ぼっちには分からないが、戦友との絆は凄いらしい
むしゃくしゃして書いた
後悔はしていない。
創造神カルデラルに愛された世界[フロンティア]。
この世界は少し特殊だ。
フロンティアに生息する動物、モンスター、人、おおよそ生物と言われる物達。
それらには、ステータスと呼ばれる加護が与えられており、更にランキングと呼ばれる神に定められた法が存在している
ステータスと言う加護は、生物の能力を底上げする、一種の補正システムだ。
全ての生物は産まれた時から、ステータスレベル1を与えられる。このレベル1と言うステータスは、生物として経験を積む事により上昇し、レベル2に成ればレベル1とは比べ物にならないほど、高い能力補正を受ける事が出来る。
故に、この世界を生きる物は、ことさらこのレベルを重んじる傾向がある。これはモンスターや動物達も当然として、人間達も同様だ。
文化的なコミュニティを作っていても、レベルが高ければなんでも正しい、と断言するような輩が結構多かったりするのだ。
因みに、このステータスは自身のであれば閲覧する事が出来る。
[ステータスオープン]と言葉にするか、考えるだけで、目の前にポンと半透明な文字盤が出て、操作及び閲覧が可能になるのだ。
一旦話は戻り、ランキングの存在について語ろう。
端的に言ってしまえば、ランキングとは神が戯れに作った法だ。
ランキングは文字通り世界における順位だ。
ランキングの分野は幅広く、例えば剣士のランキングとか、金持ちのランキングとか、モンスターの強さのランキングとか、数え切れない程存在しているし、新しく産まれたりしている。
あくまで神の戯れで作られたこのランキングは特になにか補正加護を得られる物では無いが、一種の箔付のような物で、上位を目指す物が多かったりする。
このランキングはステータスに記載されており、ステータスを閲覧出来る物であれば何時でも確認可能だ。
そんな加護と法が存在するフロンティア。
ステータスの補正を受けた物は強い事は当然として、個としての身体的能力は関係無いのか?と聞かれれば、答えはNOだ。
ステータスの補正は個としての身体的能力に依存する物になるのだ。元々の能力が高いモンスターや動物達などが、非力な人間と比べれば、レベル1に対する能力補正は確実にモンスターや動物達の方が上なのだ。
その差は最初は僅かではあるのだが、実に決定的な差であり、10レベルにも成ればそのステータス補正は倍以上の差が開いてしまう程だ。
その為、フロンティアでは人種と呼ばれる劣等種族は長年の間、強者達に虐げられてきた歴史があった。国を潰され、土地を荒らされ、餌にされた。
だが、何時までも虐げられていた訳では無い。
人種の中にも僅かながら存在していた、個としての強者である者達を中心に、あるコミュニティを作り上げていったのだ。
それが冒険者組合と呼ばれる世界組織、戦闘に特化した対人外専門の退治屋集団である。
彼等冒険者の台頭は、これまでの虐げられてきた人種の歴史に終止符を打つものだった。
これまでは蹂躙されるだけだった人種は対抗手段を得た。
冒険者達は幾つもの強大な敵を打ち倒し、人種の生存を大きく助けていった。
冒険者達が現れてから50年もすれば、人種の生存域は以前とは比べ物にならないほど拡がり、幾つもの国や文化が産まれた。
フロンティアを生きる人種にとって、冒険者は希望であり、唯一の力になっていったのだ。
さて、今回の物語はそんな屈強で勇敢で人種の希望な冒険者を管理する冒険者組合。
無数にある組合施設の一角、ガンカラ王国の王都デューイデルトロ支部に、少女が一人やって来た事で始まる。
身の丈程の長剣を背負い、蒼で統一された服を着こなす、栗毛色の髪を持つ琥珀色の目をした少女。
少女の名前はアルカディア。
ランキングトップにいる、神すら想定外の例外的な化物。
レベル上限値振り切り、個体能力値あんのうん。
言わずと知れた[世界最強]だ。
◇━◇
デューイデルトロ支部の前で、アルカディアは大きく深呼吸していた。
理由は簡単、緊張を解す為だ。
ぼっち歴イコール年齢と言っても過言でないアルカディアにとって、組合のような人混みのある場所は鬼門であった。
