合って食べる事が出来る。机と椅子は多めに設置されているところを見ると、来客用として使うのかもしれない、とユラはぼんやりと思考を巡らせた。


 ツーロウの隣には、好敵手だと話したノウラが座っていた。細い目で舐めるように見ることが癖のようで、ユラはそれだけは慣れなかった。


「ユラ、冷めない内に食べよう。」


 ツーロウはユラの分まで竹の皮を取り目の前へ差し出す。白い米とおかずらしき鶏肉、そして根菜の煮物が艶々と旨そうに照っている。ユラは礼を告げ、竹で作られた箸を取り肉を掴んだ。その鶏肉のなんと大きいことか。


 ユラが食べてきた鶏肉は近くで開かれる市で買った鶏肉で、量を多く見せるために細かく刻んでしまうのだ。味は好きなのだが、口の中の水分が奪われるのが難点だ、とユラはいつも思う。


 しかし、目の前の鶏肉は違う。肉の隙間には汁が溢れ、ひと切れがとても大きい。掴みやすいように細長く切り分けられているが、持ち上げれば両端が重みで弛む。口いっぱい開け一口食べれば、肉の旨味と塩味が噛むごとに溢れた。


 ユラが夢中で鶏肉と米を食べている様子を、ツーロウは穏やかに眺める。周りの男たちも、その食いっぷりに感化されたのか、勢いよく米を掻き込んだ。


「お嬢さんは良い食いっぷりだね。食べ慣れた弁当が、見た事もない旨そうな弁当に見えるよ。」


 ノウラは机に肘を打ち顔を支えながら、ユラを見下ろす。ツーロウも笑いながら首肯した。


「本当にな。さて、私も戴くかな。」


ツーロウも竹の箸を持ち直し、上品な手つきで肉と米を口に入れた。


 ユラは弁当に集中しながらも、辺りを観察する。武術を習う学舎と聞き、ユラは体躯のよい男衆が集まった場所だと錯覚していたのだが、意外にもそんなことはなかった。ノウラのように細身の者もいれば、ユラよりも背が小さそうな男もいる。不思議な集団だ、とユラは心の中で呟き箸を動かし続けた。


 ユラの後ろに座っていた青年が、背中を捻じ曲げてユラの肩を叩く。


「君、いくつ?」


 ごく短く刈り込んだ丸い頭に、声変わりし始めところどころ掠れた声を出す男は、ユラと同い年くらいの少年だった。


「十五です。」


 親近感が湧き、ユラは弁当を机に置き椅子ごと少年の方に向ける。ツーロウはノウラと話すことに真剣になり、気に留めなかった。パチン、と指を鳴らし、少年は愛嬌のある笑顔を見せた。


「やっぱりなー!なんとなく年が近そうだと思ったんだ。俺はコダ、次の年で十五になるんだ。よろしくな、ユラ!」


 コダは学舎の中でお調子者と見られているようで、同じ机で食べていた男らは、やれやれと肩を竦めて笑っている。


「コダお前、マオル師に馴れ馴れしく話しかけるなと注意されていただろう。ユラさんは、真の先導者さまなんだぞ。」


 コダの代わりに詫びるように、コダの奥に座っている男がユラに頭を下げた。ユラは皆が気遣ってくれていたことに初めて気付き、慌てて首を振った。


「そんな、大丈夫です。むしろ、地区の外の人と話すこと滅多にないから、嬉しいです。」


 ふと思い出し、コダに向かって負けないほどの笑みを見せる。


「こちらこそよろしくね、コダ。」


 二人で笑みを交わし、そこから堰を切ったかのように互いに質問を投げかける。先導者について聞かないように、と言われていたのか旅の事などは一切質問されず、出身地や田畑のこと、地区の違いなどを話し合い気付けば全員が同じ話題で盛り上がった。


 ユラは知らなかったのだが、この学舎は男らには大変有名な学舎で、遠い地区から寮に移り住み通う者までいる。マオルは階級問わず武術の才を持つ男たちを受け入れているのだ。学舎に入ることが出来れば将来の職を幅広く選べるため、武術に自信のある者は(こぞ)って試験を受けにくるのだという。


 コダも例外ではなく、ユラの地区よりさらに遠い二十四の地区からやってきていた。コダの隣に座る青年の話だと、ここにいる半分以上の者が、十一以降の地区からやってきたそうだ。


「俺の時はもう、学舎の一本向こうの角まで人が行列作ってて。試験合格の知らせが来た時は夢かと思ったぜ。」


 コダは後頭部で手を組み、夢見心地に空を見つめている。自身の試験の様子を見ているのか、他の青年も思いを馳せていた。いつから聞いていたのか、ノウラの声が降りかかる。


「まだまだ修行始まったばかりだろ、コダは。」


 ユラが振り向くと、二人は弁当を空にしのんびりと休憩の時間を楽しんでいた。へへへ、と人懐っこい笑顔をつくるコダ。


 まだ完食していない弁当を思い出したユラは机に向き直り、再び食べ始める。休憩が終わりそうだと気付き、コダも急いで残りの飯を掻き込んだ。


 次も実技を行うらしく、食べ終えた青年たちはばらばらに散った。ノウラも立ち上がり、ユラに視線を置く。


「ウォーリウという町は町の中心に大きな川が流れ小舟で移動する珍しい町だから、良かったら寄ってみたらいい。」


 いまだ慣れない面妖な笑みで伝えると、立ち上がり扉へと向かう。


「また練習に付き合ってくれよ、ノウラ。」


 ツーロウの呼びかけに片手で答え、ノウラはガラスの引き戸を開け実技の部屋へ向かって行った。

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