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瓶詰の地獄  作者: 灰色
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 ――――しばらくしたら、戻るつもりだった。


 相変わらず兄様は自分勝手で子供っぽくて、どうしようもない人。そんなの、今更だったから別に気にはしていなかった。最初からマイナスだったのだから、もうこれ以上下がり様が無いのだ。そういった意味では別に腹も立たないし、楽では有る。でも、また朝になったらヘラヘラ笑って、何事も無かったかの様に振る舞われるのは癪だったから、少し驚かせてやろうと思ったのだ。でも。


 (……あの兄様が、私が居ない位で驚くかな……)


『あっ、なーんだ。出て行っちゃったんだー。じゃあしょうがないねー。他の女の子をさがそーっと』


 ……みたいな風になりそうな気がする。何時だって自分が最優先で、自分だけが可愛いのだ、あの人は。私に執着しているのだって、私が一番自分にとって都合がいいから。多分、それだけ。……都合良く振る舞ってみせているのだから、当然だ。それが恋だとか、愛だとか思えたら、きっと幸せだったんだろう。彼も、私も。一時その思い込みに酔った事も有ったのだけれど、結局醒めてしまったし、冷めてしまった。相手を思い遣る事が愛だとするなら、私にも彼にもそんなものは無い。相手の幸せを願うなら、関係なんて最初から結ぶ筈が無いのだから。そもそも私は兄の事が好きじゃ無かった。狡猾で小心者でその癖プライドばかりが高くて、見た目だけ綺麗に取り繕った汚い人。そんな人間を好きになる人何て、居る訳が無い。居たとしたって、あの見た目と表面上の愛想の良さに釣られただけの騙され易い女ばかりだろう。……どう考えたって、あの本質を知った上で付き合うメリット何て、一つも無い所か、こちらが疲弊するだけだ。それでも私は彼に近付いた。妹という都合のいいサンドバックが居なくなって、不幸になった姿を、見てやりたかったからだ。……我ながら陰湿だと思う。十二年振りに会った彼は、本来の性格から随分と掛け離れたキャラクターを演じる様になっていた。あの優等生ぶった態度や口調も苛立ったけれど、ちょっとこれはわざとらし過ぎて気持ちが悪い。どうしてこんな演技をしているんだろう。逆に気になってしまって、私は兄と関わりを持つ様になった。もう子供では無かったし、大体どういう人間かも分かっていたから、大丈夫だろうと思ったのだ。……甘かった。演技の理由は直ぐに知れた。……本来の自分と掛け離れたキャラクターを作って他人と接していれば、其のキャラクターが嫌われたとしても本当の自分は傷付かなくて、済むから。しばらく会わない内に、兄は更に臆病で、薄弱な人間になっていた。そんな風になっても、他人を見下すのと嘘を吐く癖は相変わらずで。大人になっても彼は、変わっていなかった。いいや、より一層酷くなっていたのだろう。


 ――――――――だから、私を犯したりしたのだ。


 最初はヘラヘラ笑って。

「僕、ずっと彼女が居ないんだよね~。妹ちゃんが相手してくれればいいのに~」

 とか何とか言っていたから。ついイラッとして、逆に笑って言葉を返してしまったのだ。

「あら、其れは寂しいですわね。じゃあ、お相手しましょうか?」

 そんな事、する訳無い。兄妹であるという以前に、彼は昔から私に悪意を持っていたのだから。……其れにしたって、酷い冗談だけれど。まぁ、彼もきっと半分嫌がらせでそんな事を言っているのだろう。そう、考えていたのに。

「あぁ。いいんだ。じゃあ行こうか」

「…………はい?」

 手を、取られた。若しかして、冗談がまだ続いているのかな。ここで慌てたら、逆に物凄く笑われたりするんじゃないのかな。そんな風に考えてしまったものだから。私は流されるまま、車に乗ってしまったのだ。それで、まぁ、ファミレスにでも行くのかなと思っていたら、ホテルだった。ちょっと状況が飲み込めなかった。いやいやいやいや。待って待って待って。……落ち着いて私。入ったからって、そういうアレをするとは限らないじゃない? 安い上にお風呂が広くてカラオケが出来たりするから女子会で使ったりするとか聞くし? うん。そうだよ。若しかしたら物凄く眠くて寝たいだけかも

「あれ。シャワーは浴びなくていいの? まぁ別にいいけど」

 ウワ――――何だこの人何か慣れた事言いながらジャケットをさらっと脱ぎだしたぞウワァアアアアアアアアアアア!!!?? あぁ違う違う違う。落ち着こう私。落ち着くんだ私。まだ冗談の可能性は捨て切れないし……というか、しないよね? って、あれ? 下半身があれな事になってない? ……えっ。えっえっ。何。どうすればいいのこういう場合。

「――――もう準備万端ですのねぇ」

 あっ。何か変な事言ってる私。緊張し過ぎて頭働いてないのね。

 ……そこは冷静に分析しなくていいのよ?

今思い返してみれば、そこで私は完全に逃げる機会を失ってしまったのだ。もう意地なんて張らずに、処女だと言えば良かった。でもいい年をして処女何て知られたら、彼はもうこれ以上無い位笑って、馬鹿にするだろう。そんな嫌な確信だけは有ったものだから、つい言いそびれたまま、ズルズルと関係を持ってしまったのだ。

 …………下手なら良かったのに。

 あれ私何喋ってたっけ? そんな風に記憶がちょっと曖昧になる位には、その、色々と、あれだった。そもそも普段の態度が尊大な割に、最中だけ妙に優しいのが駄目なのだ。何が駄目なのか良く分からないけど駄目だ。……あの人は最低の屑なのだから。情なんか無くても、誰だって抱けるのだから。実の妹ですら、彼に取ってはストレスの捌け口に過ぎない。……そう。つまりは、私に昔していた小さな嫌がらせと悪意が、形を変えただけだ。より、他人から非難されない方法に、切り替わった、だけ。

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