ついでに言うなら、街中とかも鬼門だった。基本的に人が10人以上いる所は、皆鬼門だった。
「大丈夫、大丈夫。怖くない、怖くない。」
アルカディアはブツブツと呪文のように呟く。
大丈夫と良いながら、頭の天辺から足の爪先まで一切隙が無い程に警戒をしており、怖くないと良いながら、地震を起こす程に震えていた。
その姿に大丈夫さは欠片も見えず、誰が見ても大丈夫では無かった。
心配して声を掛けようとする猛者も少なからずいたのだが、アルカディアにある程度近づくと、みな踵を返して引き下がっていった。
ある程度まで近づくと、みな気づくのだ。
これは、触れたらいけない何かであると。
一見すると可愛らしい少女だが、纏う雰囲気は異常の一言に尽きたのだ。それこそ、近づいただけで跡形もなく消されてしまいそうな、狂気と破壊的になまでの威圧感が渦を巻いているのだから。
気を張っているだけでこれだ。
流石に世界最強の名は伊達では無いと言う事なのだろう。
ブツブツと呟き始めてから、おおよそ一時間がたった頃。
漸くアルカディアは顔を上げた。
気持ちに一区切りついたのだ。
緊張しながらもアルカディアは冒険者組合の扉に手を掛けた。
そして開く前にもう一度ゆっくりと深呼吸を済ませ、「よしっ」と心で呟やいてから、そっと、その扉を押した。
カランカラン。
扉の内側についたベルが鳴る。
アルカディアは緊張から瞑った目をそっと開けた。
そこには歴戦の冒険者がいて、ベルの音に誰もが顔を向けている事だろう。
そして、勘違いした冒険者が絡んでくるに違いない。
自分で言うのも何だが、そこそこ顔は良い筈なのだから、厭らしい視線とかも向けられて、もしかしたらお尻とか触られるかも知れない。
はっきり言ってしまえば、そう言った連中はNOせんきゅーだが、無いよりはマシだと思っている自分もいた。
そんな淡い期待を胸に目を開いたアルカディアが見た物は、無人の舘だった。
「・・・・・ひょ?」
右を見た、いない。
左を見た、いない。
上も下も見て見たが、やはりいない。
「・・・・・?」
思わず外に出て、舘の入口に掛けてある看板を見に行った。
冒険者組合、そう書かれていたので、間違いでは無い。
アルカディアは首を捻った。
戸惑いながらも、アルカディアは舘の中に入り、玄関正面に備え付けられていたカウンターに向かう。
誰もいない事を不審に思いつつ、呼び鈴を鳴らす。
チリンチリン、と綺麗な音が無人の舘に響いていく。
すると、組合員がいると思われる控え室からドタドタと何か騒ぐ音が聞こえてきた。
アルカディアは舘の状態を考え、何かあったのかも知れないと思った。自分が知らないだけで、組合が御休だったのかも知れない。
そう思うと、アルカディアは急に申し訳ないような気がしてきた。
それから暫くドタドタと騒いだ控え室。
どれぐらいたったかは知らないが、不意に扉が開き、一人の女の子がやって来た。
プルプルと小動物のように震え、今にも倒れそうな女の子だ。
女の子はアルカディアの前まで来ると、小さくて可愛らしい口を開いた。
「あ、ああああ!あ、あのあの、何か、その、あの、ご、ご用、ご用う、ご用でしょうか!?」
アルカディアは思った。
きっとこの子は新人さんなのだろうと。
誰でも始めては怖くて緊張する物だ。私も同じ気持ちだから、よく分かると。
そんな仲間意識を勝手に感じたアルカディアは、この新人に精一杯優しくして上げようと、あわよくば友達になって貰おうと思った。
だからこそアルカディアは仲良く成りたい気持ちをアピールする為に、万国共通である友好の証[笑顔]を、一流娼婦の秘術[百万 金貨の笑顔]を越える物を目指し精一杯作って見せた笑顔だ。
「ひぃぃぃっ!!すいません!すいません!すいません、でし、でした!生きててご免なさい!です!!」
「ふぇ?!」
アルカディアの笑顔は女の子をこれ以上ない程、深く、深く謝罪させてしまった。
地面にめり込みそうな勢いで、これでもかと頭を下げられてしまったのだ。
すると、控え室から何人もの組合員が現れ、揃って頭を下げてきた。
「申し訳ありません!!」
「何卒!何卒!ご勘弁を!!」
