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小高い丘の木の下で

作者: 鈴風
掲載日:2015/10/28

 

 ある日、男はふと思いました。


 もう疲れたと。


 なんだか今こうして生きていることに、疲れたと。




 ヒゲの生えているアゴを撫でながら、男はボーッとしていました。


 目の前にあるのは、小高い丘の上にある一本の木。


 そこには、色々な人たちが集まります。


 5歳ほどの子供たちが、楽しそうに木の周りを走り回ります。

 ころんで怪我をしても、泣くこともなく笑っています。


 男はそれを見て、元気だなあと思いました。


 年少ほどの子供が、ひとり木の下で絵本を読んでいます。

 もっと楽しいことをすればいいのに、子供はずっと絵本を読んでいます。


 男はそれを見て、寂しそうだなあと思いました。


 まだまだ幼い子供が、ひとり木に吊るされたブランコで遊んでいます。

 ひとりだからそんなに漕げないのか、ブラブラと揺れています。


 男はそれを見て、また寂しそうだなあと思いました。


 今度は、二十近くの男女が木の下で愛を誓い合っています。

 男は笑顔で、また女の方も笑顔です。


 男はそれを見て、幸せそうだなあと思いました。


 白髪の老夫婦が、木の下でお茶を飲みあっています。

 時折空を見上げては、ふたりして笑います。


 男はそれを見て、また幸せそうだなあと思いました。


 この木には、色々な人の思いがあります。

 アゴを撫でるのをやめて、男は空を見つめて考えます。

 これからどうしよう、と。


 そして決めます。


 男は、街のお店に出向くと、必要なモノをひとつだけ買ってお店から出ました。


 ロープ。


 向かう場所は、好きだったあの丘の木です。

 時間は昼頃で、まだ数人の子供たちが木の下で賑わっています。


 木に着くと男は、背の低い木に登り、頑丈そうな枝にロープを結びます。

 ほどけないように何度も、何度もキツく縛り直しました。


 枝に乗ると、自身の首にロープの先端を結びます。

 これもほどけないように、何度も何度も結びます。


 やがて準備を終わらせた頃、遊んでいた子供たちが足元に集まり出しました。


 子供たちは、不思議そうに男を見つめます。


 男も、不思議そうに見つめます。


 しばらくして、子供たちは木の下から離れて行きました。

 また遠くで遊びはじめます。


 枝の上から、男はその景色を眺めます。


 時間は過ぎて、すっかり日も暮れはじめます。

 丘にはほとんど、誰もいません。

 唯一、さっきの子供たちがまだ遊んでいる程度です。


 そんな子供たちも、暗くなってきたからか、家へ帰っていきます。

 お母さんやお父さんのもとに帰っていきます。


 枝に乗り、最後まで子供たちを見届けてから、男は枝から落ちました。




 翌日。

 街の外れにある丘の上、そこにある木で人が死んでいました。

 テレビでもひっそりと伝えられ、今では立ち入り禁止になっています。


 子供たちは、街の空き地で遊びはじめました。


 家で絵本を読みはじめました。


 空き地にあるブランコに乗りはじめました。


 結婚した男女は、仲良く暮らしはじめました。


 仲の良い夫婦は、ふたりで一緒に眠りました。




 男は、あの木が好きでした。

 色々な思いで溢れている、あの木が大好きでした。


 そして今でも、ずっとずっとあの木のことが好きなのです。



だいぶ前に「不思議な話(?)」みたいなテーマをお題に数人で書く機会があり、その時に書かせてもらったものです。

あまりこういった童話じみた文は苦手なのですが、まぁ童話みたいなノリの話なのでそんな文章で書いてみました。

ジャンルが文学ですが、ただ"その他"にはしたくなかったので一番それっぽいのを設定しただけです。きっと文学じゃないです。


※……と言っていましたが、ジャンル構成の変更に伴い"その他"にさせてもらいました。

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