小高い丘の木の下で
ある日、男はふと思いました。
もう疲れたと。
なんだか今こうして生きていることに、疲れたと。
ヒゲの生えているアゴを撫でながら、男はボーッとしていました。
目の前にあるのは、小高い丘の上にある一本の木。
そこには、色々な人たちが集まります。
5歳ほどの子供たちが、楽しそうに木の周りを走り回ります。
ころんで怪我をしても、泣くこともなく笑っています。
男はそれを見て、元気だなあと思いました。
年少ほどの子供が、ひとり木の下で絵本を読んでいます。
もっと楽しいことをすればいいのに、子供はずっと絵本を読んでいます。
男はそれを見て、寂しそうだなあと思いました。
まだまだ幼い子供が、ひとり木に吊るされたブランコで遊んでいます。
ひとりだからそんなに漕げないのか、ブラブラと揺れています。
男はそれを見て、また寂しそうだなあと思いました。
今度は、二十近くの男女が木の下で愛を誓い合っています。
男は笑顔で、また女の方も笑顔です。
男はそれを見て、幸せそうだなあと思いました。
白髪の老夫婦が、木の下でお茶を飲みあっています。
時折空を見上げては、ふたりして笑います。
男はそれを見て、また幸せそうだなあと思いました。
この木には、色々な人の思いがあります。
アゴを撫でるのをやめて、男は空を見つめて考えます。
これからどうしよう、と。
そして決めます。
男は、街のお店に出向くと、必要なモノをひとつだけ買ってお店から出ました。
ロープ。
向かう場所は、好きだったあの丘の木です。
時間は昼頃で、まだ数人の子供たちが木の下で賑わっています。
木に着くと男は、背の低い木に登り、頑丈そうな枝にロープを結びます。
ほどけないように何度も、何度もキツく縛り直しました。
枝に乗ると、自身の首にロープの先端を結びます。
これもほどけないように、何度も何度も結びます。
やがて準備を終わらせた頃、遊んでいた子供たちが足元に集まり出しました。
子供たちは、不思議そうに男を見つめます。
男も、不思議そうに見つめます。
しばらくして、子供たちは木の下から離れて行きました。
また遠くで遊びはじめます。
枝の上から、男はその景色を眺めます。
時間は過ぎて、すっかり日も暮れはじめます。
丘にはほとんど、誰もいません。
唯一、さっきの子供たちがまだ遊んでいる程度です。
そんな子供たちも、暗くなってきたからか、家へ帰っていきます。
お母さんやお父さんのもとに帰っていきます。
枝に乗り、最後まで子供たちを見届けてから、男は枝から落ちました。
翌日。
街の外れにある丘の上、そこにある木で人が死んでいました。
テレビでもひっそりと伝えられ、今では立ち入り禁止になっています。
子供たちは、街の空き地で遊びはじめました。
家で絵本を読みはじめました。
空き地にあるブランコに乗りはじめました。
結婚した男女は、仲良く暮らしはじめました。
仲の良い夫婦は、ふたりで一緒に眠りました。
男は、あの木が好きでした。
色々な思いで溢れている、あの木が大好きでした。
そして今でも、ずっとずっとあの木のことが好きなのです。
だいぶ前に「不思議な話(?)」みたいなテーマをお題に数人で書く機会があり、その時に書かせてもらったものです。
あまりこういった童話じみた文は苦手なのですが、まぁ童話みたいなノリの話なのでそんな文章で書いてみました。
ジャンルが文学ですが、ただ"その他"にはしたくなかったので一番それっぽいのを設定しただけです。きっと文学じゃないです。
※……と言っていましたが、ジャンル構成の変更に伴い"その他"にさせてもらいました。