「私がいけないです!私が!」
「この子はまだ勝手が分からない新人なのです!お許しを!」
「組合長の私が!いくじないのがいけないです!どうか!」
何故か凄く謝られたアルカディアは動揺した。
そして動揺するアルカディアに対し、女の子はボロボロと溢れる涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになっていた。更に、組合長の言葉が余程心に響いたのか、ただでさえ赤かった顔を更に赤くして鼻水をすすった。
「み、みなさんっ!わ!わたしっ」
「良いんだ!ソフィ!何も言うな!新人のお前に任せようと考えた、臆病な私が悪いのだ!なにも気にするな!後は私が責任をとる!すまん!愛しのオリーブ、可愛いシャルーラ、愚かな父さんを許してくれ。」
「「「「組合長!!」」」」
涙を浮かべた組合員達は、責任をとると叫んだ組合長の背中を見守り、震える女の子を下がらせる。
そして、覚悟を決めた、と言うような顔をした組合長がアルカディアの前に躍り出た。
「・・・・あ、アルカディア、様。その、何か不手際が御座いましたでしょうか?」
「ひょ?」
「お望みでしたらこの首を捧げます。御詫びに謝礼金もお支払いたします。ですから、どうか、この度は私一人の責として、お許し願いませんでしょうか!!組合員の者達には、二度と同じような失礼を働かせないように致しますので!どうか、どうか!私一人で!!」
アルカディアは、何故こんなにも謝られているのか分からない。
ただ、許さないとエライ事になりそうな気がした。
目の前にいる組合長が、今にも自殺しそうな勢いがそこにあったのだ。
「え、は、はい。ゆゆ、ゆ、許します。」
「おぉぉ!ありがき、ありがたき幸せで御座います!!アルカディア様!!」
「「「「組合長ーーーー!!!」」」」
アルカディアの目の前で、組合員の全員が組合長を囲み抱き締めた。みな一様に、泣き笑いを浮かべている。
アルカディアはその光景を羨ましそうに暫く眺めていたが、不意に当初の目的を思いだして声を掛けた。
「あのーーー・・・・、その、素材の買い取りをおね、お願い、したいのですけど・・・・?」
「「「「はい!!!!喜んで!!!!!」」」」
◇━◇
事はアルカディアが冒険者組合の前でブツブツと呟いていた時まで戻る。
いつも通り平和な組合に、冒険者からある言葉をかけられた。
「組合の前に、世界最強がいるぞ。」
何気なくかけられたその言葉に、組合員達は特に何も思わず「そうですか」と、気軽に言葉を受け取った。
この組合には世界最強ことアルカディアは良く来ていたし、別段変わった事では無かったからだ。
ただ、何時はもっと人が少ない時間を見計らってくるので、それを不思議に思う者もチラホラいたが、最終的にはそんな事もあるだろうと楽観視して誰も何も言わずに置いた。
所が、状況は悪い方へと刻々と進んでいった。
何故か組合の前から動こうとしないアルカディア。
入ってくるでもなく、去る訳でも無い。
ただ、そこにいるのだ。
そして、外からやってくる冒険者達から数分事に告げられるアルカディアの状態は、組合員達を真っ青にさせるには十分な話だったのだ。
いわく、目が据わっている。
いわく、組合を睨んでいる。
いわく、殺気が凄い出ている。
いわく、狂気と破滅がランバダ踊ってる。
いわく、怒りに震えている。
いわく、得体の知れない言語を呟いている。
と、精神状態が正常とは言いがたいアルカディアが、組合の前に居座っているのだ、とか言うのだ。
最初、聞き耳を立てていた冒険者達は笑ってその話を酒の肴にして盛り上がっていたが、時間が進むごとにその表情失われ、険しさだけが増していった。
アルカディアの状態に冒険者は組合を疑いだした。
口々に「組合が何かしたのではないか?」「組合が怒らせたんじゃないか?」と言い始めたのだ。
それを聞いていた組合員に勿論心当たりは無い。
当たり前だ。実際、アルカディアは怒っていた訳でも無いし、なにかされた訳でも無いのだから。
だが、そんな事を知らない組合員達は理由も分からずに戦々恐々するしかなかった。顔色も真っ青を通り越し、真っ白になる。
