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本当にしょうもない北風と太陽

 きた大耀たいようは、普段は仲の良い大学生なのですが、些細なことで喧嘩になり、話が迷走してどちらが童貞を先に卒業できるかという言い争いに発展してしまいました。


 そこで、朔は、海水浴場で女性にナンパして、卒業までこぎ着けた方が勝ちと持ちかけました。大耀はそういう類いのものは苦手でしたが、一度言い出したら聞かない朔に渋々付き合うことにしました。童貞は卒業できなくとも、適当に朔に花を持たせれば満足するだろうと思ったのです。


 朔は目鼻立ちが整った「イケメン」ですが、オラオラ系で、自分が格好いいということを自覚しています。普段の私服はビジュアル系バンドを意識して、革ジャンや革靴を履き、銀のアクセサリーをつけるというちょっと自意識過剰な男です。


 一方の大耀は、イケメンとは言えないものの、人を惹き付ける笑顔とガツガツしない優しさが魅力で、普段の私服は服装も紺色のセーターに水色のシャツ、細めのチノパンという落ち着いた格好です。


 早速、二人は次の日の土曜日、海水浴場に行き、二人でペアを組んで女性をナンパすることになりました。


「お姉さん達、二人組?」

 イケメンの朔が早速、美人の二人組に声を掛けます。「イケメン」は最強、最初は警戒していた二人も、朔が昼食をごちそうすると言うと、それなら、とナンパに成功しました。


 四人は近くの海の家に入りましたが、朔は女の子の要望も聞かずに勝手にメニューを注文し始めてしまい、女の子二人組は引きつった顔で朔を見ました。それを見た大耀はすかさず立ち上がり、女の子が気分を害さないように、こっそり食後にトロピカルジュースを持ってくるように店員にオーダーを入れ、セルフサービスのおしぼりと水を手渡してあげました。最初は朔に関心が偏っていた二人組も、おしぼりをくれた大耀のさりげない気遣いに引きつった顔に笑みが戻りました。


 程なくして、料理が来ると、四人はそれぞれ自己紹介をし、そしてビールで乾杯をして食べ始めました。普通なら、ここは皆で和気藹々と盛り上がるところですが、始まったのは、朔の独演会です。自分の家がお金持ちで、良い大学に通っていて、成績がどうたら、ということを延々と話し続けました。朔は自分が凄い人間であることを証明すれば、女の子はきっと自分についてくるだろうと思っていたのです。


 しかし、そんな朔の独演会に女の子二人は引きつる以上にドン引きしてしまい、場は気まずいムードになってしまいました。ようやく独演会が終わり、どや顔で大耀を見た朔ですが、大耀は呆れ返ってものも言えません。


 そこで、場を持ち直すために、二人組の自己紹介から上手く話を引き出し、聞き役に徹することにしました。二人のうちの一人は美容師で、もう一人は保育士ということでした。二人はいつからの付き合いなのか、どの辺りに住んでいるのか、趣味は何か、色々な話を引き出すと、いつの間にか三人で話が盛り上がってしまい、朔はふてくされて一人ビールを飲み始めてしまいました。


 ダメ押しになったのは、食後のトロピカルジュースです。二人のところにトロピカルジュースが運ばれてくると、「美味しそう!」と喜んで目を輝かせました。そして、大耀の気遣いだと分かると、すっかり大耀になびいてしまいました。朔はそれに対して、「俺ならあの一番高いやつ、プレゼントできるのにな」とメニューを眺めて呟き、二人組は興ざめした眼差しで朔を見つめました。


 最後、朔と大耀が食事の代金を支払い、これからどうするか、という時、二人は「本当にごちそうになってしまってすみません。ありがとうございました」と言って、黙ってしまいました。おごってもらった手前、そのまま立ち去るのはできないけれども、何となく二人がこれから四人で過ごすのを渋っている……そんな雰囲気を察知した大耀は、

「付き合ってくれてありがとう、楽しかったよ。せっかくだから、ラインだけでも交換しよう」と言って二人を帰してあげようとしました。朔はそれに対して、

「せっかくだから、もっと遊んでこうぜ!」と言いますが、大耀はスマートフォンを取り出してそそくさとライン交換を始めてしまったので、朔は不満げにそれに従い、ラインを交換しました。


 結局女の子二人組とはその場で別れてしまい、朔は大耀に不満をぶつけました。

「なんだよ、大耀。これからって時に。おごらされるだけおごらされて、帰すってどんなやつだよ」

 そんな朔に、大耀は、

「……お前、何も分かってないな」とため息を吐きました。


 朔はその日以来、女の子からラインが来るのをずっと待っていましたが、結局ラインは来ず、自分から連絡しても既読スルーされる日々が続きました。

 一方の大耀は、二人の女の子とラインのやりとりに成功し、さらに、保育士の女の子とは気が合ったので、二人でデートすることになりました。


 ナンパに乗り気でなかった大耀は、結果的に保育士の女の子と晴れて付き合うことになり、朔との勝負に勝って、晴れて大学を卒業しました。


 一方の朔は、残念なイケメンとして、なかなか彼女ができないまま、大学を卒業することになってしまいました。


 朔のように強引では、物事も女の子とのお付き合いも上手く行きません。大耀のように相手を気遣い、焦らないでじっくりと事を進める方が、物事も女の子とのお付き合いも上手く行くのです。


「何だよコレ、本当にしょうもない話だな!俺をコケにするな!イケメンは最強だぞ!」



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