憔悴し始めた組合員を見て、冒険者達は勝手に確信した。
こいつら、あの化物に睨まれるような事をしたのだと。
そこからは早かった。
冒険者達は巻き込まれたら叶わないと、こぞって裏口から逃げ出したのだ。組合員を口説いていた優男も、飲んで浮かれていた髭男も、喧嘩の最中だった男達も、みな合図でもあったかのように一斉にだ。
そこには、アルカディアに次ぐと言われるS級冒険者サルの姿や、名だたる高ランク冒険者達の姿もあった。
だが、誰一人として、アルカディアを止めようとか、間に入ってやろうとか、ボランティア精神に溢れた者はおらず、誰もがアルカディアに恐怖して逃げた。
残されたのは、冒険者組合で働く組合員だけ。
本当は彼等も逃げ出したかったが、もし最悪、アルカディアが組合員に文句があった場合に、怒りを向ける対象がいなくなっていれば、行き場を失った暴力装置が街にも被害を及ぼすかもしれないと考えて動けなかった。
腐っても誇りある冒険者組合。
街に被害が及ぶ可能性のある事は出来なかったのだ。
覚悟を決めた組合員だったが、アルカディアの前に出ることは誰もが嫌がった。気分でドラゴンを殺すと言われる人物が怒っているかもしれないのだ。いける訳がなかった。
その為、アルカディアが鳴らすベルを聞いても、誰も出て行けなかった。
皆がみな、扉から出来るだけ引き下がり、出ていく事を全力で拒否した。
だが、何時までもそうしていられない事は、そこにいる全員が分かっていたので、あるもの祈り、あるものは母の名前を呼び、あるものは愛する者の名前を呟いた。
そうして、組合員の緊張がマックスまで高まった所で、一人の英雄が産まれた。
「わ、わ、私が、いきまふ。」
名乗りを上げたのはソフィと言う、今年の春から組合員になった女の子だった。
「ソフィ!止めろ!お前、録に受付も出来ない癖にっ、」
「そうよ!ソフィちゃんがいく事無いわ!他にも」
「そうだソフィ!お前には病気のお母さんだっているんだろ!ここはっ」
こぞって反対する組合員。
だが、ソフィの意思は固く先程の発言を撤回しようとはしない。
「でも、わ、私が、一番、か、替えがききますので!そ、それに、私に何かあったら、その、保険!お、おりますよね!」
組合員達は絶句した。
ここにいる誰よりも、ソフィは死ぬかもしれない現実を見据えて行動しようとしていたのだ。
ソフィはみなの制止を振り切り、控え室を後にした。
沈黙。
残された者に許された事は、ただそれだけだった。
誰もかもが口を告ぐみ、誰もが目を合わさなかった。
その沈黙が彼等の心を良く現している事を、彼等は理解していた。
だからこそ、誰も何も言えず、誰も目を合わせられなかった。
見捨てたのだ。
震える女の子を。
ミスも多かった。
覚えも悪かった。
何時までもたっても新人のままだった。
けれど、誰よりも一所懸命で、母親思いの優しい良い子だった。
それをここにいる組合員達は、差し出したのだ。
怒れる世界最強に。
「おれ━━」
重い空気に耐えきれなかった、誰かの情けない声があがった時。
悲鳴のような声が広間からあがった。
それは自分達が見捨てた、女の子の声だった。
その瞬間、組合員達の止まっていた時が動き出した。
誰とも知れず、組合員達は駆け出していたのだ。
心配から、後悔から、親愛から。
理由は様々だったが、彼等は漸くその一歩を踏み出した。
組合員のひとりとして、世界最強と向かい合う事に。
◇━◇
こうして、一つの驚異に立ち向かった組合員達は固い絆で結ばれる事になった。
これ以降、この組合での問題対処能力は飛躍的にあがり、他の組合には無い程の結束力も見せたりもした。
数年後、組合本部からその仕事ぶりを認められ、賞を得る事になり。土壇場で男を見せた組合長は、みなの後押しもありエリート街道まっしぐらの本部へ転勤したりと、他にも様々な事がおこる事になったのだが、まぁ、それは割愛しておこう。
なにせ、アルカディアにとっては、何時もの日常となんら変わらない、ぼっちな一日になってしまったのだから。
ソフィ
♀
身長 145㎝
体重 38㎏
趣味 裁縫 お料理
特技 たま結び
チャームポイント 馬鹿真面目